第三話 「え?それって私がクールビューティーってこと?」「クールビューティー(笑)」
翌日、俺はいつもよりも少し早めに朝の支度を済ませ、エントランスで彼女を待っていた。
昨日の夜、いつもより早めに寝たのもあって、全然眠くない。
というわけでせっかく早めに出たのだから、ここで待ち伏せて桜木さんを驚かせてやろうっていう算段だ。
クックックッ、桜木さんの驚く顔が目に浮かぶぜ…きっと、「キャー瀬戸くんと朝から会えて幸せ〜」と、黄色い悲鳴を上げるに違いない…
「瀬戸くん?こんなところで何してるのかしら?」
気づいたら背後に桜木さんが立っていた。…いつの間に?てか、自然と背後取るの怖いからやめてほしいんだけど。
「いや、背後を取るも何も貴方、ずっとこっちに背を向けてるじゃない」
「あれ?声に出てた?」
「ええ。というか、ずっと声に出てたわね」
「…ちなみにいつから聞いてた?」
「不快な私の声真似から」
「……もしかして…桜木さん?怒っていらっしゃったり…?」
「別に…そんなことないわよ?」
嘘だ。絶対に嘘だ。顔には恐ろしいまでに輝いた笑顔を浮かべているのに背後から禍々しい黒いオーラが出ている。
「すみませんでした」
俺はすぐさま躊躇うことなく土下座した。これは比喩とかそういうのでもなくガチ土下座だ。公衆の面前?プライド?
ハッ、そんなもんこの圧倒的恐怖の前では無力。だってしょうがないじゃない、怖い物はコワインダモノ
「――はぁ。しょうがないわね。ほら、一緒に行くわよ」
「お、おう」
というわけで、徐々にテンプレになりつつあるこの会話も終わり、俺達は学校へと向かう。
ちなみにその道中でも同じようなじゃれ合い?が何回かあったことをここに言っておく。
だって桜木さん、からかい甲斐があるからね。うんうん、しゃーないしゃーない。
…なんかまた隣から冷たい視線が…エスパーかな?
これ以上は身の危険を感じるので自重することにしよう。
2人で教室に入ると、教室がざわついてる気がする。
どうしたんだろ?とか思いつつ、近くの男子…はどうせ噂に疎そうだから…お、女子。
「早瀬さん、どうして教室がざわついてるか分かったりする?」
「うーん、自覚症状ナシかー、これは重症だね」
と何か遠回しにお前のことだと言われながらついでにdisられた気がする…辛い。
まあ何となく早瀬さんの一言で分かった気がする。
これはあれだ、いわゆる好奇の目ってやつだ。
いや、冷静によく考えたら昨日まで大して仲良くなさそうな二人が、今日急に仲良く一緒に学校まできたのだ。そりゃ、まあ、うん。分かる気がする。
あと忘れてたけど桜木さん可愛いからね…結構モテてるらしいし。
…ま、そんなこともあるさと考えを切り替え、再び桜木さんで遊ぶことにする。
「桜木さん、俺ら噂になってるって!ラブラブカップルとして」
とここでいきなり爆弾発言をブチ込んでみる。周囲がやっぱりあの2人付き合ってるのかという空気になって生温かい目でこちらを見てくる。
…自分でやっといてアレだけど、これ自分にもそこそこダメージ入るな…
「ラ、ラブラブって…そんなバカップルみたいな…」
お、照れてる。ここでもう一押し!
「まー、でも噂になるのもしょうがないか。桜木さん、可愛いもんね!」
「きゅう…」
あ、オーバーヒートした。やた、俺の勝ちーーーーー!
と喜んでいると、担任が入ってきて、
「おーいそこ、イチャコラするのもいいけど外まで声、聞こえてるぞー」
その発言で、クラスは爆笑に包まれ、今度は俺の顔が真っ赤になる番だった。
……くっ、俺もダメージを負ってしまった…これは…痛み分けだな…
それから、俺らは大人しく授業を受けて、やがてお昼時になった。
「桜木さーん、飯食いに屋上行こー」
「良いわよ」
というわけで俺らは屋上に向かう。屋上にはカップルがぼちぼちと点在していたが、大して人はいなかった。
「人が少なくて良さげな感じね」
「そうだな。さっきまでクラス中から好奇の目を向けられてたからな…」
「あはは…アレ、結構堪えるわよね…」
「だな…」
とりあえず、空いていたベンチに2人で座り、お互い弁当を開ける。
「お、桜木さんの弁当美味しそうじゃん。作ってもらったの?」
「違うわ。自分で作ったの」
そう言われて改めて桜木さんのお弁当を見てみる。
お弁当の半分には丁寧にご飯が敷き詰められていて、もう半分には可愛いタコさんウインナー、卵焼き、プチトマト、きんぴらごぼうが敷き詰められている。
どれも丁寧に作られていて、とても美味しそうだった。
「逆に貴方のそのお弁当は誰に作ってもらったの?すごい美味しそうな…オムライスね…なんで弁当にオムライス?」
「ああ、コレ。俺が今朝作ったやつだけど」
「貴方も料理できるのね…そのチョイスはちょっと謎だけれど…」
「あぁ俺、オムライスしか作れないんだよ」
「え?」
「いやー、これも他の料理作ろうとしてたんだけどね…なんか気づいたらオムライスになってた」
「???」
あ、桜木さんが宇宙猫になってる…
「えーっと、ちなみにコレは何を作ろうとしたのかしら…?」
「唐揚げと卵焼き」
「何をどうしたらそうなるのよ…」
「さあ…?」
「というか、オムライスって逆に作るの難しくないの?」
「分からん。気づいたらできてた」
「本当に謎ね…」
「あ、食べてみる?今日のは結構いい出来だよ」
「…そう言われると食べたくなって来るわね…なら、私の卵焼きも食べてみる?」
「お、良いの?やったぜ」
そうしてそこからはお弁当のシェアが始まった。
桜木さんの卵焼きは美味しかったとだけ言っておく。
「ふー、美味しかった。ごちそうさん」
「ごちそうさまでした。オムライス、美味しかったわよ」
「サンキュ。…でもそろそろちゃんと他の料理も作れるようになりたいんだよな…」
「…なら、明日にでもウチで一緒に料理しない?教えるよ」
「良いのか?親御さんとかもいるんじゃ…」
その瞬間、一瞬だけ彼女の顔が曇った。だが、すぐに何事もなかったかのように戻り、
「えっと…親は仕事が忙しくていないから大丈夫よ!」
「そう?なら良いんだけど」
さっきの曇った顔が気になり、思わず顔をじっと見つめてしまう。
「?どうかしたの?」
「あ、えーと、桜木さんって改めてやっぱりきれいな顔立ちしてるよね」
咄嗟にごまかす形にはなったものの、これはこれで本音だ。
「え?それって私がクールビューティーってこと?」
「クールビューティー(笑)」
「ちょっと!!!何が(笑)よ!立派なクールビューティーでしょうが!」
「そうだね(笑)」
「あー!またバカにして…ぐぬぬぬ…」
でもやっぱりどこかポンコツだ。
…でも、さっきの様子から見るに彼女の家族には何か事情があるらしい。
できる限り力にはなりたいが…彼女にも触れてほしくないことの1つや2つはあるだろう。
俺はそう考え、さっきのことについては特に触れることなく、予鈴がなるまで彼女をからかって遊んでいた。
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