No.8 決意
―――目をあけると、何もなかった。そこには優輝一人しかいなかった。
どんどん優輝の体も見えないくらい、闇が深くなっていく。落ちていくようで…恐かった。
それでも優輝は助けを求めなかった。涙が頬を伝わる。本当は、心の中で叫んでいたのかもしれない。
―――誰か、助けて…
すると空が光で満ちあふれた。誰かがこっちにきて、手を差し伸べてきた。
優輝はその手が届くのじゃないかと思うと恐かった。もう、人を信じることもできなくなっていた。
『行こう』
暖かい声が、空に響いた。その瞬間、優輝は恐怖を忘れた。
優輝はその手をとった。握った手は、とても暖かかった。
†
優輝は、そっと目をあけた。目の前に広がるのは真っ白な、殺風景な天井。
手には、点滴がつながっていた。
―――そっか、私、倒れたんだ…
「痛ッ…」
そっと、起き上がろうとした。でも、胸がズキリと痛んで、起きあがれなかった。
優輝の足元に、瑞希が寝ている。ずっと付いてくれてたのかな?
枕の横に、手をやる。少しだけ濡れていた。泣いたのかな…
夢を見たのは覚えてる。最初は――孤独で、淋しかった。最後は…暖かかった。ただ、それだけ。
「優輝…?」
瑞希が、目を覚ました。心配そうな表情で、みつめている。
「いきなり倒れるから…心配したんだよ」
病気のことは、聞いていないらしい。ならば、と優輝はやっと口を開いた。
「心配かけてごめんね。もう大丈夫!」
微笑んで見せる。でも、瑞希は心配そうだった。
瑞希が帰ってから、優輝は小口先生に呼ばれた。もう、だいたい言われることはわかっている。
「病気の進行が、早まっている。この分だと…」
言うのを、先生が初めて拒んだ。
「いって下さい」
優輝は言った。聞かないより聞いたほうがいい…
「もって、一年…かもしれない」
高校が、ちょうど終わる。先生は続けた。
「でも、その可能性が高いというだけだ。【奇跡】がおこるかもしれない。希望を捨ててはいけないよ」
優輝はお礼を言って、状態が落ち着いてから病院を出た。
【奇跡】…本当にあるとするなら、なんでもいいから【奇跡】をおこして、私を助けてよ…優輝だって死にたくない。
ピロリン、ピロリロリン♪携帯が鳴る。優輝はハッとして、すばやく、携帯をとる。画面には“相馬”と出ていた。
「もしもし」
『優輝、起きれたのか。大丈夫か?』
少し、不安そうな相馬の声。心配してたのかな…
「大丈夫だって!少し寒くて調子が悪かっただけ」
『…本当か?五日間も眠ってたんだぞ』
疑っているような様子。相馬は人一倍勘があるし、気付いているかもしれない。でも、あえて真実は言わなかった。
「大丈夫だって。それより私、寝たまま年越しちゃったんだね。やだなァ」
話を、無理に変えようとする。でも、相馬はだまされなかった。
『お前がいいたくないなら、深くは聞かない』
その、小さな心遣いが嬉しかった。そのとき、頭にあることがうかんだ。
「…――悟は?あれからどうしたの?」
『ずっと病院に、俺と一緒に行ってたんだ』
そっか、と言い、人影に優輝はやっと気付いて、足を止めた。
そこにいたのは、悟。
「ごめん、後でかけなおすね」
ピッ、と携帯をきる。悟を見つめる。複雑な表情をうかべていた。
「ごめんね、心配かけて。もう大丈夫だから」
かわらない笑顔で言う。でも、悟は暗い表情をしたままだった。
「俺のせい、なのか?」
自分を、ずっと責め続けていたらしい。優輝は、心を痛めた。
「ごめん、俺があんなこと言わなければ…」
悟の頬に涙が流れた。優輝は、悟をそっと、抱き締める。
「そんなわけないよ。たまたま体調が悪かっただけ。悟のせいじゃない―――悟の気持ちは、本当にうれしかった」
優輝はそっと、悟の頬にキスをした。
「でもね、私じゃだめなんだ。悟を幸せにできないから…これだけはわかってほしい」
悟は優輝を見つめていた。その瞳は、理由を求めていた。
優輝は小さな声で、複雑な想いで言った。
「―――理由は…きっと、もうすぐわかるから」
いつか、言わなきゃいけないと、優輝はわかっていた。隠し通すことなんて、できない。
「だから、今まで通りに、ね」
それが、どれだけつらいか、わかっていた。でも、最後まで、気まずい雰囲気はいやだった。
そこで、無理矢理だったけど、悟は笑ってくれた。優輝も微笑んで、悟と別れた。
†
「くそっ…」
悟は優輝と別れて、自分を責めた。
優輝は、無理をして笑っている。でも、あの言葉に嘘はなかった。
自分は、優輝を守れない。逆に傷つけてしまう…自分が憎くてたまらない。
「―――どこまで馬鹿なんだよ、俺は。それに比べて優輝は…」
自分を犠牲にしてまで、相手のことを、守ろうとしている優輝は…
「どうしようもなく、優しいな…」
なんだか、独り言が多くなったな、と肩をすくめる。せめて、優輝に気を遣わせないように、無理して笑わせないように頑張ろうと、夕日の下で決意した。




