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虚問の少年

ユナとレオンが「境界の森」で新たな誓いを立てていたその頃。  二人が去ったあとの王立魔導学園は、かつての活気を失い、軍の監視下にある冷たい檻へと変貌していた。


「……また、壊れたか」


 地下の特別訓練場。  分厚い魔導防壁で仕切られた空間の真ん中で、一人の少年が立っていた。  セリス。  二人の逃亡後に「特待生」として急遽編入された彼は、学園の誰もが触れることを禁じられた、大導師ヴァルディウス直属の秘蔵っ子だった。


 彼の前には、帝国の最新鋭魔導人形オートマタが三体、スクラップとなって転がっている。物理的な破壊ではない。人形たちを動かす術式そのものが、腐食したように「消失」していた。


「セリス君。あまり力を使いすぎないで。あなたの左腕にある〈虚問の印〉は、まだ不安定なの」


 防壁の外から、震える声で呼びかける女子生徒がいた。リュミエールだ。かつてユナを慕っていた彼女は、今やこの「死神」と揶揄される少年の唯一の監視役兼世話係を命じられていた。


「不安定? 違うな。こいつが『問い』に答えてくれないだけだ」


 セリスは忌々しげに、何重にも包帯が巻かれた左腕を睨みつけた。  包帯の隙間から、どろりとした漆黒の魔力が滲み出す。それは、第13話でカイル様が切り離し、歴史の底に捨てたはずの「虚無」の残滓。  ヴァルディウスは、カイルが封印した力を無理やり掘り起こし、この少年の魂に縫い付けたのだ。


「リュミエール。あんた、さっきの機械の音が聞こえたか? こいつらが壊れる瞬間、一瞬だけ叫んだんだ。『なぜ自分たちは作られたのか』ってな」


「え……? 機械が、そんなこと……」


「聞こえるんだよ、オレには。この腕が、世界中の『拒絶された声』に共鳴しやがる」


 セリスは自嘲気味に笑った。  彼には、学園の地下深く、「沈黙の回廊」に閉じ込められた神獣たちの悲鳴が、濁流のように流れ込んでくる。  ユナが〈心詠〉で命の輝きを読み取るなら、セリスは〈虚問〉で命の欠落を暴き出す。


「……ヴァルディウスが言ってたぜ。逃げ出した王子と娘が、辺境で『新しい秩序』なんてふざけた夢を見てるってな。笑わせるよな。光が強ければ強いほど、その足元の影は深くなるってのに」


 セリスはリュミエールの制止を無視し、訓練場を後にした。  その歩みに合わせて、廊下の魔導灯が次々と消灯していく。


 彼もまた、選ばれた者だった。  カイル様が未来へ託した「光」がユナとレオンなら、セリスはカイル様が背負いきれずに零れ落ちた「闇」を拾わされた者。


「ユナ、レオン……か。あんたたちが本当に世界を変えるってんなら、オレのこの『拒絶』さえも、その光で肯定してみせろよ」


 少年の瞳には、底知れぬ孤独と、それ以上に深い「渇き」が宿っていた。  光と影、そして虚無。  三つの運命が再び王都で交差する時、数千年の物語は本当の終焉へと加速し始める。

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