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王立アセス学園

「えー。であるからにしてー、諸君等の更なる向上に期待するとともに、常に感謝心を忘れず献身的な働きをすることを求めます。」





「魔法科主任、リジド先生ありがとうございました。以上で、。黎明暦2504年度入学式、合わせて始業式を閉式します。これから、新入生以外の生徒には、本人のクラス番号と教室までの地図が書かれた書類を魔法にて配布します。受け取った生徒から順に退室してください。」




ざわざわざわ…。


長かった式も終わり、ホール全体から緊張感が抜ける。新入生の多くは、未だ姿勢が崩せずにいる。そういう俺も、同様に姿勢を崩せずにいた。ただ、それは新しい生活への戸惑いなどではなく。





ーどうしよう。



ちらりと、隣を向く。そこには、同じく固まったままのユールがいて。(彼女の場合、今までにない経験ゆえに、ただ緊張しているからだけのようだが。)じっと、目の前だけをみつめている。



ーユールと話をできる状況だったなら…。



そう思い、うなだれる。



俺が、なぜ動けないのか。それは、ホール壇上近くからずっとこちらを見ている人の所為である。一般に、生徒会長と言われる人の。

この時ばかりは、自分の視力の良さを恨むばかりだった。














話は遡り、式の数時間前。

場所は理事長室でのことだった。








俺とユールはそれぞれ理事長に呼ばれていた。ユールが理事長との対話を終わり、部屋で待機していた俺を呼びに来た。


コンコン。


「レイナー、次、あなたの番よ。」


「あぁ、今行くよ。」


理事長と会うわけだ、任務の話もあるだろうし身だしなみを整える。

新しく新調した靴を履き、扉を開ける。


「キャッ。」


「あ、ごめん。ユール。もう、部屋に戻ったとばかりっ。」


扉を勢いよく開けすぎたようで、ユールの額に当たったらしい。少し涙になりながら、俺を非難するような目で見てくる。


「だから、ごめんってば、ユール。」


「なんで…」


「へ…?」


「なんで…なんでしっかり身だしなみ整えちゃってるの!?」


「へ…?」


俺は、気の抜けた顔をしてしまっているだろう。いや、でも、それは当たり前のことで、ユールこそなにを言っているのかと思う。


「私がなんで、わざわざ、部屋の外で待っていたか分かる!?」


「…。んー、寂しかったとか?」


なんちゃってー、アハハと軽く笑う。

気楽な冗談なもんだったから、ユールがそんな顔を真っ赤にするなんて思っても見なかった。


「わ、私は、そういうのじゃなくて!!あなたが、理事長に会いに行くのに、失礼がないようにしてあげようと思ってたのっ!それなのに、あなたが、あまりに出来てるから!」



「それ、褒めてる、のかな?」


「褒めてるけど、褒めてないわよ!」


ツンと、顔を背けてしまうユール。

そんな彼女を

深くにも可愛いと思ってしまった。



「まあ、そろそろ行くよ。」


「…帰ってきたら、何を話したか聞かせて頂戴ね?」



ジト目でそういうユール。



「その時は、ユールの話も聞かせて欲しいね。是非とも。」


「い、いいわよっ!」



それじゃあ、といい寮の廊下を抜けて行く。

ただ、話をする約束をしただけなのに、あんなに喜ぶとは思ってもみなかった。

箱入り娘が始めて外の世界に出て来ているのだ、まだ不安や緊張が拭いきれてず、ああなるのも当然と言えば当然なのだろう。


「サポートしなくちゃな…。」


あくまで、任務だという事を自身に言い聞かせた。










「失礼します。レイナ=ヘイセスト=ティールです。理事長に面会に参りました。」


「どつぞ。」



扉の奥から柔らかい声が聞こえた。

