No.9 それぞれのオモイ
あれから、悟とは、完全にとはいかないけど、もとに戻れた。
優輝は、歌詞を頑張って考えていた。でも、うまくいかない。心が落ち着いていないせいもあった。
バンドの練習をしている時だった。ギターの音がずれて、相馬が調整をしていた。
「ギター、壊れちゃったのかな?」
「かもしれん。けっこう長く使ったからな」
その時、今までよりも激しい、立っていられない程の目眩に襲われた。
「優輝ッ!」
優輝は倒れて、気を失ってしまった。
†
優輝は、やむおえず、一週間入院が決まった。病気のことはわからない。でも、時間がないと言うことは、なんとなくわかる。
「ごめん…バンドの練習できなくて」
相馬がそれに、答えてくれた。
「たった一週間だし、俺たちだけで合わせとくから、気にするな。お前はゆっくり休め」
一つだけ、気になることがあった。
「…ギター、壊れちゃったの?」
優輝の問いに、相馬は、ため息混じりで答えた。
「あぁ。結構、使ってたから、糸が細くなって、音が響かなかったんだ。もうすぐ、切れると思うから…買い替えるしかないな」
…私も、あのギターのように、壊れちゃうのかな。この頃、よくそんなことを考えてしまう。
優輝が…そっか、と答えると、次は瑞希が口を開いた。
「優輝、本当に大丈夫なの?こんなに―――」
そんな瑞希の言葉を、優輝は打ち消すように笑顔で言った。
「大丈夫だよ。喘息って知ってるでしょ?季節の変わり目だから、…しょうがないんだよ」
親友に、嘘をつくほどつらいものはない。でも、真実を告げて…親友がつらそうな顔をするのを見たくない。
瑞希が、不安そうな顔で、優輝の手を握りながら、言った。
「優輝…いきなり、いなくなったりしないよね?ずっと―――そばにいてくれるよね?」
優輝は、何も言わず、ただ手を握りかえしただけだった。
それから三人が帰って、優輝一人が病室に残される。きっと相馬も、瑞希も、悟も…気付いてきてる。でもそれはまだ“確信”ではないはず。―――せめて、それを悟られないようにしなきゃ。
いつかは、言わなくてはいけないトキが…くるかもしれないけど。
瑞希が聞いてきた時、
「あたりまえじゃない」って言えなかった…。たった一言なのに、言うことができなかったよ…
涙が頬を伝わった時、病室のドアが、コンコン、とノックされた。
涙をぬぐって答える。
「どうぞ」
ガラガラ…と静かな音をたてて、入ってきたのは―――
「悟…」
一瞬、悲しそうな表情をみせたが、すぐに笑顔になった。
コンビニの袋をあげて、無邪気に言う。
「腹減ってんじゃないかなって。コンビニいってきたんだ」
悟は丸椅子に座り、優輝にカップケーキとオレンジジュースを投げた。
「オレンジジュースって、子供かよッ」
笑って言う。すると、意地悪そうに、悟も笑って言った。
「子供じゃん。コーヒー飲めないくせに♪それにオレンジジュース好きだろ」
むぅ…と膨れたふりをする。言い返せない。
優輝が食べはじめると、悟も、コンビニ袋から鮭のおにぎりをだしてビリッと破り、食べはじめた。
「なんか悟、食べ方が子供みたい」
くすりと笑う。悟は口の横に海苔をつけていた。
「うっさいな。まだ実際、子供なんだから別にいーじゃん」
必死な抵抗、ってとこかな。優輝は心のなかで思った。悟も優輝も、無理して笑ってはない。でも…
きっと、気を遣ってくれてるんだろうな…
†
入院して一週間。優輝は体調が戻り、無事退院。
優輝は、退院祝いに、瑞希達がくれたものに驚き、涙した。
それは、歌詞のないオリジナルの曲だった。
「みんなでがんばって作ったんだ」
瑞希が言っていた。
優輝は、それを何回も聞いて、いい歌詞作りにはげんだ。
みんな、これをバンドでしたいはず。無駄にはできないし、するつもりもない。優輝は、それだけに集中できて、病気のことは…一瞬だけ、忘れることができた。




