はた迷惑だったので
ふんわりざっくり設定です。
作中で言っている婚約解消カップルは「言い訳は無用ですわよ」のふたりらしいですよ。
どこぞの次期当主が、婚約を解消されたらしい。
理由は、婚約者よりも妹を大事にしすぎたから。デートよりも妹を見守ることを選び、婚約者と会う日に妹が体調を崩したといえば必ず妹を優先したのだと。
というか、月に一度の取り決めであった婚約者とのお茶会を、七か月連続で『妹の体調が悪いから』で直前で取りやめとかわけわからん。そこまで続く前に、妹のブラコンっぷりとか怪しいとか思わないんだろうか。当人もそうだけど、家族や使用人も。
「わたくし、よくわからないのですけれど」
我が愛しの婚約者も同じ考えのようで、不思議そうに首を傾げた。ああ、そのちょっとした角度の変化も愛らしい。
「妹さんが体調を崩されたのならば、普通は専属のメイドに看病をさせますわよね。ひどいのであれば、医者をお呼びにならないと」
「ああ。それに、兄の婚約者との交流を邪魔するほど頻繁に身体を悪くするのであれば、領地で静養したほうがいいんじゃないかと僕は思うんだが」
「ですわよねえ」
何しろ、噂に聞いた次期当主の妹が体調を悪くし、婚約者とのお茶会をキャンセルしたのは『七か月連続』である。
その時だけ体調を崩したのならばともかく、そこまで続くのならば普通は七か月間、ずっと体調が悪いのだと考えるのが普通だろう。だったら医者に診せて、何なら領地の環境の良い場所でゆっくりさせるのが一番だ。
……本当に、その娘の体調が悪いのであれば、だがな。
「そういえば、あなたも同じようなことがありましたわよね」
「ん?」
同じような……ああ、あったあった。
「初めてお茶会にお呼ばれしたとき、侍従が呼びにいらしましたわ」
「確かにそんなこともあったっけな。すっかり忘れてたよ」
そう。
僕にも、くだんの妹のような存在がいた。僕の場合は父の弟の娘、つまり従妹。
父親、すなわち僕の叔父が父の補佐をしていることもあり、割と近くに住んでいる。で、叔父が仕事がてらうちに来ることも多く、それに従妹がついてくることがよくあった。叔母が早くに亡くなっていて、家にいても寂しいからとか何とか。
そのうち、それなりに成長したこともあり従妹はうちには来なくなって、それから五年ほど経った現在……というか数か月前だな。
婚約者との顔合わせを経て、まずは我が家でお茶でも、ということになったその日。
まずは一服、というところでうちの侍従が、従妹が体調を崩して俺に来てほしいと言っている、などと伝言を持ってきたわけだ。ふざけんな。
「何で僕が行かなければならないんだ?」
「私にもよくわかりませんが、とにかくすぐに来てほしいと」
まあ、侍従も戸惑っていた。それはそうだろう、ここ数年音沙汰もなかった親戚がいきなりそんなこと言ってくれば。
ただ、侍従は侍従なので僕の許しなしに拒否することもできないからな。仕方ない。
「病なら医者を呼べ、とでも返しておけ。何年も会っていない、手紙のやり取りすらしていない従妹がいきなりそのような伝言、怪しいの一言だろう」
そう、顔も合わせていなければ手紙もよこしたことないんである、その従妹。
叔父とはたまに会うけど、彼女の話が出たことはほとんどない。
それなのに家に来いとか、本気でわけがわからないので。
「…………は、ではそのように」
