継承の拳
「……魔法を捨てた王子が、何を血迷ったかと思えば。その汚れた拳で、我ら帝国最強の盾を穿てるとでも?」
王都郊外、黄昏に染まる街道。レオンの前に立ちふさがったのは、重装魔導騎士団「アイアン・グレイル」の精鋭たちだった。彼らが纏う銀装の鎧は、あらゆる魔法を無効化する「反魔導合金」で造られており、魔導師にとっては天敵とも言える存在だ。
隊長の重厚な声と共に、数人の騎士が同時に突進してくる。 一歩一歩が地響きを立て、鋼鉄の巨躯が風を切る。普通の人間に太刀打ちできる相手ではない。
だが、レオンは逃げなかった。 彼は静かに腰を落とし、拳を握りしめた。その脳裏に、第4話でカイルが語った言葉が蘇る。 『拳は、己の命を一点に凝縮し、世界の理に直接問いかける力だ』
「……試してみるか。あんたたちの信じる『秩序の盾』が、俺の『問い』に耐えられるかどうかを!」
レオンが踏み込んだ。 瞬間、騎士が振り下ろした巨大な魔導剣を、レオンは紙一重でかわし、その懐に飛び込む。 反魔導の鎧は、外部からのエネルギーをすべて散らす。だが、レオンの拳は魔法ではない。筋肉、骨、そして魂の爆発が生み出す、純粋な物理的衝撃――いや、それ以上の「意志」の塊だった。
「響け……! 〈覇道の共鳴〉!!」
レオンの拳が、騎士の胸部装甲に激突した。 その瞬間、硬質な金属音が響くことはなかった。代わりに、鐘を突いたような重厚な「振動」が、鎧を透過して騎士の体内に直接叩き込まれた。
魔法を散らすための装甲は、内側から響く「肉体の対話」を遮ることはできない。 「な……が、はぁっ!?」 最強を誇った騎士が、一撃でその場に膝をつく。装甲には傷一つない。だが、その中身――魂を揺さぶる衝撃が、彼の戦意を根こそぎ奪い去っていた。
「バカな!? アイアン・グレイルの守りを、ただの素手で無効化したというのか!」
動揺する騎士団に向け、レオンは汗を拭いながら、不敵に笑った。 「あんたたちの鎧は、外側の声しか拒まない。……だが、俺の拳は心臓に直接『問い』を届けるんだ。お前らは、本当は何のためにその剣を振るってるんだってな!」
その拳の奥には、数千年前にカイルが石碑に刻んだ「問い」の響きが宿っていた。 カイルが第10話で法を破壊したように、レオンは今、拳で帝国の物理的な抑止力を破壊し始めたのだ。
「ユナ……。お前の準備ができるまで、こいつらは一人も通さない。……俺が、あんたの最強の盾になってやるよ、カイル様」
レオンの全身から、黄金色のオーラが立ち上る。 それは魔力ではない。一人の男が、自分の名を持って戦うと決めた時に放つ、命の輝きだった。




