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穴を掘る  作者: 常に移動する点P


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2/2

2・挑発

「あたし、乱暴にされると興奮するんだよね」

 結子の挑発に、誠一は飲み込まれた。塞いだ口が熱くまとわりつくと、それは強く脈打った。そこに心臓があるかのようだった。


 隣りに、絶えた竜也が枕木のように転がっている。生と死を分かつ境界線のようなところがあるとしたら、このベッドだと、誠一は意識を他に集中させた。

 結子が果てた誠一を執拗に、唇でしごく。

慌てて誠一が結子に覆いかぶさると、

「殴ってよ、首絞めて欲しい」

 と結子が懇願した。それは、この願いが叶えられて当然のような面持ちだった。


 二人が汗びっしょりで、朝を迎えた頃、竜也の死後硬直全身に広がっていた。

「朝メシ、食べる?」

 誠一が下着だけはいて、長らく付き合ったカップルのように問いかけた。

「うん」

 結子は昨晩投げ捨てられた魚肉ソーセージを見つけ、口に押し込んだ。やっぱり似てないや、そうつぶやくと、結子はシャツだけ着た。パンティーとブラジャーがいくら探しても見当たらないのだ。そもそも、着けていたか? とすら疑いたくなった。


 パンをトースターに2枚放り込む。タマゴを溶いて、小さいほうのフライパンで焼く。油がどこにあるかわからない。大きなフライパンは寝室だ。竜也を叩き殺すのに、大活躍した。フライパンの最期というのは、ああいった使い方が正しい。誰かを撲殺するために使うというのが、油まみれのフライパンとしても本望だろうに、と誠一は思った。


 下着を身に着けていないと明らかにわかる長めのTシャツを身体に突っ込んだだけの様相で結子がリビングにやって来た。

「ねぇ、お父さん、アレ、どうするの?」

「あぁ」

 誠一は生返事する。料理をしている時には話しかけられたくない。トイレも同じ、風呂も同じ、勉強も同じ、ゲームの時も。一人で集中している時に、話しかけないで欲しい。


「あぁって、あのままだと面倒なことになるじゃん」

「うるさいなぁ、始末するよ」

「どうやって? 切り刻むとか?」

「血がつくだろ」

「死んだ人から血が出るのかな?」

「鶏捌いたら、血出るよ」

「そっか」

 結子がわかった風に頷く。


 テーブルにトーストとコーヒー、スクランブルエッグとプロセスチーズが置かれる。

「ちゃんとした朝ごはんって久しぶり」

「ちゃんとはしてないよ。ありあわせだし」

 誠一は結子を見た。こんなに儚げな人だっただろうか。強いというか、強欲の女というか、厄介なバカ女という印象しかなかったが、どうしてか、線の細い柔らかさとしなやかさが目に映る。下着を身に着けていないからか、乳首がシャツ越しに位置と色、状態まではっきりわかる。


「あ、あとでね」

 視線に気づいた結子が食後の歯磨きのように当然のルーティンごととして誠一に差し出す。

「アイツとどこで知り合ったの?」

「え、気になる?」

「質問から答えが遠回りだな」

 誠一は不服そうに、コーヒーを喉奥に流し込んだ。

「店だよ、うちの。そのあと、駅前のパチンコ屋で何回か会って。偶然だよ。それで、まぁ、結婚しようって流れになってね」

「飛躍しすぎてない?」

 結子はパンの耳をちぎって、先に食べる。

「男と女って、飛躍からしかセックスはじまらないじゃん」

 結子は続ける。

「だって、昨日なんて、誠一が殺したあと、私たちセックスしたんだよ」

「そうだね」

「飛躍じゃん」


 朝食を終え、食器を片付ける結子を後ろから羽交い絞めにして、誠一は無理やり犯した。それは合意のない、行為だったが、結子は承知していた。朝から昼に、太陽の位置が変わる頃、二限目の授業にも間に合わないことがわかったところで、本格的に竜也の始末について誠一は考えた。子どもの頃よく言われていた。

「悪いことしたら、松の木の下に埋めるよ」

 和美の口癖だった。


 厳密には松の木の下となると、松を掘り起こさねばならない。鹿田家は、母方・父方の相続金によって潤っていた時期があった。その金で建てたのがこの家だ。二階建ての一軒家。庭が広い、セダンなら5台は余裕で置ける。手入れはあまり行き届いていない、和美にガンが見つかって以来、そういった家周りのことは些末になっている。

 唯一立派な松の木がある。枝の手入れはされていないが、枯れずに育っている。


「あの松の木の、隣にアイツを埋める」

 誠一はそう言うと、結子にも手伝うようにと命令した。

「わたし、命令されるの好きなんだよね」

 結子は誠一と一緒に、寝室へと向かった


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