神の降臨
気づくとそこは森の中だった。いつもなら狙った位置に転移できたのだが、今回は無理矢理繋げたこともあって、流石に位置までは選べなかった。
セティール「まずは場所の特定ね…」
そして私はまずは人間の居そうな街を探すことにした。ある程度歩いた時だった。
「きゃあぁぁぁ」
近くで悲鳴が聞こえた。見捨てることもできるが、人間に会える機会かもしれない。このまま何も考えずに彷徨ってもいつかは見つけられるだろうが、人間から聞き出せるならそれに越したことはない。私は即座に悲鳴の方向に走り出した。
……
私、ローラルは今、デッドオーガと戦っていた…デッドオーガはA級に分類されるモンスターで、一体だけで大規模な災害を起こすことができるほどだ。私はA級冒険者、通常同じA級なら冒険者の方が勝つはずだった。でもこいつは…
ローラル「変異種…」
モンスターの中にはたまに変異種と呼ばれる通常より強力なモンスターが生まれることがある。そうなったモンスターは通常種よりランクが一つ分上がる。今回のデッドオーガはS級と言うことになる。S級冒険者はそんなに数がいるわけではない。A級ですら数がいるわけではない。そんな状態で…
ローラル「ここまでか…」
私が諦めようとした時だった。私は誰かによって助けられた。そこにいたのは綺麗な長い白い髪を靡かせた少女だった。身長は150にも満たないだろう。肌は白く、服装はブカブカで、なのにどこか神秘的に感じさせる見た目をしている。でも、どこから見ても少女だ。デッドオーガ、しかも変異種に勝てるようには見えない…
ローラル「は…早く…にげ…て」
私がそう言うと少女は振り返り、座り込む私を見下ろす。少女の瞳は髪と同じで白く、顔立ちはかなり整っており、絶世の美少女と言えるだろう。そしてそんな瞳に目が合うと私は全てを見透かされているような気持ちになった。私がそう思っていると少女が口を開く。
少女「安心していいわ。私が、あの程度の肉塊に負けるはずがない」
少女がそういう時デッドオーガが私たちを見つけて距離を詰めにきた。デッドオーガの大きさは7メートル以上、横幅は2〜3メートルはある。少女と比べるとさらに大きく感じてしまうほどの差がある。デッドオーガはウガァァァと叫びながら棍棒を振り回しながら攻めてくる。死を覚悟した私と違って少女は不機嫌そうな表情をしていた。
少女「程度の低い肉塊よ…その臭い匂いを私に振り撒くでない…不愉快よ」
少女はそう言って近くの石を拾う。そうすると大きく振りかぶり、デッドオーガに向かって投げつける。その石は一瞬で消え去り、あたりはその衝撃波で風が吹き荒れる。目を開けることすらできないほどの風圧だ。そしてその風は10秒程度で止んだ。私は恐る恐る目を開く。そして私は目の前の光景に驚きを隠せず目を見開いた。そこにあったのは平然と立っている少女と、上半身が消え去り、その場で倒れているデッドオーガだった肉の塊だった。
ローラル「あなたは…何者なの?」
私が若干怯え気味に質問する。すると少女は髪をひらりとたなびかせて振り返り、口を開く。
セティール「私はセティール、最強の神よ。」
少女はそう名乗るとその場に倒れ込み気絶した。
ローラル「え?……えぇぇぇぇぇぇ!?」
……
私は存在が少ないのにも関わらず、影響変化を使ってしまった。影響変化は存在付与よりは存在を消費しないが、多少は消費している。そのため私は気絶し、倒れてしまった。
セティール『はぁ…カッコつけなければよかった……』
