山仕掛けの試練
「秋葉の試練は合格じゃ」
大稲荷は再び目を細め笑う。
その瞬間、グワァッ!っと景色が急変し、幻核へと戻る。
「めでたいが、早速第二の試練じゃ。ついてこい」
そして、大稲荷は振り返り進む。
俺達は顔を合わせ、頷きついて行く。
強風が吹き荒れ、緑色の葉が飛び狂う。
そして、気付いた先は夏のような強い日差し、冷たい風。緑の木の葉、色とりどりの花々が咲き乱れる光景を目にした。
山々が連なり、俺達はその少し地形が広い山の中に居た。
「さ、次はここ。幻核から東の山仕掛けの試練じゃ。人間は妖気の制御がまだ慣れておらぬ。狐は気を抜くと妖気の流れが乱れる。砂蜘蛛を倒しに行く前に、色々と慣れんといけんのぉ。さ、これを完全に避けきれるまでやるのじゃ。妖気による空間感知じゃな」
大稲荷はパッ……っと消える。
「え!?ど、どこ」
俺は辺りを見渡す。
狐の少女もビックリした様子で見渡す。
すると、天から聞こえてくるような声で聞こえてくる。
「安心せぃ。さっきみたいな事にはならぬよう、しっかり見守っていてやるわぃ……」
木の葉が風に揺られ音を鳴らす。
そして、俺は進む。
「一体なにをやるんだ……?」
「さぁ……」
ただただ、俺は山道を歩く。
それは狐の少女も同じだ。
その時……。
ザクッ!っと、竹槍が俺の脇の下から出てくる。
「……ッ!?」
俺は並の人間の速度では出来ない速度で腕を動かし避ける。
狐の少女も「キャッ!」っと、足の下から出てきた竹槍を避ける。
「は、はぁ!?竹槍……っていうか今の腕の動きなんだ!?」
すると、天から「クックック」っと大稲荷の笑い声が聞こえてくる。
「それが妖気の流れじゃ。まぁ、空間感知できるほどまだ慣れきっては居ないが、若干制御は効くようになったじゃないか」
無自覚だけど……。
「無自覚でもよく制御できとる」
俺が心の中でいった言葉と大稲荷が言った言葉が一致し、声が被る。
……エスパーかよ!
「え、怖」
俺は小さく呟く。
「ほれ、さっさといかんと試練は終わらんぞ」
今は目には見えないが、頭の中で顔で「行け行け」っとやっている大稲荷の姿が想像できた。
「はぁ……早く元の世界に戻りた……」
俺が再び歩き出した時、木のボタンのような物を踏み、足元で「カチッ」っと音が聞こえた。
そして、俺は左を見た。
「ぶへぇ!」
紐で吊るされた大きな丸太が俺を吹っ飛ばした。
「ハッ!人間のお方!」
狐の少女が俺を追いかけようとすると、同じように木のボタンのような物を踏み、二個目の丸太が狐の少女を吹っ飛ばした。
「ぶへぇ!」
大稲荷は「やれやれ」と言葉を溢した。
そして、顔を横に振る。
目が覚めるとそこは最初の場所だった。
狐の少女もそこにいた。
「最初っからかよ……はぁ全くめんどくさいな〜」
俺はそう言いながら背伸びをする。
「言ったろう?全て避けきれるまで終われぬとな」
大稲荷様の声が聞こえる。
「というか、お主ら初っ端の初っ端でこんなじゃあ、とが思い知れる……」
大稲荷が大きなため息を付く。
「す、すいません」
俺は流れ的に謝る。
「なぁに、謝らんでもよいわぃ。さ、はようやらぬと日がくれるぞ」
俺はハッとなり走る。
たしか……ココだ!
そして俺は竹槍がさっきあった場所を避ける。
普通の人間の速度だ。
だが、何も出てこなかった。
「……!?」
その時、全身に薄い電流が伝う感覚に見舞われる。
そして俺は体を瞬時に反らせる。
それは並の人間では出来ないような速さで。
すると竹槍がグサグサグサグサッ!っと四本出てくる。
も、もしかしてこれ……一回やり直すたびに仕掛けがランダムになるのか!?
