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父の剣、母の沈黙

長期休暇で帰郷した私を待っていたのは、実家の重苦しい沈黙だった。 私の父、ガリウス・ノクスは、帝国騎士団の末端に身を置く厳格な男だ。彼は私が学園で〈心詠魔法〉を使ったという知らせを聞き、ひどく憤っていた。


「あの魔法を使うなと、あれほど言ったはずだ。ノクス族の力は、関わる者すべてを不幸にする呪いなのだ」


食卓に響く父の低い声。傍らで母は、ただ黙って視線を落としている。 母はかつて、美しい「真名」を持っていたという。だが、父と結婚しノクス族の名を受け入れた時、彼女はその名を帝国に返上し、声を失ったかのように静かになった。


「……父様、私は呪いなんて思っていません。あの魔法で、私は人の心の痛みに触れた。それは支配じゃなく、理解するための――」


「黙れ!」


父が机を叩く。その拍子に、父の背後の飾り棚に置かれていた一振りの剣が、ガタリと揺れた。 鞘は古び、宝石一つ付いていない無骨な鉄の剣。だが、その瞬間、私の耳にだけ不思議な「音」が聞こえた。


キィィィィィィン……。


それは悲鳴のようでいて、歓喜のようでもある、透き通った金属音。 父が席を立った隙に、私は吸い寄せられるようにその剣に手を伸ばした。


「ユナ、いけない!」


母が初めて声を上げたが、遅かった。 私がその柄を握りしめた瞬間、私の手のひらにある「ノクシア」の紋章が、かつてないほど熱く脈動した。


“Evoca, Gladius Veritas.” (呼び覚ませ、真理の剣)


口をついて出たのは、習ったこともない古の詠唱。 古びた鞘が弾け飛び、中から現れたのは、磨き抜かれた鏡のように輝く白銀の刃だった。 剣からは柔らかな光が溢れ、私の頭の中に、一人の青年の記憶が流れ込んでくる。


――激しい炎の中、誰かのためにこの剣を振るう、背中の大きな男。 その男が、今の父と同じように、大切な何かを守るために唇を噛み締めている姿。


「……これ、は……」


「その剣は、我らノクスの一族が数千年前から守り抜いてきた遺産だ」


いつの間にか後ろに立っていた父が、寂しそうに剣を見つめていた。 「かつて、世界を再定義しようとした一人の英雄が目覚めさせた『真理の剣』の残骸。それは持ち主の心の強さを刃に変える。ユナ……お前がそれを目覚めさせたということは、お前の心はすでに、引き返せない場所まで来ているということか」


父は初めて、私を「呪われた子」としてではなく、一人の「継承者」として見た。 母の瞳には涙が浮かんでいる。母が沈黙を守ってきたのは、私にこの過酷な宿命を継がせたくなかったからなのだ。


この剣は、ただの武器じゃない。 カイルという人が未来に託した「問い」そのものだ。


「父様。私は、この剣と一緒に自分の名前を確かめに行きます。レオン……私の心を聞いてくれた、あの人と一緒に」


私は「心の剣」を握りしめた。 鞘に戻したその重みは、不思議と私の心を強く、静かに落ち着かせてくれた。

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