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破壊と印章

帝都エルディア中央大聖堂。 かつてカイルが『共問法』を提唱し、数千人の市民と共に理想を語り合ったその聖域は、今や彼を社会的に抹殺するための断頭台へと変貌していた。


「……以上が罪状である。カイル、貴公は禁忌の魔法を弄び、神獣の調和を乱し、帝国の根幹を揺るがした。よって、その身分、名誉、そして『名前』を剥奪し、この地より永久に追放する!」


教皇の声が、冷たく、高い天井に響き渡る。 周囲を取り囲む魔導師や貴族たちは、まるで汚物を見るような目でカイルを見下ろしていた。彼らにとって、カイルが説く「対話」や「共鳴」は、選民思想という特権を脅かす毒でしかなかった。


「……身分の剥奪か。いいだろう。そんなものは、あんたたちが勝手に決めた記号に過ぎない」


カイルは拘束の鎖を嵌められたまま、静かに、だが地響きのような低音で笑った。


「だが教皇、一つだけ教えてくれ。あんたの言う『秩序』に、神獣たちの悲鳴は含まれているのか? 地下で名前を奪われ、電池のように消費される命の叫びが、その高い玉座まで届いたことはあるのか?」


「黙れ! 罪人が! 貴公のような異端に、この国の歴史を語る資格はない。……衛兵、その口を封じろ!」


教皇が王笏を振り下ろそうとした、その時だった。


カイルの右手の痣――白炎竜と黒雷竜の印が、かつてないほど激しく脈動した。 それは拒絶への怒りではない。世界に満ちる歪な「定義」を、根底から書き換えようとする意志の爆発だった。


カイルの体から、目も眩むような白銀の波動が爆発的に噴き出した。 物理的な衝撃ではない。それは「存在の密度」そのものが、その場にいる全員を圧倒する精神的重圧となって襲いかかったのだ。


「……ならば、その『資格』とやらを、俺が直々に再定義してやる」


カイルが左腕を高く掲げた。 瞬間、最高硬度の魔導合金で作られた拘束鎖が、耐えきれずガラス細工のように粉々に砕け散る。 そして、彼の腕に浮かび上がったのは、伝説の創世記にのみ記された、神の署名――**〈聖王印セイント・ロゴス〉**だった。


「な……ば、バカな!? それは始祖のみが許された、理を記述する権能……!? なぜ、ただの魔導師に過ぎぬ貴公に、その印が……!!」


教皇が腰を抜かし、玉座から転げ落ちる。 周囲の魔導師たちは、あまりの魔力格差に膝をつき、呼吸を忘れて嘔吐した。彼らが何十年、何百年と積み上げてきた魔導の常識が、カイルという一人の存在によって「誤り」だと断定された瞬間だった。


「この印は、支配のための力じゃない。世界と対等に『問い』を交わし続けた者にのみ宿る、対話の証だ。……名前に縋り、他者を踏みにじるお前たちには、生涯理解できないだろうがな」


カイルは、絶叫と混乱に包まれる大聖堂を悠然と歩き出した。 誰も彼を止めることはできない。彼の背中には、もはや「帝国の一賢者」という肩書きはなく、神話から抜け出してきた「真の王」の威厳があった。


出口の巨大な扉を前に、カイルは一度だけ立ち止まり、背後の豪華絢爛な聖堂を振り返った。 その指先が、空中に一文字を描く。


「……壊せ。新しい『問い』が生まれる場所を作るために」


一言。 彼の意志が「プロトコル」となって世界に干渉した。 瞬間、数千年の歴史を象徴する聖堂の主柱に、巨大な亀裂が走る。 悲鳴を上げて逃げ惑う権力者たちを背に、カイルは一歩、光の中へと踏み出した。


「さらばだ。……次に俺の名が呼ばれる時、この国の偽りの秩序は、跡形もなく消えているだろう」


その日、帝国の歴史は一度死に、新しい伝説が産声を上げた。 カイルの去った後、大聖堂の崩れた壁には、誰の手によっても、いかなる魔法によっても消すことのできない「問い」の文字が、深く、深く刻まれていた。

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