表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/22

揺れる想い 2






休日の昼下がり、公園内は家族連れやカップルで賑わいを見せていて、要さんは生垣の奥、人気のない大きな太い樹を選ぶと、小脇に挟んでいたレジャーシートを広げた。



ほんと、この人ってマメだな……。


なんて感心しながらも、それを手伝う。



少し先には小さな川が流れているようで、子供達が涼しげに水遊びをしていて、腰を降ろすと周りの植え込みが手伝ってか、そこに人が居るという事を難なく隠した。



「美味しい?」



"幸せ"と言う名のサンドイッチを頬張っている私に、穏やかに笑む瞳が静かに尋ねる。



「はいっ、すっごく!」



要さんがお薦めするだけあって、そのサンドイッチは絶品であった。

一緒に買って来てくれたカフェオレも甘過ぎず、滑らかに喉を潤してくれる。



………そう言えば。



私の中に不安の重しを落としていた事。


聞いても、良いのかな?

聞いたら、悪い気をさせるかな?


でも…………。



「あの、要さん?」



「……ん?」



スカートの布をキュッと握って勇気を振り絞る。



「さっきのパン屋さんの女の子と、なにを話していたんですか?」



胸内がトクトクして、要さんの方を直視出来ない。

でもひと言発すればそれは芋づる式に出てくるもので、



「……その、随分と親しそうだったけど、あの子の事、好きだったり……とかします?」



「………………」



要さんは少し黙って、スカートを握る私の手をそっと解くと、指先にキスを落とす。



「早苗ちゃんの事?」



早苗ちゃん。

あの子の事、そう呼んでるんだ。


キシキシ鳴く心情の音が漏れ聴こえてきそう……。



「あの子とは小学生からの顔見知りだけど、そういう風に見た事は1度もないな。これからも見る事はない」



「そう、なんですか?」



ふっと心の重みが軽くなるのを感じる。



「顔を合わせる度に聞かれる事があってさ」



「聞かれる事?」



「"好きな人"は出来たか、"彼女"は出来たか」



キスを与えていた手をスカートの上に下ろし、彼は沈みかけていた私の顎先をくいりと持ち上げた。



「……なんて、答えたんですか?」



「好きな子なら出来たよって」



次はその言葉に、軽くなっていたものが喉奥に詰まってしまって……。


近づく伏し目がちな瞳から、私はすいっと顔をそらした。



「ダ、ダメじゃないですか!そんな人がいるなら私なんかとこんな事しちゃあ!」



「"なんか"?」



要さんはその言葉をオウム返しして、ほんのわずかにピクリと片眉を上げる。



「芽衣ちゃん、それを決めるのは周りであって、君自身じゃないんだ。少なくとも俺は、君の事が好きだよ」



そう言い放つと、要さんは再び逸らされた顎先を自分の方へと向き直させ、その甘い甘い唇を私の唇へと重ね合わせた。



「………ん、んんっ」



するりするりと私の輪郭を確かめるかのように、下りていこうとする彼の優しい手の感触。



「……あっ、こんな所でダメです!」



パシリッと下りていく手を叩き止め、顔と身体が一気に熱くなり始めた私は、急いでその場に立ち上がった。



「か、要さんっ、川で遊んで来ても良いですか!?」



よたつきながらパンプスに足を突っ込む私に、彼はいかにも面白そうに軽く吹き出す。



「……ぷっ、いいけど、それ履いて行くつもり?」



そう言うと、私の履いているストッキングを指差していた。



「………あっ」







俺は樹にもたれつつ、生け垣の隙間から覗む彼女の姿を見守っていた。

川で子供達に混ざり、無邪気に水しぶきと戯れている。




今朝のアレは何だったのか?



どう言う意味があって?

どんなつもりで?


寝呆けてたのか?

恐い夢でも見たのか?


つまづいた?

いや、それはないか。


躓いただけなら直ぐに離れただろう。


明らかに彼女は俺に抱き付いていた。


彼女の「好意」とも取れる行動に、戸惑いと言う動揺が走る。



さっき車を降りる際も、何の躊躇いもなく俺の手を取った。


また軽く払い退けられる事を、想像していたのに……。



彼女には泣いてしまうほどに好きな男がいる。

こんな俺を、好きになどなるまい。



瞳を潤ませ、嬉しそうに自分の頬を撫でてきた昨夜の彼女。



「要さあーーーん!」



不意に昨夜の彼女を想い出し、身体が熱を帯び始める。


熱くなりかけた身体を冷ます為、

自分の名を呼んで手を振る彼女の元へと俺は立ち上がった。



彼女の行動はいつも予想以上で


予想外………。




「……告白、したんだけどなあ」




「要さぁ-ん!気持ち良いですよぉ~!」



彼女は夢中で手を振っているのだけれど……。



あんなにハシャいで……。


その内、滑って…………あっ




「きゃっ!」




バッシャーン!!




「………期待通りかよ」



俺は死ぬほど我慢して手で口を塞ぎ、濡れネズミのようになった彼女の方を見ないよう努め、手を差し出した。



「………大……丈夫?ほんと、気持ち良さそ……だね」



その手を取りながら、



「要さん、肩震えてますよ」



彼女は恨めしげに俺を見上げて愚痴を零した。


膨らんだ頬が、俺の心を擽る。







「………ご、ごめんなさい」



私は要さんが着ていた黒のTシャツを着ている。


全身ずぶ濡れになってしまった私に、要さんが着せたのだ。



彼は上に羽織っていた白の半袖シャツだけを着、魅惑的な胸元をはだけさせている。


私の着ていた服はと言うと、

要さんによって樹の枝に干され、ハタハタと風に吹かれていた。




「寒くない?」



要さんはリラックスした様子で樹にもたれかかり、片膝を立ててその上に置いた手に持つ煙草の煙を、のんびりと眺めている。



「あ、はい、大丈夫です」



ギラギラと照りつける陽射しはまだ強いものの、時折、木陰に吹き込む風は肌から熱を奪ってゆく。



「あの……、要さんは寒くないですか?」



「……ん、少し、寒いかな。暖めてよ」



煙草を携帯灰皿で揉み消し、少し離れて座る私に手を差し伸べて彼はふんわりと微笑んだ。



「……おいで」



言われるがままに近付き、彼は私の手を引いて引き締まった膝の上へとまたがらせた。


煌めく黒曜石のように黒い瞳と眼が合い、しなやかな手が腰の括れを撫でる。


私は形の良い要さんの唇を指でなぞり、そっと唇を重ねた。



それは自分からする、初めてのキスだった……。



大好きだった先輩にも、

もちろん浩二にだって、


自分からした事のない、初めて口づけ。



そしてゆっくり離した唇を彼の耳元へ近付け、そっと囁く……。




「………要さんが、欲しい……です」




彼はその声に小さく息を吸い、私の胸元に顔を埋めた。



私ったら、

なにを言ってるんだろう。

なにをしているんだろう。


すべてが初めてで。

すべてが欲深くて。



彼の熱を感じ、苦しそうに喘ぐ唇に何度もキスを落とす。


切なそうに私を見上げる瞳が、私の本能を刺激した。



でも彼には想いを寄せる人がいて。

所詮、私なんてその場凌ぎでしかないのに。



………これは、所謂ヤキモチ?



自分の下で身震いをして脱力している彼の柔らかな髪を撫で、敏感になった首筋に唇をなぞらせながら、くすりと囁く。




「いつものお返し」




要さんの眼は面白い位に丸くなり、悪戯な風によってなぶられた髪がサラリと揺れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