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いつもの様に。

「まったく、いつもいつも急すぎるのだっ!!仕事は事前連絡と、常識であろう!!」


グルルと低く唸りながら、恐ろしい形相であるのは何を隠そう我が相棒ヴィルトである。


「ま、まあ、所属も所属だし、そういった依頼が舞い込んでくるのは仕方がないところもあるんじゃない?」


ドウドウ、となだめるわけではないが、苦笑いしながら、その美しい毛並みを撫でる。

先程まで、二人?はいつも場所で鍛錬をしていたわけだが。


一段落つき、町に繰り出そうとしたところで<王系ギルド>から連絡が入ったのだ。

緊急案件につき至急帰還すること、と。


「あと少しで、久しく見ていない、人間の営む<ぱあてい>というものをじっくり観察できたというのに!」


ヴィルトは怒りをあらわに、大きな鼻息をした。

その言葉にレイナは、ふと疑問を感じ、今更ながらそれを相棒にぶつけた。


「でも、ヴィルトー。街にいくときはいつもピアスの中にいるけど。そこから、人の様子なんてはっきりとみえるの?」


ヴィルトは、その大きさや神々しさ、威圧、容貌から人目につくことを嫌う。


もちろん、日常生活では普段の大きさの10分の1程度にしていることがほとんどである。


いや、何を恐れているのかというと、正確に言うのならば、人目についてしまえば大変な騒ぎとなることが否めない。ヴィルトは、その阿鼻叫喚な光景をみたくないらしい。


意外にも繊細な彼は、傷つくのだという。そのため、街に入る前に必ず、召喚術と封印式をあわせた耳に付けたピアスに一度戻すのだ。



それなら、召喚する前の世界に戻せばいいのだが…。ヴィルトは、それを異様なまでに嫌がる。



「レイナ、我を見くびってもらっては困る。そこのピアスとやらの中にいても、我の見ることができる範囲はお主よりも広いぞ。」


鼻高々にそう誇るヴィルト。少しは機嫌が良くなったみたいで、少し安心する。



だんだんと目的の部屋に近づき、レイナは相棒を気づかい、


「もうそろそろつくし…、ピアスに戻る?」


今日一番の優しい声で尋ねた。






ギクッと、固まったヴィルトは、ぎこちなく機械のように顔だけをこちらに向けると。



「頼ー。」


む。と、最後までいうよりも早く。






「ヴィルちゃーん!!」


バンッと、ドアが開いたかと思うと、一つの人影が勢いそのままヴィルトに飛び付き、ガシッと抱きしめた。


そして、ワシャワシャと頭や背中、お腹までも手で撫でながら頬を擦り寄せる。



「や、やめろ!!おい、お前!我を誰だとっ!!やめろ!!そこを触るな!」


客観視すると、でかい狼と一人の女性が戯れてるいるようにしか見えない。

実際は、愛情は一方方向だが。


「ふっさふさあ~。あーん、かわいいーー…い?」


その女性の、襟をつまみ上げ、ヴィルトから離す。

女性は、恨めしそうにこちらを睨んで来る。

ハァ、と息を吐き、その女性に注意する。


「いつもいつも言ってるでしょう?ヴィルトへの過剰なスキンシップはよしてくださいって。」



ブー、と言いながら渋々離れる女性。

これで、王系ギルド本部戦闘人事部部長なのだ、一体どれだけの変人がここにいるのかと考えるだけで、ぞっとする。




さて、一方のヴィルトはというと。




ブルブルと震えながら、自分の後ろに隠れている。




もう一度、ハァと溜息する。





「なんの依頼なんです?受付で依頼を受理しようとしたら、エリス様のところへ行ってください、って言われてきたのですが。」


先ほどの受付嬢との会話を思い出す。

今までにないことのようで、少し困惑した様子であった。



「あぁー、それはね~。」


といい、デスクの上に置かれた書類の山から何かをがさごそと探している。




エリスと呼ばれたその女性。

髪はハーフアップにまとめ、ガサツな性格とは裏腹に、その綺麗な栗色の髪からは、しっかりと手入れされていることが見て取れる。

しなやかに伸びた肢体と、そのプロポーションはまさに大人の魅力そのものである。

年齢は…不詳だが、レイナは自分との関係から恐らく30近くだろうと推測している。





キッ!!


「今、何か失礼なこと考えてなかった?」



鋭い眼光で睨まれ、ハハハ、まさか、と乾いた笑いで答えながら、内心ビクビクしている。



「まあ、いいけど…。あっ、あったあった。」


一枚の書状を抜き出し、ほいっ、と投げて来る。


中身を確認しようと、糊付けされたところを破ろうとすると。


「それ、王様から直接依頼されたものだから大事に扱ってね。」


「あんた、今さっき投げてましたよねえええ!!」



「細かいことはいいじゃない、誰も見てないんだし?そんなことばっかに気を使ってると早く老けるわよ?」



「気を付けろって言ったのはどこのどいつでしたかねええ?」




ん?


「というか、勅命ですか!?」


今更になって、驚いてしまう。


勅命というのは、それほど重く、ごく稀にしか発布されないもの。

以前その旨が伝えられたのは、4年前の教皇庁2500年式典の際、それよりも前ということになると、12年前の戦争の時となるー。


そんなものが、なぜここに…?




「勅命では、ない、のよね。」



その言葉に不自然さを感じるのはきっと自分だけではないはずだ。

王からの命令と言えば勅命と相場は決まっている。



思案の表情を浮かべていると、エリスは、クスッ笑った。


「言葉の意味が分からないって顔してるわね。いいわ、説明してあげる。これはね、王様が個人で、プライベートで依頼してきたものなの。だから、勅命ではないわ。政府はもちろん、このことを知っているのは、ギルド長、私、そして、」



あなた、と指をさし、何かに気づいたように、その指先をヴィルトに向け、あなたもね、と言って微笑んだ。



なんだか、この人の人望の所以がわかった気がする。

ちょっと悔しい気もする。



「ちゃっちゃっと、内容確認してちょーだい。」



そういうと、部長らしくまた書類の山に向かいだした。


ヴィルトにウィンクすることは忘れなかったが。




気を取り直し、依頼を受けるため、書状を開くとそこには達筆な字で意外な内容が書かれていた。それも、短く、たった数行で。



<娘のユースティ=フィル=アセスのことを頼みたい。娘の護衛を派遣して欲しいのだ。できることなら、同年代の腕の立つ者を、友人として。 アーロン=イクド=アセス >




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