神の再会
あれから数分程度で彼女は目を覚ました。その後はギルドとやらの管理人的なやつが出てきて色々聞かれた。
管理人「まさか、この嬢ちゃんが、あのデッドオーガを、しかも変異種を倒したとは…にわかには信じられないな…」
彼女「そう思うのも無理はありません。でも本当のことなんです。」
セティール「私は神だからな。この程度容易だ。」
そんなことをいう私に疑うような目で見てくる。不愉快だが、疑うのも無理はない。実界の時間換算で最低でも1000年以上、神はこの世界に干渉をしていない。理由はいくつかある。一つは神が干渉すれば実界の天秤が大きく揺れ動くからだ。実界は神の天秤によって存在し続けられている。だが、そこに神が乗れば、天秤は大きく揺れ実界の存在が不安定になるのだ。それを避けるために実界に干渉しない神が多い。ただ今回の私のように存在が小さい者に関してはさほど揺れないため大丈夫だったりする。問題はもう一つの方、神という存在が実界では巨大すぎると言うことだ。神は実界の上位存在だ。そしてその差は多少ではない。そのため神が実界にいると実界が大きく変わってしまう。そしてこれは天秤と違って存在が小さい大きい関係なく起こることだ。例えば今回のデッドオーガとやらも、たまたまのように見えるがその実、私が実界に来たからでもある。
ローラル「はぁ…貴方が神ということはわかりました…あ、名乗っていませんでしたね。私はローラル」
リト「俺は冒険者ギルドのギルドマスター、リトだ。で、嬢ちゃんはなんなんだ?」
セティール「ふむ…名乗られたなら名乗り返さねば無礼だな。私は最上神にして神界の管理人、セティールだ」
ローラル「セティールね。今回は助かったわ。あなたがいなかったら私は死んでいた。いや、私だけじゃない。この都市の人たちも危なかったかもしれない。本当にありがとう」
リト「ギルドを代表させて言わせてもらう。本当にありがとうございました。あなたがローラルを助けていなかったらきっとうちはもっと大規模な損害を受けていた。いや、今この都市にはS級冒険者がいない…もしかしたら壊滅まで行っていたかもしれない。本当に感謝している」
セティール「そうか。それならいい。」
感謝とは言い換えれば信仰だ。そしてその信仰が私の存在回復に繋がる。それ故に感謝されるのは別に嫌ではない。逆にありがたいまである。今の私の存在は50程度、通常の人間は2〜3のため、人間と比べれば、まだ上位存在と言える。だが神の中ではという話になる。神は位が低いやつでも500以上はある。私の10倍だ。全開した私の存在はそれとも比べられないほど桁が大きい。それと比べれば50なんて…天使ですら100前後なのにだ…
セティール『早く信仰を集めて存在回復をしなければならないのに…先は長そうね』
最低でも500まで回復しなければ神界では存在の維持を意識的に行わなければならない。500まで回復出来れば自然と存在の維持が行える。存在同士が維持し合うからだ。
セティール「この世界で1番感謝をされる職業はなんだ?」
リト「なぜそんな話をするのかは分かりませんが…そうですね…私の考えですが、この世の職業は全て誰かしらから感謝されていると思います。それが悪行を行うものでもです。ですがその全てを合わせても1番感謝される職業となるとやはり…」
リトは一拍おき答える
リト「冒険者ではないでしょうか?」
セティール「冒険者…」『出来れば戦闘系の職業は避けたかったけど、やはりリスクは付き物ということかしら…』
ローラル「セティールさんはすごく強いですし向いてると思います!」
セティール「ふむ…わかった。では冒険者になるとしよう。で、まずは何をしたらいいのだ?」
リト「そうですね…本来は冒険者になるためには試験があるのですが…今回の場合は既にデッドオーガを倒したという実績がありますし…かと言って試験を行わずA級冒険者とすると他の冒険者から反発が起こることでしょう…」
セティール「そうか、ならば試験をするとしよう。試験内容は…」
………
リト「では、また後日連絡します。あ、あとこちらが謝礼金になります」
そう言ってリトは大量の金貨と角を渡してきた。
リト「変異種のデッドオーガ討伐の報酬金とローラルさんを助けてくださった御礼金、そしてこちらの角はそのデッドオーガの角になります」
セティール「ふむ…この角は要らんな…」
ローラル「いらないんですか!?デッドオーガの角とかすごく希少なんですよ!?」
セティール「そんなに高価なのか?」
ローラル「もちろんです!これを使えばしかも変異種の角ともなれば使い道はいつらでもありますよ!」
セティール「そんなものなのか…」『だが私には必要ないしなぁ…』「それなら君にあげることにしよう」
ローラル「えぇ!?いいんですか!?」
セティール「ああ、構わない。ギルドとしても問題は無いだろう?」
リト「はい。既にセティールさんに授与したものですので…ですが本当によろしいのですか?デッドオーガの角はとてつもない頑丈さを誇るので売る以外にも武器にするという手も…」