あの程度の肉塊なら影響変化どころか存在付与すら必要なかった。ではなぜそんなことをしたのか。それはカッコをつけるため…ではなく、助けた彼女に私のことを神だと思わせるためである。存在とはその場での知名度によって回復速度が変わる。例えば前の神界なら一瞬で回復していた。だからテドールは先に周りの神々を殺し、私の存在の回復を止めたのだろう…回復は敬われているか怯えられているかどうかでも変わる。敬わられていれば回復速度は上がるが、怯えや恐怖などの負の感情による知名度だと回復はしない。テドールは悪神として色んな神に知られていたが存在回復をしていなかったのはそんな理由がある。そしていち早く回復するためにはいろんなもの達を助ける必要がある。これは生物という括りではない。もちろん無生物からも敬わられることは可能だ。だが、生がないため回復する存在の量も少ない。
セティール『どうしようかなぁ…』
私がそう思っていると、やっと気絶から解放された。私は気がつくと、先ほどの女性に担がれ、目の前には壁と門があった。
女性「あ、やっと目を覚ましたんだね。もう少しで都市に入れるから待っててね」
女性はそう言いながら門番に近づく。
門番「あ!ローラルさんじゃないか!どうしたんだい、その怪我!それに後ろの美少女は?」
女性「話はまた別の機会でいいですか?早めに治療やギルドに報告をしたくて」
門番「お…おう。そうだな。それじゃあギルドカードを出してくれ。そこの嬢ちゃんは持ってるのか?」
女性「いえ、彼女は持っていません。ですが私が一時的に彼女の身分を保証します」
門番「ふむ…わかった。ローラルさんがそこまで言うならそうしよう。それじゃあ、気をつけてな。」
そして私と彼女はその壁の中に入った。
セティール『ほう…これは中々だな』
中には家が立ち並び人々が歩き回っていた。そんな中彼女は人々を押し退けどこかに向かっている。数分するとその場所についた。その中に入るといろんな奴らがこちらを睨む。彼女はそれを無視して、カウンターに向かう。
彼女「すみません。A級冒険者のローラルなのですが…」
彼女がそう言うと慌てたように女性が現れた。受付嬢だろうか?
受付嬢「ローラルさん!どうしたんですか、その怪我!あとその少女も!」
彼女「それについては後で説明します…それより…回復をお願いできませんか?」
受付嬢「回復魔法が使える方!集まってください!」
受付嬢がそういうと、周りからいろんな種族が集まってくる。そして受付嬢の指揮のもと回復を施して行く。だが…
セティール『遅い』
神である私からみるとかなり遅い。この程度の怪我の治癒にこの大人数でこの遅さとは…
セティール「退け、私1人で十分だ」
受付嬢「あ、貴方はローラルさんが担いでたお嬢ちゃん」
セティール「お嬢ちゃんではない。私はセティールだ。」
私はそう言って彼女に手を当てる。私とて存在がそこまであるわけではない。先の肉塊のせいでこっちにきた時より少ない。だが、この程度の治癒なら…
受付嬢「嘘……」
次々と彼女の怪我が修復されて行く。それはまるで時間が巻き戻っていると思わせるほどだ。どうやったのかと言うと存在付与と同じ要領だ。私の存在を与えることによって彼女は一時的に一般人より若干神に近い存在になった。そのため彼女の回復は彼女の存在によって行われるようになっている。そして彼女は見た感じいろんな人から敬わられている。それのおかげで彼女自身の存在はそこまで減らない。だがこれは誰にでもできることではない。存在の回復が少なかった場合、逆に殺すことになる。そもそも私の存在との相性が悪く反発する場合もある。その場合、逆に毒となり即座に私の存在を回収しないといけなくなる。
セティール「こんなものかしら」
そうこうしていると完璧に回復が終わった。彼女にとってはかなりの怪我だったのだろう。想像より数秒時間がかかっていた。
セティール『ここであなたに死なれると助けた意味が薄れる。』
元は人のいる場所への案内が目的だったが、運良く存在回復に繋げられそうな状況になっていた。なら死なすわけにはいかない。一刻も早く神界に戻り復旧を進めなければならないのだから。
セティール「さっさと目を覚ますがいい」