それと共に、並々ならぬ圧力、これは、ある種の戦場を戦い抜いて来た者にしか分からぬものであるが、それを、はっきりと感じとった。


ーこの人も、"そういう"類の人か。




「やあ。待っていたよ。レイナくん。君の噂はかねがね。王系ギルド所属、元暗部"銀の調律"。もしくは、"八罪の王"と言った方が良かったかな?」



「後者の呼び名は好きじゃありませんので。」



「ハハハ、失礼だったかな?でも、その名は二年前の勲章だと聞いたけど?」


「これは、勲章なんかじゃ、ありません。これは…、その名通り、罪を背負う、呼び名…です。」


「ふむ。まあ、その解釈を否定する気はないけどね。なんせ、今までの考えを、一つ、覆したのだから。」



そう、この力は、本来人が手にする物ではなかった。人を破滅へと導く七つの大罪。犠牲(いけにえ)と呼ばれる大罪の保持者達を、すべて手中に収めて、贖罪をもたらしてしまう神、いや、悪魔の力。


「でも、私は、君に与えられた、救世の力だと思うけどね。」



理事長は、その美しい顔に笑顔を貼り付け、何かを諭すようにそう言った。

言っておくが、この人は女だ。それも、まだ若い。言葉使いが、やや男性的なだけで。


「それこそ、救世なんて、俺に与えられた"罰"ですよ。」



はあ、と肩を落とす。



「まあ、君の事情を深く知っている私ではないからね。ともかく、今現在の話をしようじゃないか。そう、王女護衛の件について…ね。なに、そんな怖い顔をするな。実は、先日連絡が入ってね。そう、君が思っている通り、今ではギルド長をやっている奴からさ。奴とは、古い繋がりなのでね。」



ーこの人が、ギルド長と。


「まあ、古い繋がりと言っても、ただの同級生で、昔の戦友だよ。」



「多分、それ十分な仲ですよねえ!?」


ーん、でも年齢的に、どうなんだ?依然、一度だけギルド長とあった時、容姿は見る事が出来なかったものの、もうかれこれ50年はギルド長をやっているはずだが。


「私の容姿に疑問があるのだろう?至極当然な疑問ではあるが、女性に年齢を聞くのは不躾というものだよ?」



「でも、怪しいことに違いはありませんよね?」


「なーに、少し魔法の副作用でこうなっただけさ。もちろん、奴もね。」

これで、疑問は晴れたろう?

そう言って、またにこやかに笑う。



「それよりも、本件について議論を尽くしておこう。君も、そのつもりだろう?」



「ええ、それじゃあ…」














「…では、これ位にしておこう。学園側としても、君と王女様ができるだけ近くに入れるよう配慮していくさ。」



「ありがとうございます。では、これで…」



「あっ、待ってくれ。まだ、君に紹介しておかなくてはいけない人がいてね。」


「はぁ…どなたでしょう?」


「口で言うより、実際にあってくれた方が早いと思ってね。」


理事長はそう言うやいなや、指を鳴らし、この部屋全体を覆っていた結界を取り払った。恐らく、遮音結界の類であろう。


「待たせて悪かったね。入ってきてくれ。」


理事長は、扉の外にいる人物に向けて声を発する。

この魔力量からするに、相手は学生であろう。



「失礼します。」


扉の奥から声が聞こえる、女性であることは分かった。

ドアノブがガチャリと音をたて、扉が開いて行く。

そしてー、




「えっ!?」


















「はぁ…」


思わず溜息が出てしまう。

理事長の突拍子もない言動は、今に始まったことではないが、その都度尻拭い、収拾をはかってきたのは生徒会であり、自分は他でもないその会長なのだ。疲れで嘆息するのも致し方がないだろう。


「全く、今度はなんだというのだ…」


思わず頭を抱えてしまう。

入学式の始まる2時間前だというのに呼び出しなんて、私の立場をあの人は理解しているのだろうか?