セティール「関係ないな。これはローラルにあげる。」
そう言って私はローラルに角を与える。そもそもこの程度の頑丈さなら私が影響変化でそこらへんの木の棒に頑丈さを上げれば同じぐらいにはなる。つまりこの角に私はあまり魅力を感じていないのだ。そしてそれを受け取るぐらいならローラルに与えて信仰心を増やした方が私としては利益が大きい。
ローラル「わぁ!ありがとうございます!どこまでも着いていきます!」
セティール「では、私は立ち去らせてもらおう」
そう言って私はその場を後にする。その部屋から出たら色んな者たちから見られる。その視線は色々だ。畏怖だったり興味だったり尊敬だったり…私はそんな視線を無視してギルドから出る。
セティール『まずは宿からね』
本来は家を買いたいのだが、もう既に日が暮れ始めている。今から家を買いに行っても時間的に今日中に買うのは不可能だろう。なら早めに宿を見つけた方がいいと判断した。それから数分歩くと1つの宿が目に入る。見た目はボロボロ、そして人の気配がしない。でも、私にはわかる。これは影響変化によって見え方を変えている…つまり中にいるのは神だ。ギィィと入り口の扉を開く…
「いらっしゃいませ!」
セティール「な!君は!」
「えっ!?セティール様ですか?なんでこんな所に!?しかもその存在量…もしかしてセティール様もテロールに負けたんですか!?」
セティール「そんなことは無いわ。ちゃんと殺したわ。それにしても驚きね。ハーリン…貴方がこんな所で働いていたなんて…いや、そもそも生きていたなんて」
ハーリンは忘却の神、神の中ではかなり弱い部類に入るがそれでも今の私よりは強いはずだ。
ハーリン「私はチェンド先輩に逃がしてもらったんです…」
セティール「なるほど…チェンドね…」
チェンドは夢想の神、実界の者たちのこうであって欲しい、こうなりたいなどの願いを扱う神で、神の中では真ん中程度の地位にいた。チェドンはハーリンには優しかった記憶がある。
ハーリン「チェドン先輩がどうなったのか知っていますか?」
セティール「私にも分からないわ。でも私がローラルを殺した時には既に私以外の神は神界には存在しなかったわ。」
ハーリン「そう…ですか」
セティール「ただ、あのチェドンのことよ。逃げの算段はつけていたはずよ。生き残ってる確率は6割程度はあると思っているわ。」
嘘だ。あの状況で生き残るのはかなり大変だ。多分ハーリンを逃がせたのはローラルが神々の居場所に気づく前だったからだろう。だが気づかれた後に逃げるのは困難だ。6割と言ったが現実的な数値だと2割を切るかもしれない。だが、その2割もチェドンだから言えることだ。チェドンの存在付与《夢想》の効果はチェドンの願った結果を引き起こすと言うものだ。願いの質によって使われる存在の量は違うが、その存在付与さえ使えば逃げることももしかしたら出来たかもしれない。だが他の神でそれが出来る者は少ない。それが例えチェドンより神位が高い神であってもだ。
セティール「それでなんで貴方はこんな所で宿を経営していたの?」
ハーリン「それは存在回復のためと私以外に実界にいる神を探すためです」
セティール「どういうことかしら?」
ハーリン「この宿には常に私の存在を流し続けています。まあ、無理のない範囲でですが…それで普通の人間にはこの宿を認識するのが困難になっているです。もちろん認識する人間もいるので、その方々をおもてなしして信仰を少しだけでもしてもらってるんです。そして、この宿を違和感なく認識出来た方はほぼ確実に神ということです」
セティール「なるほどね」
神は実界の者たちとは違い他の神の存在に対する耐性が多少付いている。そのため、ハーリンの存在付与《忘却》関しても人間より神の方が認識しやすい。ただ、その存在付与が微小すぎるため神はそもそも存在付与がかかっていることにすら気づかない。存在を温存しなければならない状況でこれは有効だ。
セティール「理由はわかったわ。で、私も泊まっていいかしら?お代は出すわよ」
ハーリン「えぇ!そ、そんな!セティール様からお金をいただくなんて!そんなこと!」
セティール「構わないわ。私たち神は飲食は最低限でいいし、武器とかも影響変化でどうとでもなるもの」
いくら実界の生物と同じように内蔵という概念が生まれたとしても神は神だ。1週間に1滴の水とリンゴ1個程度食べれば生きていける。それこそ私の存在を使えばそこら辺の空気をリンゴや水に変えられるため問題ないのだ。服も同様に不要。ただ宿に関しては別だ。家を作ることは出来るがそれだと目立ってしまう。目立つのはいいのだが、人が多くなると信仰の質というものを下がってしまう。そのため、目立たず、複数人の人間から信仰してもらうのが理想だ。
ハーリン「そこまで仰られるなら…わかりました。」
そう言ってハーリンは私に鍵を渡してくる。
ハーリン「セティール様の部屋は3階の1番奥の部屋です。番号は312ですね」
セティール「わかったわ。それじゃあ数日分の代金を置いておくわね。」
そう言って私は金貨を何枚か置き部屋に向かった…