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ライジングサン

battle 1   デイ・ウォーカー~日の下を歩く者~











燦々と輝く真昼頃。

紺色のコートを羽織り、背中に火炎剣フランベルジェを背負う黒髪の少年『日野神太陽』と、彼と同じコートを着用し、長剣を腰に装備した赤髪の少女『霜月明日菜』の二人組は、とある任務にて小さな町に赴いていた。


「ここか……コロネっつー町は。しっかし、随分とまた辛気クセー町だなぁ」

「人が居ないね……」


辺りを見渡すが、人気が見られない。そればかりか、窓やカーテンがしっかりと閉められている。目を合わせたくない、誰かと接触したくない。それ故の行為なのだろう。

すると突然――。




ドンッ!


「うおぉっ!?」


太陽にぶつかって来た一人の老人。怒ることなどせず、太陽は老人に手を差し伸べた。


「大丈夫ですか?」

「立てるか? 爺さん」

「あ……ああ……。大丈夫……」


しかしこの老人、彼らを見るなり、ビクビクと震え上がっている。まるで自分たちを怖がっているかのように。

そんな老人を安心させようと、太陽が声をかけて宥める。


「落ち着け爺さん。俺らは傭兵だ。騎士なんかじゃねぇ。……この有り様は何なんだ? この町で、一体何があった?」

「…………」


老人は呼吸を整えると同時に、二人に語り出した。


「全て……帝国の……仕業なんだ」

「!?」


老人は、人が居なくなったのは帝国のせいだと言う。

さらに老人は、話を進める。


「元々帝国はあんなんじゃあ無かった! あの男が来てからだ! この町が可笑しくなったのは!」

「爺さん。そいつぁ誰なんだ?」

「…………アッサム=フォンバットという名だ」


――アッサム=フォンバット。『帝国軍』の現役隊長であり、『召喚剣士』の一人。


老人の話によると、アッサムは二ヶ月ほど前に、コロネの町へやってきたらしい。

その男は隊長格。自分の抱えている兵を引き連れ、町を自分の支配下に置いてしまった。それだけではない。

税の払えぬ者を連行し、牢獄に入れる始末。町の市長でさえ手に負えなくなっている状況だという。町の人達は震撼し、アッサム軍に怯えながらの生活を強いられるようになった。


「頼む! アッサムを! 奴を殺してくれ! 奴さえ殺してくれるだけでいい!」

「根城は何処にあんだ、爺さん」

「北の方にあるが……君達、まさか!」

「親玉をぶっ潰す! だからここで待ってろよ、爺さん」

「行こう、ソル!」

「無茶だ! 二人であやつらに立ち向かうなんて無謀だ!」


明日菜の声で、太陽と明日菜は一緒に北の方角へと走り出す。

老人は二人を引きとめようと手を差し出すが、しだいに姿は遠くなっていった。











太陽と明日菜は城門の前へと到着した。門の前には兵が二人。守りは薄そうだ。

二人は木陰に身を隠しながら、コソコソと接近。背後から峰打ちを食らわす。そして気付かれること無く、何とか二人は城内への侵入に成功したのであった。











一方、敵側では――。


「隊長! ご報告申し上げます!」

「騒々しいな……まぁいい。申せ」


血相を抱えて報告に参った兵の一人が、アッサムに話しかけた。


朱色あけいろの剣を持った黒髪の少年と、弓を使う赤髪の少女が、城内に侵入したとのことです!」

「……兵の状況は?」

「ほぼ……壊滅の危機に陥っております……」

「仕方ない……わたしも出向くとしよう……」











迫り来る兵を次々と薙ぎ倒し、太陽と明日菜は地下牢へとたどり着く。

牢の先には、子連れの母親から、中年の男性や年寄りなどが入れられていた。

鍵を開けている最中、「助けてくれ坊主!」「こっちにもお願いだぁ!」といった、五月蝿いほどの大声が耳に響く。

当然、見捨てはしない。太陽は少しペースを上げ、急ぎ気味に全ての鍵を一つ一つ開けて回る。

そして最後の鍵を開け終え、太陽はふぅっと一息。


「お疲れ、ソル」

「一つ一つ鍵開けんの疲れたな~。後は、アッサムっつー奴を潰して――」


その時だった!


「アッサム=フォンバットというのは、わたしの事かね?」

「! 出やがったな!」


背後からの声に、二人は振り向く。

案の定そこへ立っていたのは、元凶であるアッサム。青色の長髪、緑色の瞳、そして老けた中年の顔立ち。紛れもなく本物だ。


「よく来たね、傭兵諸君」

「残念だったな、隊長さんよぉ。人質は全員解放した。後はテメェだけだ!」

「くはははははは……分をわきまえん小僧が、偉そうな口を叩きよるわぁ! ――【フォノン】!!」


アッサムの掌からは、火の玉が渦を巻くように、燃え盛っている。その火の玉を、アッサムは太陽に向けて放った。


――だが。


「炎で俺が負けるか! 馬鹿がぁ!」


太陽は迫り来る火の玉へ、手を前に出し、力を解き放った!


