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出会いは必然か、偶然か。

レイナは自分の家で荷造りをしていた。

明日から、護衛の任につくため、学園の寮に入らなければならない。

慣れ親しんだこの地も離れなければならないのかと思うと少し、さみしい。

河川が少ないアセス王国、その国内で唯一のオアシスと呼ばれているリジノ湖。

そこを中心に広がるリジノ領。

今では、領主のレイナの家名にちなみ、ヘイセスト領と呼ばれているが、それも全てレイナが名君としてあったためである。


ギルドでは、ある一定の役職や地位名称が与えられると同時に領土もあたえられる。

基本的に、ギルドの人事に関する査定は非常に厳しいため、領主となった者たちは名君がほとんどである。

しかし、ギルドと対を成すように貴族の領主というのも存在する。彼らは血縁的な支配を主とするため、中には権力を振りかざす者がいたりもする。その数も多くはないため、比較的アセス王国は民衆の支持は高い。

比較的という話だが、その他の国が治安が悪いということではない。

現在、国は五つに別れている。

ちょうど、四弁の花が咲いているのを想像して欲しい。

真ん中の丸い部分から、北西に一つ、北東に一つ、南西に一つ、南東に一つの国が派生している形だ。

北西にあるのが、ロソエ帝国。

国全体が寒冷な地で、特に極北の方は厳しい気候となっている。

帝政となっており、現帝王はカリスマ的存在で、質実剛健というもっぱらの噂だ。

北東にあるのが、カロル共和国。

現在、共和政をうたっている唯一の口だが、中身は半帝政であり、完全なる共和国とは言い難い。国益を追求する国というイメージが強い国だ。それが、良いか悪いかは賛否両論である。

南西にあるのが、イメネク連合国。

その名の通り、小さな諸国が結合して作られた国である。

一年を通し熱い国で、ロソエ帝国の人は住むことが出来ないくらいだという。

連合国であるゆえ、紛争が絶えないが、一応連合局長が長をつとめ、まとめている。

そして、南東にあるのが、我がアセス王国である。

一年を通し、温暖な地域で作物の収穫も豊富である。

一番の特徴は、全国五カ国を統括するギルドの本部がここアセス王国にあるということだ。

基本、ギルドは中立の立場にあるため軍事勢力の干渉は受けず与えずである。

もちろん、出身により国に対する愛情はあるが、一つの国におけるギルドの人員も均一に定められているため問題が生じた過去はない。

これら四カ国は、互いに陸では結ばれていないため、もっとも他国を訪れたい時には、真ん中にある教皇庁管轄リリア皇国を通らざるを得ない。

皇国に関しては、教皇とその地が全ての人の信仰の中心地である、ということしか一般には認識されていない。

いわゆるトップシークレットが多いわけだ。



二年間過ごしたこの地をしばらくの間開けておくのは気が引ける。もちろん、代役は自分の信頼する部下に任せたが。


荷物をまとめ終わり、新たな地へと出立する。今更、学園なんて…。


「ハァ」


溜息を吐き、あの後の会話を思い出す。



















「それで、何故、俺なんですか?」


書状をみたレイナは、人事決めを行うトップである目の前のエリスに疑問の眼差しを向けた。


エリスは、それまでの作業を止め、レイナを見つめて、少し逡巡した後、口を開いた。



「私にも、分からないの」


「え?」


思わぬ返答に硬直する。


「ギルド長からね、指名されたのよ。あなた」


なんでまた、と思い当たる節がないか省みるが、特別ピンとくるものもない。


「私にも、分からないけどね。恐らくは、王様の親バカが発端でしょうね。まあ、条件には適合してるからじゃない?お姫様とは同い年だし、その年齢でなら実力も群を抜いてるし、性格も破綻してないし、かわいいし」


きっともてるわよー、なんて他人事のようにいうエリス。いや、他人事だけどさ。


「ってことで、頑張って来なさい。"八罪の王"」


からかうように、そう言って手をふるエリス。



ギルドに忠誠を誓ってるゆえ、依頼を断る気は毛頭ないが。


「そっちの呼び名は、好きじゃないです。」



それだけ言い、部屋を後にしようとする。


「ヴィルト、いくよ。」


「う、うむ」


先ほどから怯えきっていったヴィルトは、ようやく開放されることに安心した様子である。


それではー、といいドアを開ける。


後ろから、ヴィルちゃーんまたねー、なんて聞こえるが、二人して聞こえていないことにした。




「ほんと…、頑張ってね。」


二人のいなくなった部屋で一人呟く。レイナに指名が来た理由。彼女は、その本当の理由に気づいていた。それをしたのが、ギルド長であるがゆえに。


「また、なにか始まるのね。」




彼女の不安げな表情が晴れることはなかった。

























******






今の私は、興奮と不安が入り混じったような感情に浸っている。

見たことのない、触れたことのない外の世界。

私は、ようやく私としての一歩を踏み出せる。











時は遡り、数週間前。




「どういうつもりですか?」


私は、目の前に出されているものの意味が分からなかった。

いや、その一枚の紙が意味するものは分かっている。

私が、分からないのは王である父が何故、その紙を持っているか、だ。



「簡単な話だよ、ユースティ。君を、学園に通わせると言っているんだ。学園の指定はこちらでさせてもらうけれど。もちろん、学年は17歳の者たちと同じにしてやるつもりだ。」


