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共鳴の咆哮

研究所の地下に鳴り響く警報音は、もはや恐怖の対象ではなかった。 ユナが幼い神獣の容器に触れた瞬間、彼女の中に宿る〈心詠〉の波動が、施設全体の魔導回路と干渉し、激しい火花を散らす。


「ユナ、下がってろ! ここからはオレの番だ!」


背後から迫る帝国軍の重装魔導兵に対し、レオンが一歩前に踏み出した。彼の拳には、剥き出しの怒りによって純度を高めた魔力が、青白い炎となって渦巻いている。


「秩序だの、繁栄だの……そんな反吐が出るような言葉で、この叫びを押し殺せると思うなよ!」


放たれたレオンの拳が空気を爆ぜさせ、衛兵たちの分厚い魔導盾を粉々に砕き散らす。それは、かつて演習場で自暴自棄に力を振るっていた彼が、守るべきものを見つけ、自らの血筋という呪いを「道を切り拓く力」へと昇華させた一撃だった。


一方、ユナは全神経を神獣たちの意識に集中させていた。 「……聞こえるわ。みんなの、奪われた名前の震えが。冷たい機械の中で、ずっと待っていたのね……」


ユナが父から受け継いだ〈真理の剣〉を鞘のまま掲げると、白銀の波動が容器を縛る術式を次々と中和していく。 翼をもがれた鷲、角を失った鹿――傷だらけの神獣たちが、数十年、数百年ぶりにその瞳に「自由」の光を取り戻した。ユナの指先が、最後に仔虎のような神獣の額に触れる。


「怖がらなくていい。さあ、立ち上がって! あなたたちは兵器じゃない。この世界を共に歩む、尊い命……自分の名前を叫んで!」


ユナの魂の叫びに応えるように、地下室に巨大な咆哮が木霊した。 それは、帝国が数千年の間、最も恐れ、隠蔽し続けてきた「命の共鳴」。 解放された神獣たちが、ユナとレオンを囲むように立ち並び、迫り来る追手たちを威圧する。かつて伝説の英雄カイルが理想とした、人と獣が対等に並び立つ光景が、この絶望の底で眩いばかりに再現されたのだ。


「馬鹿な……神獣が、人間と意志を通わせるなど……! そんな『非効率』なこと、あり得るはずがない! 奴らは資源だ、管理されるべき家畜なのだぞ!」


狼狽する研究員たちを背に、レオンは大扉を拳でブチ抜いた。 「非効率だと? ……笑わせんな。効率の名の下に心を殺すのがあんたたちの正義なら、そんなもんはオレがまとめてぶっ壊してやる。これが、あんたたちが切り捨てた『本当の世界』だ!」


地上へ繋がる出口からは、眩しいほどの朝日が差し込んでいた。 背後には崩壊しゆく略奪の施設と、過去の遺物。目の前には、どこまでも続く逃亡の荒野と、未知の明日。 だが、ユナとレオンの瞳に迷いはなかった。


「レオン、行きましょう。カイル様が愛した、この世界の本当の姿を、私たちの足で取り戻すために」


「ああ。ここからはもう、誰にも指図はさせない。オレたちの名前を、この大地に刻みつけてやろうぜ」


二人は解放された神獣たちの鼓動を感じながら、光の射す方角へと駆け出した。 それは、帝国という巨大な偽りの秩序に対する、たった二人と数頭の、だが世界を根底から揺るがす壮大な反乱の幕開けだった。

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