「【炎のフレイウォール】!」


渦巻く炎の弾丸と燃え盛る炎の壁がぶつかり合い、振動と爆風を同時に生み出す。その僅かな隙を狙い、太陽と明日菜は地上へと階段を上っていった。

アッサムも同様に「逃がすか」と煙を払いのけながら、二人の行く先を追う。






道中、下級兵やアッサムとも接触することなく、二人は何とかして城の外へと脱出する。

だがその時だった! 二人の目の前には、アッサムの部下が横一列に並び、武器を構えていた。


「ここまでだな……。貴様らをここで仕留めてくれる! かかれぇ!」


アッサムが手を前へ出すと同時に、手下の軍勢が一気に二人の方へ直進する!


「アスナ! 援護頼むぜ!」

「うん! 任せて、ソル!」


明日菜は両手を前に出して素早く術式を読み上げる。そして、少数の兵目掛けてその呪文を放った!






「――【エアロ・マラン】!」


両手から放たれた暴風の球は、向かって来る軍勢へと降りかかる!


「ぐああぁぁ……!」「うわああぁぁ……!」


断末魔と同時に、アッサムの手下は見事に全滅。次々とうつ伏せに倒れ伏していく。中級呪文だけあって、威力も桁が違う。


「ぐっ……! 無能共め……!」

「テメェの軍はもうお陀仏だ。残ってるのはもうお前だけだぜ?」

「一人だと……!? ふはははははは、笑わせてくれる! この力がある限り、わたしは最強なのだ! 見せてやる、我が召喚獣を! 来い! ――【タウロス】!」


アッサムが指を鳴らすと同時に、二本足で歩く猛牛の化け物が、太陽の前へと現れた。

両手には岩石をも容易く破壊するであろう、大きな戦斧せんふが握られている。


「おぉ、デッケェなぁ……。流石に、丸腰は完全に無理だよな。こいつを使うか!」


背中にある火炎剣を両手に取り、太陽は【タウロス】を睨み付ける。

その時、アッサムは太陽の剣を見た瞬間、驚愕し出す。そして、不敵な笑みを浮かべると、突然太陽の正体を口にする。


「先ほどの、詠唱破棄での術の発動……朱色の剣『火炎剣――フランベルジェ』。そうか……貴様は『デイ・ウォーカー』! 『国家傭兵団』の……【日野神太陽ひのがみたいよう】!!」

「『デイウォーカー』はあんまし言われねぇけどな」


「そうか……貴様が持っていたか。――火炎剣『フランベルジェ』。並み居る敵を一薙ぎで燃やし尽くす豪剣! 良い物を持っている! 殺した上で奪ってやろう!」

「けっ……やって見ろよ!」


火炎剣を握り、太陽は目の前に居る【タウロス】に斬りかかった。


ガシャン! ガシャン!


ご自慢の俊敏さを活用し、【タウロス】を後退させていく太陽。【タウロス】も、戦斧を振るう余裕が無く、太陽の攻撃をただ防ぐばかり。

そして遂に【タウロス】は憤怒の表情を見せ、戦斧を太陽の頭上へと降ろす。

だが――。


スッ!


岩砕の一撃を、太陽は横へと素早く回避。

斧を振り切った隙を見計らい、太陽は左腕に狙いを定め、力いっぱいに火炎剣を振るう。


「ぜぇやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


――ザンッ!


左腕がゴトンと落ちたと同時に、鮮血が一気に噴き出す。

深い傷を手で押さえ、「ウガアアァァ!」と悲鳴を上げる【タウロス】。その姿に、太陽は止めを刺そうと接近する。

【タウロス】もブチ切れたのか、片手で斧を取り、太陽に襲い掛かった。

だが、その攻撃も空しく――。


「【紅蓮斬】!」


火炎剣が振られたと同時に、剣に纏っている紅蓮の炎が、【タウロス】の体を容赦なく焼き尽くす。

そして【タウロス】は悲鳴のような断末魔を上げ、手にしている武器とともに消し炭と化した。アッサムの握っている召喚石が、下僕の死を知らせるが如く、音を立てて砕け散る。


「う、嘘だ……!? わたしの【タウロス】が、こんな傭兵のガキに……!? ぐぅっ……くそ……くそおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


召喚獣を倒され、慌てふためくアッサム。

冷静さを失い、ただ乱心に身を任せ、ロングソードを太陽に向かって振るいまくる。だが、動きは至って『ド三一さんぴん』。全て太陽の剣で防がれている。

攻撃をかわし切り、ガードの空いた顔面に、太陽は渾身のアッパーカットを一発。仰け反るアッサムに追い討ちを掛けるが如く、更に続けて腹にローキックをお見舞いする。

仰け反り、跪くアッサムを見下ろすかのように、太陽は火炎剣の切っ先を、奴の喉元へと宛がう。


「もう観念しろ。テメェの負けだ」

「観念だと……? 嘗めたことを……。あきらめん……。わたしはこれしきの事では諦めんぞぉ!」


アッサムはそう言い、目くらましの魔術【闇雲ダーク・スモーク】を使うと、そのまま太陽の元を立ち去ってしまう。

太陽も追いかけようとするが、煙幕が彼の視界を阻むため、足取りを追うことが出来なかった。











「ぐぅ……。傭兵なんぞの力に頼らずとも、街一つぐらいは制圧出来る! 人を殺めてきんを肥やす殺人鬼の威を借りるなど、騎士の名折れだ!」


太陽からの追っ手を振り切り、アッサムは路地裏へと逃げ込んでいた。

息を切らしながら、跪き、壁に手を当てて呼吸を整える。だが、そんなアッサムの疲労状態にも関わらず、彼の目の前に、白銀色の髪を靡かせ、右手に太刀を携えた一人の女が立ちはだかる。


