境界を越える逃走
王都アルヴェンの夜が、警笛と魔導灯の光で切り裂かれる。
「逃がすな! ノクス族の娘と、狂った王子を捕らえろ!」
背後から迫る重装魔導騎士団の足音。私、ユナは、父から託されたあの「真理の剣」を抱きしめ、レオンと共に王都の地下水道へと飛び込んだ。 そこはかつて、カイルが帝国の目を盗んで通ったとされる隠された道――禁書に記されていた「調停者の通い路」だ。
「ユナ、大丈夫か!」
レオンが私の手を強く引きながら、迫りくる追撃の魔弾をその鋼の拳で叩き落とす。魔法を使わない彼の戦いは、この魔力封じの結界が張られた地下道では逆に強みとなっていた。
「私は大丈夫。……それよりレオン、本当にいいの? 王子の地位も、家族も、全部捨てて私と来るなんて」
走りながら問いかけた私に、レオンは足を止めずに答えた。 「地位なんて、最初から俺を縛る鎖でしかなかった。俺が俺であるために、そして君という『光』を守るために、俺はこの道を選ぶ。……それに、あの石碑の言葉を信じてるんだ」
地下道の突き当たり、行き止まりに見える壁に、古びた紋章が刻まれていた。カイルの「双竜の印」。 私がその紋章に手を触れ、自身の〈心詠〉を流し込んだ瞬間。
「……あけて、カイル。今の私たちに必要な道を」
ゴゴゴ……と地響きを立てて、数千年閉じられていた隠し扉が口を開けた。 その先には、王都の外壁を一気に飛び越え、遥か彼方の「境界の森」へと続く、光の差し込まない長い回廊が伸びていた。
「これだ。カイルがいつか来る『継承者』のために切り拓いておいた道……」
背後からは、追撃部隊の隊長の声が響く。 「そこまでだ、反逆者ども!」
だが、扉が閉まる直前、私は剣を抜き放ち、その輝きで追っ手たちの視界を焼き切った。 支配の光ではない、未来を照らすための白銀の閃光。
「さようなら、偽りの王都」
扉が閉まり、静寂が訪れる。 暗闇の回廊を、私たちはただ前へ、カイルがかつて目指した理想の地「エルディア」を夢見て走り続けた。
境界を越えた先にあるのは、自由か、それともさらなる絶望か。 オレたちの物語は、今、広大な世界へと解き放たれたんだ。




