アウトサイダー
「ん...。」
目が覚める。
そこは、なんてことはない学校の教室の窓側ほぼ中央の席。周りを見渡すも自分以外誰1人としていない。
それもそのはず。現在時刻は7:00ちょうど。
登校してくるにはあまりにも早すぎる時間帯だろう。
ではなぜ僕、『夜栄 シン』がこの教室にこんなにも早く登校しているかといえば…。
「来ているな、シン。」
教室の扉が開き、女性が入ってくる。
腰ほどまで伸びた黒髪、緋色の瞳に黒縁の眼鏡をかけ、少しばかり人に厳しい印象を与えるような、それでいてとても整った顔立ちをしている美人だ。
スーツに身を包み、手には液晶タブレット。もう片方の手ではコーヒー缶を持っている。
「さて、面談を始めるとするか。」
そう言って彼女、『緋原 グレン』は僕の正面の席を僕の席と向き合うような形にし、そこに座る。
『緋原 グレン』。
僕のクラスの担任であり、国お抱えの魔法師である『超越級』と呼ばれる階級を持つ偉大な魔法師であり、僕の過去を知る数少ない知人の1人でもある。
「それでグレン先生、面談ということで呼ばれたわけですが、なぜ面談をするんですか?
正直言って心当たりがないんですけど。」
「ほぅ、心当たりがないのか、そうなのか。
じゃあお前、階級制度について説明してみろ。
説明が間違っていたら楽しい楽しい私との補習をプレゼントしよう。」
正直この言葉だけ取れば100人中100人が飛んで喜ぶだろう発言。なにせ、こんな美人とのデートだ。
だが、ここでいうデートとは補習なのである。
普段から厳しい印象がある人だが、僕に対しては殊更に厳しい。
そんな人の補習である。………意外と悪くないのでは?
などと思いつつも、一応真面目に答えることにする。
「まず、階級制度とはこのクロスフィールド内で適用される、魔術師の等級を表すもので、一般的には上から順に、〈超越級〉〈極致級〉〈指揮級〉〈一般級〉と4つに区分されます。
また、これはあくまでも大まかに分けたものであり、細かく区分することもできます。さらに、この4つの分類に当てはまらない例外的な階級も存在します。
これでどうですか?先生。」
この答えを聞いたグレン先生は一つ頷くと、
「ふむ、そうだな。まぁ、及第点だ。
で、お前の階級はなんだったかな?ん?」
「〈一般級〉です。」
もちろん笑って即答。そして、グレン先生もこの答えを聞いて笑顔になる。
うん。やっぱ、朝に見る美人の笑顔は1日を過ごす活力を与えてくれるんだよなー。
などと考えているとグレン先生の右手がこちらに向かって伸びてくる。
頭を撫でてくれるのかな?と思った次の瞬間。
「いだだだだだだだだだだだだ!!!!」
僕は絶叫をあげる。
理由はシンプル。先生の右手は僕の頭を撫でるのではなく、僕の顔にアイアンクローをかけているのだ。
そして、どすの利いた一声。
「何馬鹿げたこと言ってんだ?」
この声を聞いて僕はすかさず謝罪と言い訳タイムに入る。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ふざけました!でも仕方ないじゃないか!世間体的には一応〈一般級〉に分類されてるんだから!というかグレンも「あの」呼称を嫌っていたじゃないか!なのにそれを僕の口から言わせようとしてるのが矛盾してるんだよ!僕は何も悪くない!」
「あぁ、そうだな。たしかに私は〈落第級〉という呼称は嫌いだ。…(正確にはお前がそう呼ばれてるのが気に食わないんだが。)」
「あの、途中から何言ってるか聞こえなかったんですけどぉぉおあああぁぁぁぁなんか力強くなってるって!」
「うるさい!ともかく、お前がしっかりしないせいでそうなっていることを忘れるな!あと一応グレン『先生』だろ!」
「うぁぁぁぁああああ!ごめんなさいごめんなさい!グレン先生!」
それからしばらくして解放された後、グレン先生が口を開く。
「その、お前の体質のことは知っているし、それがどうにもならないことはわかってはいるが、もう少し努力しろ。…〈落第級〉と呼ばれないようにな。」
「わかったよ。」
「ん???」
「……わかりましたよ、グレン先生。」
「ならばよろしい。」
〈落第級〉。
それは世間では〈一般級〉とされているが、実力的にはそれ以下の人々を指す蔑称である。
そして僕もまた、分類で言えば〈落第級〉に属する1人なのだ。