向こうの言い分を拒否する許可を出して侍従を返してから、婚約者にはきっちり説明をした。その感想が。
「あなたのおっしゃることは、間違っておりませんわね。近いお身内の方相手であっても、判断の早い方で良かったわ」
こうだった。ほっと胸をなでおろしたのは、言うまでもない。いや、だってこの頃にはすでに僕、かわいいかわいい婚約者にメロメロだったからさ。婚約する前から何度か顔を合わせていて、いいなあって思ったから結ばれた婚約なんだし。
だからこそ、初めてのお茶会を邪魔されたくなかったのでバッサリと叩き切ったわけだ。僕偉い。
この後、僕と婚約者のお茶会に従妹の割り込みはなくなった。
「彼女、あの一度で終わったのですか?」
「ああ、まあな」
にこ、と笑う婚約者には言えない。いや、一度で終わったと言えば終わったのだけれど。
単純に、僕の邪魔をするところまで持ってこさせなくなっただけ、なんだよな。
「まさかとは思うが……今後、あの従妹が何を言ってきても僕のところには通すな。伝言なら書き留め、書状ならそのまま保管しておくこと。後で内容を確認し、事実を調査しないといけない」
僕は、戻ってきた自分の侍従にそう命じた。数年単位で没交渉だった従妹が、こちらが婚約者と交流しようとした途端にいきなり呼びつけようとする。異常だろう……ただ、一度であればちょっとした気の迷いとして処理するけれど。
「わかりました。もしなにか言ってきても、お茶会もデートも邪魔させませんよ」
そう答えてくれた侍従は、けれど何度もあるかなあと首を傾げていた。あったら困るから、今から準備しておかないといけないわけなんだよな。
万が一、僕の危惧が的中したら……こちらも、考えなければならないからな。
でまあ、見事に的中したんだよな。
『ちょっとした気の迷い』でない証拠が、それから数か月でたんまり溜まったんだよ。勘弁しろよ、ほんとに。
「体調が悪い」「あなたに良い道具を見つけたのでプレゼントしたい」「美味しいお菓子のお店を見つけたので一緒に行ってほしい」「病にかかったので見舞いに来てほしい」「親戚なんだから会いに来て」などと記された伝言の書き留め及び書状の山。全部日付はきっちり記録済みで、僕と婚約者との交流の日付とぴったり一致してることは侍従作成のリストで判明している。
さらに、特に体調が悪いと言っていた日に寝込んでたりはしていないことだって。このくらい、調べるのは当然というか……我が家に顔を出す叔父にそれとなく聞けばわかるもんだ。
その結果を見て。
「婚約者でもないのに、いい度胸してるなああああああ!」
「でーすーよーねー」
自室で叫んだ僕、悪くないよな? 侍従もでっかいため息ついてたし。
プレゼントとかお菓子のお店に一緒に行くとか、それは婚約者とやることだろうが。なんで親戚でしかない、ろくに付き合いもない従妹相手にやらにゃいかんのだ、本気でわけわからん。
さて、これだけ面倒な証拠が揃ったので、まずは父母に訴えた。侍従にも証言してもらい、証拠をずらりと並べて。
「幼い頃は交流があったかもしれませんが、既に五年以上顔を合わせていません。それがいきなり、このような動きを見せることはおかしいです」
「……これは」
「まあ、なんてこと」
物証があることで、わかりやすくふたりの顔色が変わる。そこに僕は、さらに突っ込んだ。具体的に言えば、うちの使用人に関して調査をしてほしいってことだ。だってそうだろう?
