契約の再定義
虚無竜との激闘の傷が癒えぬまま、オレ、カイルはネオに連れられ、世界の命脈が流れる「神域の最深部」へと辿り着いた。 そこは結晶化した魔力が星空のようにまたたく、時間の概念さえ曖昧な場所だった。
「カイル、見ろ。これが既存の『契約術式』の核だ」
ネオが指し示した巨大な魔導文字の環。そこには、人が神獣の力を一方的に吸い上げ、従わせるための「支配の構図」が完璧な論理で組み上げられていた。
「これがある限り、神獣はいつまでも兵器であり続け、人はその力に依存し、驕り続ける。……壊すか、それとも書き換えるか。選ぶのは君だ」
オレは、右手の白炎と左手の黒雷を見つめた。 こいつらはオレに従っているんじゃない。オレがこいつらに「問い」を投げかけ、こいつらがそれに応えたいと思ってくれたから、ここにいるんだ。
「支配はやめだ。今日からオレたちは、主従の関係を捨てる」
オレはヴァルセリオンを抜き放ち、その核となる術式に剣先を突き立てた。 周囲の空間が軋み、神域そのものが拒絶反応を示す。だが、オレは構わず自身の魂を魔力に変えて流し込んだ。
「これからは、一方的な命令じゃない。互いに問い、互いに応える……終わりのない対話だ。神獣と人は、一つの目的のために歩む『共問者』になるんだ!」
“Re-Definitio Sacramenti — CO-INQUIRER!” (契約の再定義 —— 共問者へ!)
パリンッ! と、数千年の歴史を縛り続けてきた支配の環が砕け散った。 代わりに生まれたのは、細く、だが決して切れることのない光の糸。それはオレと神獣たちの魂を直接結び、互いの鼓動を感じ取れるほどの深い「共鳴」へと進化した。
「……信じられん。君は本当に、世界の法則を書き換えてしまったのか」
驚愕するネオを背に、オレは解放された神獣たちの穏やかな息吹を感じていた。 もう、右手の印は痛まない。それは「支配の重圧」から「対等の証」へと変わったからだ。
「支配の時代は終わった。今日から始まるのは、魂の対話の物語だ」
この時カイルが定義した「共問」の理は、数千年後の未来、ユナが〈心詠魔法〉によって人々の閉ざされた心を開き、レオンがその意志を拳で守り抜くための、揺るぎない「基盤」となる。
だが、この「平等」は、既存の秩序を重んじる帝国にとっては最大の反逆。 カイルの旅は、いよいよ世界すべてを相手にする調停者の道へと突き進んでいく。




