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第5ゲーム 最遠距離②

第二回戦


マスターが四つのカップを下げ、新しいカップを並べた。A、B、C、D。

スコアは碧が一ポイント。九条と麗香がゼロ。

誰かがあと一ポイント取ればゲームクリア。三人の緊張が一段階上がった。


今度は九条が宣言より先に、碧へと向いた。

「碧君。前回の君の宣言について確認させてくれ。マスターの指先が止まったという観察、あれは本当か」

「本当です。Bを置く瞬間でした」

「僕の観察とは異なる。僕はCの動作が遅いと判断した。……二人の観察が食い違っているということは、どちらかが見間違えているか、あるいは両方が別の要素を見ていたということだ」

九条は一瞬沈黙した。眼鏡の奥の目が、卓上の何もない場所を見ていた。思考が高速で走っている人間の目だった。

「今回、僕は別の手がかりを使う。マスターが今回カップを置いた順番はA、C、B、Dだった。通常、人間が物を並べるとき、最も注意を払うものを最初か最後に置く傾向がある。最初に置かれたAか、最後に置かれたDのどちらかが毒だと読む。毒がAならDが最遠、毒がDならAが最遠。どちらにせよ端が最遠だ。僕はDをいただく」

宣言を終えてから、九条はDのカップに手を置いた。


(九条さんは今回、自分の観察を変えた。前回外れた方法を捨て、別の方法論を持ち込んだ。適応が早い。)

碧は九条の選択を分析した。九条がDを取った。毒がAならDが最遠で九条がポイントを取る。毒がDなら九条が死ぬ。自分の命を賭けているということは、九条はAが毒だとある程度確信しているということだ。


麗香が次に宣言した。

「Bのカップだけ、表面の湯気の粒が他より細かかった」

麗香の声は静かで、まるで天気の話でもするようだった。

「内部の温度が少し違うのかもしれない。毒はBだと、わたくしは読んでいますわ。毒がBなら最遠はD。……ですが、Dは九条様がお取りになった。だからわたくし、Aをいただきますわ」

宣言を終えてから、麗香はAのカップへ手を伸ばした。


碧は麗香の宣言を聞いた瞬間、鳥肌が立った。

(湯気の粒の大きさ。)

(そんなものを、普通の人間は見ていない。いや——見えるはずがない。少なくとも、この薄暗い店内の照明の下では。)

(麗香さんは私たちの誰も気づいていないものを観察している。それが本当なら、麗香さんの情報量はこの部屋で最も多い。)

(あるいは——そう見せている。)


Aは最遠ではない。またしても麗香は最遠を取りに行かない。

前回もそうだった。麗香は毎回、ポイントの取れない場所を選んでいる。

(偶然ではない。意図がある。しかしその意図がまだ読めない。)


碧にはBとCが残った。

九条は「AかD」が毒と言い、Dを取った。つまり九条はAが毒だと読んでいる。麗香は「Bが毒」と言いながらAを選んだ。麗香の宣言を信じるならBが毒で、Aは安全だ。

(もし毒がBなら、CもAも安全。でも最遠のDは九条さんが取った。私がCを選んでも最遠ではないからポイントは入らない。)

(もし九条さんの読み通り毒がAなら、九条さんはDで安全、麗香さんはAを飲んで死ぬ。)


碧は麗香を見た。麗香は涼しい顔で扇子を揺らしている。自分がAを選んだことへの不安が、一切見えない。そんなことは最初から計算済みだ、と言っているような顔だった。

(麗香さんはAが安全だと知っている。つまり毒はAではない。九条さんの読みが外れている可能性がある。)

(麗香さんの判断を信じるなら、毒はBだ。私はCを選べば安全だ。ポイントは取れないが、死なない。)

(でも今の私は一ポイント先行している。ここで生き残るだけでも、九条さんへのプレッシャーになる。)


「私は」碧は宣言した。「麗香さんがAを迷いなく選んだことを信じます。麗香さんがAを安全だと確信しているなら、毒はAではない。九条さんの読みが外れている可能性がある。私はCをいただきます。ポイントより生存を優先します」

宣言を終えてから、碧はCのカップを手に取った。


三人がカップを飲み干した。

「全員生存。毒はB。最遠はDでございます」

「九条様、一ポイント。現在のスコア、碧様一ポイント。九条様一ポイント。西園寺様ゼロポイント」


碧は息を吐いた。ポイントは取れなかった。でも生き残った。

九条は静かに眼鏡を直した。自分の読みが当たったことへの満足と、しかしまだ碧と同点という現実が、その目に交差していた。


麗香は扇子を静かに開いた。

「九条様、おめでとうございます。でも少し不思議に思いませんでした? わたくし、二回続けてポイントを取る場所へ行きませんでしたのよ」

「……聞こうか」

「ポイントを取ることより、大切なことがありますのよ」麗香は言った。


碧はここで、麗香が何を言い出すかを一瞬だけ先読みした。そして——正確に当たった。

「誰かを毒へ誘導することで、その回のゲームを終わらせられる。リスクを取ってポイントを狙うより、相手を脱落させてしまった方が確実な場面がある。わたくし、この二回はその可能性を探っていましたのよ」


碧は麗香の言葉の意味を理解した。

麗香はこの二回、ポイントを取る気がなかった。碧か九条を毒へ誘導できるかどうか、様子を見ていた。そして二回とも失敗した。


「でも二回とも、誰も毒を飲まなかった」

「ええ」麗香は頷いた。「お二人とも、わたくしの言葉ではなくマスターの動作を見ていた。言葉での誘導が効かない相手でしたのよ」


麗香はそこで一瞬、碧の目をまっすぐに見た。

その目が語っていた。——あなたは二回目、私の行動から私の意図を読んだ。それを私は知っている。


「……では次の回から、別の手を使いますわ」


麗香の声は穏やかだった。しかし碧の背筋に、冷たいものが走った。

今まで麗香は、まだ本気を出していなかったのだ。


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