No.5 絆
あれから何日かたって、瑞希が学校にこなくなった。本人は風邪と言うが、もう一週間も休んでいる。
「どうしたのかな」
相馬に言ってみた。相馬はうなずいて真面目に答えてくれた。
「なにかあった確立のほうが高いと思う。親友なんだろう?家にいってやればいいじゃないか」
でも、瑞希はこないで、と言っていた。優輝は考えたが、答えが見つからなかった。
相馬がため息をつきながら言った。
「それを決めるのは、お前だ。なにも言わない」
その後、相馬と別れて、一度教室に帰ったときだった。
「優輝…っ」
呼ばれて振り向くと、そこには同じクラスの莉奈と咲弥がいた。
「どしたの?」
なんだか不安そうな顔をしていた。
「あのね、瑞希のことなんだけど…」
え、と聞き返す。二人は顔をあわせてうなずいて言った。
「前、喫茶店のところで瑞希をみたの。年上の男の人とあってたみたいで…」
「瑞希の顔を見ると傷跡がたくさんあったんだ。だから…」
聞いていて血の気が引いていくのがわかった。そんな…まさか!
「―――教えてくれて、ありがとう」
そう言い、バッグをもって教室からかけだした。走りながら瑞希の携帯に電話をかける。
プルルル、プルルルル…カチャッ
「瑞希!?」
『優輝?どうしたの?』
息をきらしながら言葉を続ける。
「今から瑞希の家にいく。いいでしょ?」 最初は瑞希も拒んでいたが、優輝の真面目な態度にきづいて言った。
『…わかった。待ってる。でも…』
それ以上はなにも言わなかった。優輝は電話をきって、走る速度をあげた。ただ、瑞希のことを考えて走った。
†
「ハァッ…ハァッ…」
息を切らしながら、ドアのベルを鳴らした。
鼓動がとてもはやく波打っている。でも、中から出てきた瑞希をみて、心臓がとまるかと思った。「みず…き」
「何?走ってきたの?まったくお疲れさまだねェ」
顔は殴られた跡があり、右目には眼帯。
瑞希は無理して笑っている感じだった。でも体が小刻みに震えている。優輝は言葉を失った。
「…入って?」
瑞希の部屋についていく。その背中はとても小さく見えた。
沈黙が続く。優輝は考えていた。どこにこんなにひどいことをする人がいるの?顔をこんなに…
―――顔?…まさか!
「瑞希、腕みせて」 瑞希は一瞬ためらったが、素直に腕をだした。長袖をめくると、いたるところにアザがあった。そして…左手首にはリストカットの跡があった。
親友の荒れ果てた姿を見て、優輝は思わず涙がとまらなかった。
「私のために…泣いてくれるの?」
瑞希は、震える小さな声で言った。優輝は泣きながら口をひらいた
「あたりまえじゃないっ!…なんで?!なんで言ってくれなかったの?!そんなに私は頼りない?親友でしょ?!なのにっ…こんなのってないよ!」
自分の、あまりの無力さに腹がたつ。親友が、瑞希がこんな目にあっているのに、まったく気付いてあげられなかった。
瑞希も涙を流しながら謝った。
「ごめん…心配かけたくなかったの」
瑞希の気持ちはよくわかる。でも、あまりにひどすぎる。
「誰が…こんなことやったのよ?」
二人で散々泣いたあと、優輝がまだ涙を流しながら質問した。
「…彼氏がやったの」
耳を疑った。
「彼氏って…年上の?」
瑞希はゆっくりうなずいて話をし始めた。
瑞希の彼氏、安田達也は大学生で、付き合った最初はとても優しかった。でも最近、大学でいやなことがあったらしく瑞希にあたるようになり、暴力は日に日に増していった。
「なんでそんな奴と付き合ってんの?!」
優輝はもう泣いていなかった。でも、瑞希は涙を流しながら言った。
「…好きなの、本当に…大好きなの」 優輝に【好き】の意味はわからない。だから何も言えないかもしれない。でも、一つだけわかる。
優輝は瑞希を抱き締めながら言った。
「瑞希、あのね、…その人は好きになっちゃいけないんだ。いくら好きでも、自分を傷つける人となんか、一緒にいちゃ、きっといけないんだよ」
瑞希は、優輝に顔を埋めて泣いた。優輝にも、一筋の涙が頬を伝わった。
「気付いてあげられなくてごめんね…」
†
あれから、瑞希は達也と別れ、傷が大分治ってから学校にきた。
「優輝、ありがとね」
瑞希と優輝の絆は前より深くなっていた。
そして優輝は、今度はちゃんと、親友の苦しみに気付いてあげられたらいいな、と夜空の星をみながら思っていた。




