彼の部屋 6
ーーー寝室。
自分の舌にその甘やかな舌を絡みつかせ、自分の名を何度も呼び、自分の唇に応えてくれる彼女が、
泣きそうになるほど恋しくて、
狂おしいほどに欲している。
君は誰よりも愛らしく、
他の誰よりも美しい。
だから、
『私なんか』なんて自分を卑下するような事を言わないでくれ。
俺の気持ちを否定するような事を言わないでくれ。
ーーーひと目惚れ。
柄にも無く。
あの日、偶然にも君と一緒に居た長身の子を見掛け、大樹達に声を掛けさせて君と逢うセッティングまでさせた。
俺は賭けたんだ。
彼女達が君を呼んでくれる事に。
もう一度、君に逢える奇跡に、運命に。
そして君を眼にした瞬間、俺を取り巻く空気が刻を止めた。
けれどあの日君は、
君を傷付けた男を想って泣いた。
堪らなかった。
自分の想いを止める事に随分と苦労したよ。
君を苦しめるあの男から、
君を奪ってしまいたい衝動。
君を自分のものにしたい激情。
その反面、ガラスのような心を哀しみで砕き、また雨に濡れて独り泣いているんじゃないかと、心配でならなかった。
そしてもう1度、
どうしても君に逢いたくて。
その涙を止めてやりたくて。
その唇に触れたくて。
出張帰り、気が付いたら君の職場へと車を走らせていた。
久し振りに逢った君は陽の光を受けて眩くて、いとも簡単にまた俺の刻を止めてしまう。
そして、君は俺を拒絶しなかった。
俺からの口づけをその華奢な躰ごと受け入れ、
今だって………。
真綿のように柔い想いが心から溢れ出て、止めようのない愛おしいという気持ちが熱を持ち出す。
『愛おしい』だなんて感情、俺にもあったんだな……なんて苦笑がひとつ漏れた。
ーーーカラン。
グラスの氷の揺れる音が響き、俺は薄まったジンをひと口自身の口へと含み、ぐったりした様子の湿った唇へと注ぎ流した。
「…………ん」
俺と同じジンの香りが、彼女の口内に残る。
「要…さ……ん、かな……さ」
何度も名前を呼び、彼女は手を伸ばして俺の頬に触れる。
薄れ行く意識の中、
うっすら涙と笑みを浮かべて……。
「……ん、此処に居るよ」
安堵したのか、小さな寝息を立てはじめた彼女の髪を撫で、
「…………好きだよ」
俺はひとり小さく笑い、
「………俺を選んで」
そう呟いた。




