並んで歩く戦い
セリスの放った〈虚問〉の波動により、帝国全土を網の目のように覆っていた魔導通信が沈黙した。情報の鎖を断たれ、巨大な機構が混乱に陥ったその隙を突き、自由都市エルディアを包囲していた王国軍へ、逆転の総攻撃が開始される。
「ユナ、怖くないか?」
最前線、銀装の騎士たちが地平線を埋め尽くす光景を前に、レオンが隣に立つ私――ユナに問いかける。かつての彼なら、私を背後に隠し、一人で嵐の中に飛び込んでいっただろう。だが今は違う。私たちの間には、もうどちらかが上で、どちらかが下という「境界」はない。
「ええ。あなたの鼓動も、拳に込めた覚悟も、全部私の心に響いているから。……私たちは、もう一人じゃないわ」
私は〈真理の剣〉を正しく正視し、高く掲げた。 王国軍を率いるのは、レオンの異母兄でもある冷酷な将軍だった。 「反逆者レオン、そして呪われた名を持つ娘よ! 帝国の秩序に従わぬ者は、この場で塵に帰せ!」
将軍の号令と共に、魔導砲が一斉に火を噴く。 だが、その光が私たちに届くことはなかった。レオンが大地を蹴り、かつて学園で身につけた「沈静」の理をさらに進化させた一撃を放つ。
「秩序とは、誰かを踏みにじるための名じゃない! オレたちが守るのは、対等に響き合う命だ!」
ドォォォォォン!!
レオンの拳が空を裂き、発生した衝撃波が迫り来る魔導弾を真っ向から相殺する。その火花の隙間を縫って、私は〈心詠〉を戦場全体へ展開した。渦巻く兵士たちの恐怖、憎しみ、そして命令に従うだけの空虚な迷い。それらすべてを「読み取る」のではなく、一人の人間として「聞く」。
「読むんじゃない、聞くんだ……! あなたたちの心の奥にある、本当の名前を!」
私の詠唱に合わせて、エルディアから駆けつけた神獣たちが、レオンの拳の軌道に沿って光の翼を広げる。それは数千年前、カイル様が示した「調停者」の意志の再演。暴力による制圧ではなく、意志による共鳴。
「見てくれ、ユナ。カイル様が夢見た光景だ。命が、命として笑っている」
レオンの拳と私の剣が交差するたび、敵軍の士気は物理的な破壊によらず崩壊していく。代わりに、兵士たちの瞳には「自分たちが何のために戦っているのか」という根本的な問いが芽生え始めていた。武器を捨て、自分の名前を思い出す者たちが続出する。
私たちは戦っている。けれど、誰も殺してはいない。 境界を壊し、誰もが自分の名で歩き出せる世界を作るために、私たちはこの混沌を駆け抜ける。
「レオン、あそこよ! 敵の本陣に、かつてカイル様を苦しめた『支配の術式』の核があるわ!」
「ああ、一緒にぶち壊しに行こうぜ。……オレたちの名前を、この時代の歴史に刻むために!」
並んで走り出した二人の背中には、数千年の時を超えて、旅を続けるカイル様の意志が確かに宿っていた。光と影、人と神獣。すべての境界が溶け合う新しい夜明けを目指し、二人は戦場を真っ直ぐに突き進んでいった。




