新しい生活の始まりに
「いらっしゃーい。待ってたよおー!」
キチガイに出会った。
先程出会った彼女、ユール共に手続きをするため、俺たちは寮監室へと向かった。
それまでの間、彼女から立て続けにされる質問、それらに答えるのが大変だった。
彼女は何かはしゃいでいるようで、その気分に当てられた俺も同じく、学生らしく盛り上がったいた。そして、話しているうちにお互いに口調も柔らかくなっていき、
ー何処から来たの?
オアシスから少し離れたところからだけど、ユールは?
ーわっ、私は、…王城の城下町、よ。
へえ、じゃあ、ユールも身分は結構高いんだな。
ーあ、いえ、それ程でもないのよね。でも、オアシスの領土って、名君で有名なヘイシスト領…よね?ん?もしかして、ヘイシストさんのご家族?
あ、いや、まあ。身内ってほどでもないけど、親族だよ。一度あった事はあるらしいけど、もう覚えてないな。
ーああいう殿方は、いいわあ。ふふ。
ユールが、自分の領土の事を知っていた事に驚き、少し嬉しかったわけだが、彼女の立場を考えると、知っていて至極当然のことなのかという結論に至った。
それは、さておき。
目の前にどう見ても30くらいの男性がいる。
寮監って学生のはずだよね?
でも、寮監室にいるのは寮監。この人が寮監室で待ってたということは、イコールこの人が寮監であるということになる。三段論法的に。
「あの…。」
「なんだい?そこの髪から真っ黒イケメンくん。」
少し、イラっとする人だということは分かった。
「レイナです。明日から編入予定の。こっちは、ユーノス。同じく編入生です。」
俺の紹介に合わせてユールが慌てて頭を下げる。
目の前の男性は、深々と頷き、ニコニコしている。そんな顔するなら、その無精髭処理しろ。
「あんたが、第一寮、寮監、なんですか?」
隣にいるユールが、まさかそんな、とすごい勢いでこちらを向いて来た。
ま、まあ、俺も、まさかそんなことー。
「Yes。ウェルカム!俺が、寮監。21歳。名前は、…。寮監って呼んでくれ!」
あってしまった。
ってか、21かよ。
******
516号室。
そこが、これから俺が過ごす寮室になる。
普通寮室は2人部屋なのだが、ギルドが無理を言って1人にしてもらったらしい。
そのせいで、寮監室から出るときあの寮監に絡まれた。
ーうほー。VIPだねえー。やるぅー。
悪い人ではなさそうだ。
寮監室を出た後、先に学園に送って置いたそれぞれの荷物を受け取るため、一度ユールとは別れた。
そこで、自室となる部屋の番号を渡されたわけだが。
「遠いな。516」
この寮は部屋を円状に配置しているため、周り方によって部屋につく道のりが段違いに変わる。
恐らく俺は、ミスをしたようだ。
「ん。そろそろか。」
今通った520号室との位置関係からみると、どうやらこの廊下の角部屋が516号室の予感。
「ここ、か、って、え!?」
何に驚いたかというと、部屋がないとか、ドアが奇抜だったとか、そういうことではなくて。
「あら、隣の部屋だったのね?」
隣の方が、知り合いの人でよかったわー。というユール。
いやいや、そうじゃなくて。
事情を聞いたとこによると、
そう、彼女、ユールは515号室。
俺の角部屋と、ユールの折り曲がったところの角部屋。
先程別れたばかりの彼女と、隣人になってしまったわけだ。
ユールは、周り方間違えなかったのか。