何を言っているのだろうか。

先ほどまで、頑なに拒んでいたのに、なぜ、どうして。



「不思議で仕方ない、という顔をしているな。ユースティ。」


「ええ。理由がわからなくて。」


そうだな、と呟いた父は。目の前のグラスに入った茶色の飲み物を一口含み、飲み込む。


私の顔をじっと見つめた後、また、その紙を私に差し出し。


「ユースティ。君は、恐ろしく母に似ている。それが、理由だよ。」


わかったような、わからないような、言い難い感覚を覚える。

それよりも、私は、学園という外の世界に出て行く事への喜びが大きく、その時はまたま深く考えることはなかった。


思い起こせば、この時から全てが始まっていたのかも知れない。




(学園の入学までには、後二ヶ月ありますし、今から荷物を買った方がいいかもしれませんね。いや、まずは友達を作るための準備をー。)





「ただし、条件がある」



様々な思案に想いを馳せている中



父の真剣な話が始まった。


そう思ってはいても、すっかりにやけてしまっていた顔を治そうとしてもなかなか戻らない。

なんとか、零れる笑みを抑えて、顔を引き締め、父の方を向く。


「条件、ですか?」




「そう、条件だ。一つ目、自分の身分を明かさないこと。二つ目、同年代の愛するべき友人を作ること。三つ目、己が信じるものを見つけることだ。」














時は移ろい、ここは学園前。




「愛するべき友人、ですか…。」


今まで、王城内でしか過ごしてこなかったため、同年代の友人と遊んだことなど数える程しかいない。


それも、名家のこどもたちであり、それが、ましてや一般の家となると…。



「…先が思いやられますね」


自分で考えておきながら、頭を抱えてしまう。


こんなことでは、ダメですね…。




顔を挙げれば、学園に入るための大きな門が目の前に立ちはだかっている。

今日は、新しく寮に入る生徒のための開放日の最終日である。

こんな日に学園に来るものはいないだろう。




自分一人でー。

大きく息を吸い込み、覚悟を決める。



「よしっ、いきまー。」

「すみません、そこのあなた。」



「…。」


「聞いてます?ちょっと、そこ通りたいんですけど。」



空気を読んでください。空気を!



いま、私が歩き出そうとしていたところでしょう!?




眉がピクピクッと動いているのが自分でも分かったが、相手が学園の関係者である可能性も非常に高いので、ここで大きな声をあげるわけにもいかない。

感情を押し殺し、平静な態度で後ろを振り向く。


「何か、私に御用でしょうか?」


先ほど私に話しかけて来た人の方を向く。

声からして、男性であることは分かっていた。



一体どのような人かと、そして、KYなのかと、初の一般の方との対面に緊張しつつも、ドキドキしながらゆっくりと姿を把握する。


「ああ、ええと…。君に用があるわけではないんですが。」



第一印象は、美しくもか弱い黒蝶。

その姿に自分を重ね合わせてしまったのも、今思えば当然だったのかもしれない。





男性にもかかわらず、きめ細やかな肌をしていて、黒く少し伸びた髪がその肌の白さを際立てている。瞳も黒く、口元まですっとした顔のいでたちは、美少年というに相応しい。

黒いコートに包まれた身体はすらっとしているが、しかし、鍛えらているのが分かる逞しさがある。

右手で大きなケースを引いていて、左手には地図を持っている。


「あの、聞いてます…?」


「わっ、すみません。何でしょう?」


実はこの時、見とれていたなんて、恥ずかしくて言えやしない。




「ええと、そこ、通らせてもらえますか?明日から、学園に通うことになって、今日までに寮に入らないといけなくて…。」



ハハハ、と苦笑いを浮かべている彼。

思わずその笑顔にときめく女性がいても、まったく不思議ではなかった。


「あなたも、学園に…?」


私がそう答えると、彼は驚いたようで。


「君も、今日入りに来た、生徒?」


「はい、そうです!高学魔術科二年に編入します。ユーノス=フィルと申します。よろしくお願いします。」


私は、用意した置いた偽名を使って自己紹介をした。使うのに騙している気がして、少し罪悪感があった。



「えっ…。ユーノス=フィルさん…ですか?」










******





「えっ…。ユーノス=フィルさん…ですか?」


長い旅路を終え、ようやく学園の前までたどり着き、これからここで過ごすというなんとも言い難い感慨を覚えながら、いざ門をくぐろうとして、足を止めた。

そこには、一人の女性がいて、何やらぶつぶつ呟いていたが、彼女も今期から編入する生徒だという。



しかし、目の前の人が、まさか自分の護衛対象だとは…。

事前に偽名の連絡はされていたものの、学園で初めて出会う人物との偶然におもわず驚いてしまった。彼女はそれを不振に思ったらしく、顔を覗き込んでくる。


「どこかで、お会いしたことがありましたっけ?」


彼女の吸い込まれるような碧眼が、俺の目を覗き込む

両手を後ろで組み、前のめりになったため、さらさらとした美しいブロンドのが、肩からぱさっと胸元に落ちる。服の上からでも分かるその膨らみ、その、肌のきめ細やかさ、風に運ばれる香り、彼女を構成する全てのものが美しかった。


「あっ、いえ。友人の名に似ていたものですから。」


そう、嘘をつく。ここで、ばれてしまっては、最初から任務失敗という事になる。そんな馬鹿な話はない。


彼女は、その返答に満足したのか、両手を胸の前で合わせ、笑顔を浮かべた。


「そうでしたか。なんだか、少し嬉しい気がしますね。では、同じ編入生として、これからよろしくお願いしますね。ええ…と。」



「レイナです。レイナ=ヘイセスト=ティール。これからよろしくお願いします。ユーノスさん。」


そう言って、手を差し出す。

友人になるなら早い方がいい、今回の任務は簡単にすみそうである。


「ユールって読んでください。レイナ。これから共に学ぶ仲間なのですから。」


彼女が、手を握り返してくる。その手の感触が想像以上に柔らかく、ずっと握っていたいと思ってしまったのは秘密である。





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