追憶
これから本作、「シンギュライズ・ワン」をどうぞよろしくお願いします!
その光景を見て夢だと察する。
それはいつの日か見た光景。まだ何も知らず、何も感じず、幸せだった日常の一部。そして、今となってはもう享受することのできないもの。
目の前の人が口を開き、言葉を紡ぐ。
目の前の人の周りにはたくさんの花が咲き誇る。
目の前の人がこちらに気づき、手招きをする。
庭園の一角、幾つもの花々の中に座り、『魔法』を扱う女性。
その人に近づくと、作られた花がさまざまなもので形作られていることがわかる。火、水、土、その他にもたくさん。
こちらの魔法への興味を察したのだろう。触るように促される。火は熱さを感じず、水は手が濡れず、土は崩れることがない。
驚いていると優しい声で言葉が紡がれる。
「いつかきっとあなたにもできるようになるわ。だってあなたは・・・・・・。」
あぁ、そうだった。だからこそ。
そして、目の前が暗くなり、景色が変わる。
気がつくと、白い壁に囲われている。
一部分だけがガラス張りになっていて、そこに数人、白衣を羽織った人がいる。何事かを話しているようだが、こちらには聞こえない。
そこから1人が消えたかと思うと、白い壁の一部が横にスライドし、消えた人が現れる。
その人はこちらの腕を掴み、別の部屋へ連れて行く。
ついた先の部屋にはもう1人、自分と同じくらいの子がこちらを向いている。
顔にはモヤがかかっていて、よくわからない。
そうだ、この子もこれまでのその他大勢と変わらない。
あの幸せな日々の代わりに、新たな日常となったこの生活の一部に過ぎない。
右手を開いて、腕を前に伸ばす。
かつて見た、あの綺麗なものを再現するための力を目の前の存在を殺すために使う。
ただ、それだけ。
言葉を紡ぎ、一瞬の後、相手が発動しようとした魔法が『暴発』する。本来はただ火の玉を射出するだけの魔法。しかしそれは、発射前に急速に膨張し、相手を巻き込みながら大爆発を引き起こした。
そしてその後には初めから何もなかったかのように、何一つとして残っていなかった。
これを見ていたのであろう白衣の人がまた現れ、腕を掴み、元いた部屋へと連れて行く。
ここはまるで『牢獄』で、そこで生活する僕らはまるで『囚人』のようで。
こんなこと、いつまで続くんだろうと考える余裕も無くなるくらい長く囚われていた。でも、そんな日々もまた、終わりを告げる。
あの庭園での日々のように。
そして再び、意識が落ちる。
いや、覚醒するのだ。
夢から現実へと。
これは、証明する物語である。
血塗られたこれまでを。そして、希望に満ちたこれからを。