表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

影の導き手

演習場での異変は、瞬く間に学園内の空気をご立たせた。「平民の娘が、貴族の術式を無力化した」という噂は、権威を重んじる教師たちの耳にも届き、ユナは釈明の余地もなく「禁忌魔法の使用容疑」として地下の尋問室へ連行されることになった。


「待ってください! 私は何も……あれは、ただ必死で……!」


冷たい石壁に囲まれた通路。背後から突き飛ばされ、ユナが床に手をついたその時、行く手を阻むように一人の影が立ちはだかった。


「そこまでにしろ。彼女が何をしたというんだ?」


低く、だが鋼のように硬い声。 そこにいたのは、先ほど演習場の隅でユナを見つめていた少年、レオンだった。彼は学園内でも「鼻つまみ者の王子」として疎まれているが、その身に纏う威圧感は並の騎士を凌駕していた。


「どけ、レオン。これは魔導院の決定だ。王位継承権を持たぬ貴様が口を挟むことではない」


「血筋や権利の話をしてるんじゃない。オレは、この学園の腐った理屈に吐き気がしてるだけだ」


レオンが拳を握りしめた瞬間、廊下の灯火が激しく揺れた。一触即発の空気が流れる。 だが、その緊張を切り裂いたのは、誰の足音もしない背後から聞こえた、静かな声だった。


「争いは、さらなる沈黙を生むだけだよ。若き獅子レオン、そして光を宿すユナ


壁の影から染み出すように現れたのは、奇妙な意匠の法衣を纏った男――ネオだった。 その外見は学生と大差ないほど若々しいが、漂わせる雰囲気は学園のどの教授よりも底知れず、重厚だった。


「……あんた、誰だ? 外部の人間がなぜここにいる」 レオンが警戒を強める。


「私はただの観測者だ。……ユナ、君が先ほど放ったのは、禁忌などではない。それは、失われたはずの『共鳴』の萌芽だ。君の魂が、世界の歪みを正そうと叫んだんだよ」


ネオの手が、ユナの震える肩に優しく触れた。その瞬間、ユナの心を支配していた恐怖が、不思議と凪のように静まっていく。


「君たちはまだ知らない。自分たちが、どれほど巨大な歴史のうねりの中に立っているのかを。……レオン、君が隠しているその拳の疼きも、ユナのその声も。すべては数千年前、一人の男が未来へ託した『問い』への答えなんだ」


ネオが指を鳴らすと、廊下を充満していた重苦しい魔圧が、まるで最初から存在しなかったかのように霧散した。衛兵たちは狐につままれたような顔で立ち尽くしている。


「ここを出よう。君たちには、見せなければならないものがある。帝国がひた隠しにしてきた、世界の『真の形』をね」


ユナは、レオンとネオの顔を交互に見た。 今この手を取れば、これまでの平穏(といっても、虐げられるだけの毎日だったが)には二度と戻れない。そんな予感があった。 けれど、ユナは迷わなかった。自分の名前が、その奥で熱く脈動しているのを感じたからだ。


「……行きます。私、知りたいんです。私のこの力が、何のためにあるのかを」


レオンもまた、鼻で笑って拳を解いた。 「面白そうじゃねえか。オレも、この退屈な学園の壁をぶち壊すきっかけを探してたところだ」


導き手ネオに連れられ、二人は学園の暗い回廊を抜け、月明かりの差す森へと駆け出した。 それは、帝国という巨大な鳥籠を飛び出し、伝説の英雄カイルが歩んだ真理への道を、再び辿り始める夜となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