沈黙する獣たち
ネオに導かれ、ユナとレオンが辿り着いたのは、帝都郊外の森に隠された「魔導技術研究所」の廃墟……。表向きは放棄された施設だが、その地下からは、心臓を直接掴まれるような不快な振動が絶え間なく響いていた。
「……いいか、二人とも。これから見るものは、この国の繁栄の正体だ。目を逸らさずに焼き付けておけ」
ネオが指先で空間をなぞると、見えない結界が溶けるように消え、地下へと続く重厚なハッチが姿を現した。 階段を降りるにつれ、鼻を突くのは焼けた鉄と、腐敗した魔力の異臭。そして、耳を塞ぎたくなるような、低く、重い「泣き声」だった。
最深部の広間に足を踏み入れた瞬間、ユナは息を呑み、その場に立ち尽くした。
「……嘘、でしょ。こんなの、あんまりだわ……」
巨大な硝子容器の中に閉じ込められていたのは、かつて聖なる象徴と崇められた神獣たちの成れの果てだった。 翼をもがれ、全身に魔導回路を直接埋め込まれた白銀の双頭鷲。角を切り落とされ、絶えず魔力を吸い出し続けられる霊鹿。彼らは生きながらにして「部品」へと作り替えられ、ただ帝国の兵器にエネルギーを供給するだけの装置に成り果てていた。
「これが、帝国の誇る『魔導秩序』の真実だ」 ネオの声が、冷たく響く。 「カイル様は、神獣を隣人として、対等な友として共に歩む道を作った。だが今の帝国は、彼らの名前を奪い、声を持たぬ電池として消費している」
「……あいつら、どこまで命を馬鹿にすれば気が済むんだ!」
レオンの拳が、怒りに震えて白くなっていた。王家の一員として、自分たちが享受してきた豊かさが、この凄惨な犠牲の上に成り立っていたという事実に、彼の自尊心は激しく打ち砕かれていた。
「レオン、見て……あの子の目」
ユナが指差した先、一つの小さな容器の中に、まだ幼い仔虎のような神獣がいた。その瞳からは光が失われ、ただ「助けて」という無言の叫びだけが、ユナの〈心詠〉に流れ込んでくる。
「……読むんじゃない、聞くんだ。……そう言ったわね、ネオ」
ユナは震える手で容器に触れた。 瞬間、施設内に警報が鳴り響く。だが、ユナは手を離さなかった。 彼女の胸の奥で、カイルから受け継いだ「問い」の種が、静かに、だが熱く燃え上がった。
「奪われた名を取り戻す。……それが私の、私たちのやるべきことなのね」
ユナが放った微かな白銀の光が、幼い神獣の瞳に一瞬だけ正気を取り戻させた。 背後から迫る帝国の衛兵たちの足音。 二人は互いの目を見つめ合い、逃げるのではなく、この狂った秩序に立ち向かう決意を固めた。
数千年の沈黙を破り、奪われた者たちの反撃が、この暗い地下室から始まろうとしていた。