「……こんな馬鹿が国家を支える柱とはな……。こんな奴が騎士か……取るに足らない存在だな」

「! 貴様は【紫電の女王】の……『霜月瑠華』! くくくっ……覚悟おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「分を弁えろ……下種が!――【飛竜剣――旋風】!!!」


真正面から迎え撃つアッサムに対し、瑠華は冷徹にも刃を横へ一薙ぎする。

刹那――。


ブシュウウウウゥゥゥゥ!


「ごぼぉっ……!」


腕、足、胴体に刻まれた傷。それと同時に、傷口から鮮血が水しぶきの如く噴出する。

そしてアッサムは、口から血の塊を吐き出すと、剣を握ったまま前のめりに突っ伏し、そのまま息絶えてしまった。


「貴様如き、私の相手にもならないんだよ……」


アッサムの死を確信し、瑠華は刃に付着した血を拭い、太刀を鞘に収めると、路地裏を何事も無いような顔で、その場を立ち去っていくのであった。












「ご苦労だったね。太陽くん。明日菜ちゃん」

「俺らは何もしてません。アッサムを殺ったのは『ウチ』の隊長様だ」

「そうです。私のお姉ちゃ……いや……隊長です」

「お姉ちゃんで良い。それより、人質を解放しただけでも十分な手柄だった。良くやったね」


本部に帰還し、総督に功績を称えられる太陽と明日菜。

彼の名は『神谷厳道』。四四歳。温厚であり厳しい者であり、傭兵団の指揮を取る者として動いている者である。


――『国家騎士団』と『国家傭兵団』と『帝国軍団』。国家を支える三つの柱が、ここ『パンゲア』の世界に存在している。

本隊に入るにはまず『瑠王学院』に入学する必要がある。

入学資格を与えられるのは十二から十五までの少年少女。

試験の内容は単純で、筆記と実技のみ。面接は無い。ただし、本格的に見られるのは、やはり実技面だ。

まず新入生は、入学時に学科を選ぶ。そして、必要以上の単位を取り、十六から二十歳までに卒業資格を得て、本隊に入ることが目的の教育組織なのだ。

尚、二十歳までに学院を出れなければ、入隊の意思が無い者とされ、退学処分とされてしまう。


入隊後は各それぞれの小隊に配属され、指揮官の元に動く。

それが彼らの進路なのだ。


「報告書出来上がりました。総督」


アッサム討伐依頼の報告が書かれた書類。太陽はそれを厳道にすっと渡した。

報告書を拝見し、神谷は「確かに受け取ったよ」と笑顔を交わす。

そして、用事を終えた太陽と明日菜は「失礼しました」と声をかけ、司令官室を後にした。

明日菜と並んで歩いている途中、暇そうに太陽がぼやく。


「さぁて、仕事終わったし……。どうしようかね……」

「う~ん……。そうだソル! 私の知ってるケーキ屋さんがあるんだけどね」

「そのケーキ屋何処にあんだ? 答えろ」


太陽は見かけによらずデザートが大好きな『スイーツ系男子』なのである。

ケーキ屋という単語に、素早く反応する太陽。咄嗟に食いついてくる太陽に、明日菜も少々苦笑する。


「焦らないで、ちゃんと教えるから。『ルドルフ』っていう店なんだよ」

「『ルドルフ』……早く行きてぇー! アスナ、早く行こうぜ!」

「うん! 行こ行こ!」


子供のようにはしゃぐ太陽の後を、明日菜は喜びながら彼についていった。












一方その頃……。アッサムの死を電話で聞き、密かにほくそ笑む少年がいた。その隣に少女もいる。

少年の方は『野宮理人』。緑の短髪に高価な眼鏡を掛けた、インテリを思わせる容姿。

もう一人の少女の方は『森上神流』。鼠色の長髪に、レイピアと幅の大きい盾を携えた少女。


「はい……。はい、分かりました……」


ブツンッ。


「リヒト、どうしたの?」

「カンナ……アッサムが死んだらしいよ」

「知ってる。微かだけど、電話の声が聞こえたわ」

「呆気ない最後だったらしいよ。全く、国軍の隊長とあろう者が情けないね」

「仕方ないわよ。相手は先輩だったんだから。それに、日野神君や霜月さんもいたんですってね」

「日野神……あいつはぼくたちで倒さなきゃならない!」

「それはわたしだって同じよ。人を殺める事に躊躇いの無い殺人鬼は――わたしたちで始末する!」











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