「これだけ日付が一致するってことは、僕の予定について誰かがあっちに漏らしてるってことですよね?」
「その可能性は高いな。念のため、きっちり調べておこう。あとは親に任せ、お前は普段通りの生活を送るが良い」
「当然だけど、調査はこっそりするものですからね。お前たちも、口を閉ざしておきなさい」
『はい』
母の言葉に、僕と侍従は揃って頭を下げた。この侍従、乳兄弟だからか扱いは兄弟に近いんだよね。さすがにこいつは漏洩元じゃないだろうと思ったけど、多分調べられたんだろうな。結果として違ったらしく、今でも侍従のままだ。
それはさておき、父は早速動いてくれた。
まずは従妹の父親、つまり叔父に対して抗議してくれた。仕事で家に来るわけだから、その時に話すのは簡単だもんな。ただし、情報漏洩ルートがちょっとわからないのでしばらくの間は泳がせておく、ということになった。
使用人に対する調査に関しては、うちだけではなく、婚約者の実家にも頼んでくれたそうだ。確かに、僕と彼女が会う予定は当然一致するわけだしな。
婚約者実家では、彼女自身にはこの調査のことを伝えずにいてくれた。もしそちらの身内から漏れていたのなら、彼女はこの婚約について申し訳ない、なんて考えるかもしれない。
で、調査の結果だが。
婚約者付きのメイドのひとりが、従妹の家で働く使用人の幼馴染だったことが判明した。……もちろん、これも婚約者は知らない。あちらの方で伝えるべき話だから、僕が口にするつもりもないけれど。
そもそも僕たちの婚約については叔父もそれなりに動いてくれていたようで、当然成立する前から叔父は話を知っている。当の使用人は叔父について婚約者の家に行ったこともあったようで、それで幼馴染のメイドと再会した。まあ、そこまでなら良かったんだけどさ。
叔父の娘である従妹は、僕に横恋慕していたらしい。というか、五年も会ってないのにいずれは僕の妻になるのだと思い込んでいたのだとか。何でだよ。
それで、僕が別の女性と婚約したと知って怒った。相手は誰だ、と探ろうとしたらちょうどそこに、叔父について相手の家に行った使用人がいるじゃねえか。さらにその使用人には、相手の家にメイドな幼馴染がいる、と来た。
従妹は使用人とその幼馴染のメイドを利用して、婚約者と俺の会う日程を手にした、というわけだ。手持ちの宝石やら何やらを、その報酬にしたらしい。
「儂は、仕事上の秘密をほいほい漏らす使用人などを雇ってしまった……」
叔父は怒るより先に、自身の人を見る目のなさを嘆いた。まあ、使用人はさくっと紹介状なしでクビにしたけど。ちなみに他の使用人の中に何人か、見て見ぬふりしたり俺には従妹のほうがお似合いだとか軽口叩いた奴がいたらしくて厳重注意処分。次問題起こしたら紹介状は書かない、と言いつけたので震え上がったようだ。
婚約者実家も、メイドはクビにしたらしい。表向きはなにがしかの失敗を犯したから、とか何とか。次に何かやったら生命はない、とあちらのご当主、つまりそのうち僕のもうひとりの父になられる方が目だけマジな笑顔でお伝えなさったそうだ。
その後はふたりともどうしているのか、僕は聞いていない。合流できたんなら、細々とやっていければいいんじゃないかな。婚約者家ご当主の言い分からして、少なくとも元メイドには監視がついてるだろうし。
さて、本来の問題である従妹について。
一度顔を合わせる機会を作ってもらって、僕は彼女にはっきりと申し渡した。もちろん、侍従も一緒だ。従妹のせいで一番苦労したの、彼だし。
「いいか。僕は君に、親戚以上の感情を持ったことはこれっぽっちもない。婚約者との関係は政略的なものだけど、それでも僕は彼女に好意を持っている。共に家族として生きていきたい、と思えるくらいにはな」
「そ、そんな……」
「大体、ろくに顔も合わせずにいきなり人の予定を狂わせるようなことを連続でしてくる相手に、何で好意なんて持てるものか。悪いが、君と会うのはこれっきりにさせてもらう。手紙や言伝のメモは、君がろくなことをしない証拠として叔父上にお渡ししたからな」
「ひっ」
このくらい、強く言っておけば大丈夫かな。ついでに侍従ともども不機嫌を隠さずに顔に出しておいたから、それなりに迫力はあるだろう。
このあと、叔父は彼女を領地の端にある小さな村の村長宅にメイドとして放り込んだらしい。叔父が頭が上がらない元使用人夫婦だそうで、「坊っちゃんとこのお嬢さんを鍛えればいいんですね! お任せを!」なんて腕まくりしてるとかなんとか。叔父の家まで馬車で数日、間に森があるので逃げ出すことはまあ、諦めろ。
……そのあたりの結論を、僕は婚約者に聞かせるつもりはない。彼女も薄々感づいているだろうけれど、特に深入りしてくる様子もないしね。詳しく聞きたいと尋ねて来られたら、それなりには話すかなあ。
でも。
「彼女にも、よい方が見つかるとよろしいですわね」
そんなことを言ってくれる僕の大事な婚約者の耳を、あんな従妹の話で汚したくはない。
だから、これでいいかなとは思ってるんだ。




