問いの継承
エルディアの守りをネオたちに託し、オレ、カイルは再び旅に出ていた。 神域での「契約の再定義」を経て、オレの体には白炎、黒雷、そして虚無の力が静かに、だが重く共存している。
立ち寄ったのは、帝国の北端にある名もなき辺境の村だった。 そこでオレは、村外れの丘で一人、空を見上げている不思議な瞳の少年に出会った。
「おじさん、その右手の模様、かっこいいね。それは魔法なの?」
少年の屈託のない「問い」に、オレは苦笑して隣に腰を下ろした。 「魔法……というよりは、約束の証かな。こいつらと、一緒に歩くためのね」
少年の名は、アルヴェンといった。 身なりは貧しいが、その背筋は驚くほど真っ直ぐで、瞳の奥には理不尽な世界を飲み込もうとする強い意志が宿っていた。
「ねえ、おじさんの力は、何のためにあるの? 悪いやつを倒すため? それとも、王様になるため?」
「……昔は、誰かを守るためだと思ってた。でも今は違う」 オレは右手の白炎を小さく灯し、少年の目の前で踊らせた。 「この力は、『問い続ける』ためにあるんだ。世界が正しいか、自分が誰であるか。その答えを他人に委ねないために」
アルヴェン少年は、真剣な眼差しでオレの言葉を聞いていた。 「問い続ける……。ボクも、おじさんみたいに強くなれるかな? この村の人たちが、神獣を怖がらないで済むような、そんな場所を作れるかな?」
「ああ、なれるさ。お前がその『問い』を忘れない限り」
オレは別れ際、少年の小さな拳に、オレの魔力の欠片をそっと込めた。 それは後に、アルヴェン家が「神獣の守護者」を自称する王族へと至る微かな光。だがオレが託したのは権力ではなく、いつか「対等な世界」を夢見た時のための道標だった。
「おじさん、ボク、忘れないよ! いつか、誰もが自分の名前を誇れる国を作るんだ!」
遠ざかる村を振り返りながら、オレは予感していた。 この少年が築く歴史もまた、いつか歪み、鎖へと変わるかもしれない。 だが、その鎖を断ち切る者もまた、オレたちが蒔いた「問い」の中から現れるはずだと。
オレの旅は終わらない。 虚無を宿したこの腕が朽ち果てる前に、この世界のすべての神獣と、すべての魂に「問い」を届けるために。
この丘で交わした名もなき約束が、数千年後、王子の座を捨ててユナの隣に立つレオンの「拳」の中で、再び熱を帯びて目覚めることになる。