昨年の舞踏会に学園祭、その他諸々の行事にとんでもないイベントを持ち込んできた理事長である。

入学式に何かよからぬ事を…。




「はは、まさか、儀式なのにそんなことはないな。」

考えすぎだろうと自分を諌める。




そんなことを考えているうちに理事長室の前にきた。

面談中、との回覧が出ているのでまだ誰かと話しているのだろう。

人を呼び出して置いて時間を守らないなんて、非常識というか理事長らしいというか。


























とは言っても長すぎだろう。

もう、かれこれ三十分はたっている。

それに加え、中の話は聞こえない。

結界かなにかの類だろうが、話の進捗状況が分からずにその終わりを待つのは、なかなかに気力が削がれることだ。

好い加減に、私の堪忍袋の緒が切れる、まさにその時だった。



「待たせて悪かったね。入ってきてくれ。」




突然、中から理事長の声が聞こえ、それと共に入室を促す言葉が発せられた。

私は、文句の一つや二つ、ぶつけてやろうと意気揚々と扉を開けた。




「失礼します。」



しかし、そこには、私の怒りなど何処かへ消えてしまうほどの衝撃が存在していて、恐らく、私が発した最初の言葉は



「えっ!?」






だったはずだ。



















そこには、私が一年と半年、会いたいと願い、その願いを叶えさてくれなかった、本人がいた。


なぜ?どうして?いったいなにがー。


頭の中を様々な言葉が行き交う。

それでも、なんとか思考を落ち着かせ、一つ一つの疑問を解消させていくことにする。



「なぜ、あなたが、ここに?」


まず私は、とにかく現状把握に務めることにしたのだった。



「ええと、あなたって、俺の事、かな?っていうか、どちら様でしょうか?まだ、この学園に来たばかりでー」



私のことが、分からないだと…?

確かに、少しの間ではあったが、共に旅をした仲だというのに。

あぁ!なんなんだ、この腹立たしさは!



「覚えてないのか!?一年半だぞっ!私は、片時もあなたのことを忘れた事はなかったというのに!!」



文字面だけ読むとなんとも恥ずかしいセリフだが、そんなことも今はおかいましなのだろう。

女性の迫力がそれを物語っている。



「ええと、一年半って、なにか、…って、えええええ!!まさか、あの時の!えっ、でも、そんな。」



「ようやく思い出したか!その通り、私は、あなたに逃げられた、全くもって誰が見ても世間一般でいうとこの可哀想な乙女だ!」



「いやいやいや、逃げたって…。街につくまではちゃんと一緒にいたし、俺も忙しかったというか。」



「問答無用だ!私がどれだけ悲しい思いをしたと思っている!少なくとも、私は旅の間、君の世話をしてあげたと自負している!それなのに、あなたは、私になにも言わず何処かへ消えてしまった!これを裏切りと言わなくてなんと言う!」



「裏切りって、そんな大袈裟な。でも、用事が舞い込んで来たから仕方ない部分もあったのんだよ。」



「それならば、置き手紙くらい残してくれてもよかったではないか!あの日の朝、私は君のことを探すために駆けずり回ったのだぞ!それなのに、君はー。」





「はいはーい、そこまで。ここは私の部屋だよ?もう少し静か~にしてくれ。それにしても、君たちが知り合いだったとはね。ちょうど良かったよ、会長さん、君に学園の案内を頼みたくてね。続きはその時にでもやってくれ。」




「いや、知り合いっていうか。」




ーいいから、いいから。

そう言って理事長は、二人の背中を押し、扉の外へと向かわせる。


「それじゃあ、二人とも仲良くね。ププ。」




ガチャン。




扉の閉まる音が場を支配する。




「あ、あのー。」



「ルーシアだ。」



「へっ?」



「ルーシア=レイゲネウス。私の名だ。」



「あっ、ああ。レイナです。レイナ=ヘイセスト=ティール。これから宜しくお願いします。ルーシア先輩。」



「ようやくだ…。ようやく君の名を知ることができた。」



「ん、?なにか言いました?」



「なんでもない!さあいくぞ!あの時のことみっちり絞ってやるからな!」


「あはは、できれば、学園案内をして欲しいな〜なんて…」



「もちろんだ。しかし、本題を忘れてもらっては困るからな。」



「どちらかというと、案内が本題なんじゃ…」



「つべこべ言うな。ほら、ついて来い。」


そう言って歩きだす先輩。

慌てて後を追いかけていく。

もちろん、いつもの溜息は忘れずに。



「ハァ。」




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