すると、また同じ感覚に見舞われる。
次は、丸太……ッ!
そして俺は右肩に必死に意識する。するとフワッっとした感覚が腕に伝い、意識した肩の方向に回りながら吹っ飛ぶ。
周りが早すぎて見えない……そうだ!目にやれば……。
目に次は集中させると、さっきまで凄まじい速度で飛び、見えなかった景色が見えるようになり、スローモーションに見えた。
飛んでゆく丸太が見えた。
そして、再びやっている丸太も見えた。
俺は足に集中させ、体制を整え、低い体勢で地面を滑る。
丸太は俺の背中の3ミリ上を通る。
丸太の仕掛けにはどうにか耐えきり、地面を蹴って着地する。
大稲荷はそれを見てみて「ほほぉ……?」っと薄く笑う。
俺は膝から崩れ落ち安心し大きな息を吹く。
「天晴天晴!クックック……いやぁ、身体能力強化と空間感知を同時に習得するとは……全く驚いたもんじゃ!」
はぁ……疲れた……。
でも、なんかコツは掴めた気がする。
空間感知は意識さずにできるようになった。後は体の複数部位の強化!よーし、頑張るぞぉー!
俺は左腕を天高く上げる。
その時、丸い木が地面から突き出てくる。
「うわぁッ!」
大稲荷は驚き目を大きく開け、「やれやれ」と目をつむり顔を横に振る。
再び俺は覚ます。
いやはや、このリセット方式はよくわからない。
自分でも気づくと意識失ってるから、よくわらないな。
大稲荷様の幻想世界だから、操作してるのかもしれない。
気づくと、狐の少女は俺がさっき居た所で座っていた。
「おいそこの下は……」
その時、狐の少女は後ろに飛ばされる。
「あーあ」
すると、横に何の前触れも無く狐の少女が現れる。
それは神隠しから抜け出したような。
「はぁッ!くぅ〜……あともう少しだったのにぃ〜!あ、人間のお方!」
狐の少女は目を開き俺の顔を見て話す。
「私、やっと妖気の使い方に慣れてきたんです!人間のお方はどうです?」
「はい、俺も慣れました。多分空間感知はもう出来ます」
「そうですか!それじゃあ、一緒に行きましょう!」
狐の少女は俺の腕を掴み仕掛けの下へ走る。
俺は掴まれるがままに進む。
そして、狐の少女が腕を離したと思えば凄い速度で進む。
俺は少し笑い言う。
「よし、俺も行くか!」
体全体に妖気を流せ、あらかじめ空間感知を発動させる。
そして、飛ぶ。
仕掛けが普通の速度で動くのに対して俺は高速で駆ける。
難無く竹槍と丸太を避ける。
木を蹴り地面を蹴る。そして、下から丸い木が飛び出てくるのを利用し、木より高く飛び立つ。気づけば、俺は笑っていた。
そして森の中に飛び降りる。
こっからは初見……、でも、空間感知が出来るようになった今の俺は行ける……!
目の前から木でできた手裏剣が15枚飛んでいる。
小刻みに動き全て避ける。そして全て手の裏で手裏剣の軌道を変えて後ろからやってくる同じ数の手裏剣とぶつける。
そして山頂が見えた頃、目の前に竹で出来た檻状の物が現れる。
俺は指先に妖気の糸を作り出し、ヒラヒラ〜っと檻状の物の前に投げる。そして、手を握り込み妖気を硬くする。
ガラガラガラガラっと、サイコロ状に竹で出来た檻状の物を壊す。
そして俺は前に飛び回り着地する。
狐の少女もほとんど同時に山頂に着地する。
そして……。
「クックック。お主らようこの短期間でここまで成長したものじゃ。まぁ、ざっと和界の時間で言うと2日間じゃなぁ」
大稲荷様が目の前に煙を纏いながら現れる。
それより、俺達は衝撃的な事に声を上げる。
「「え!?2日間!?」」
「まぁそれはそうじゃ。ここは私が創り出した『幻想世界』。時間軸がずれるのは仕方がないのでな」
まぁ、可笑しくはない。
でも、2日間あの山仕掛けの試練をやっていた事になるのか。
「さ、流石に2日間って……大袈裟じゃないですか?」
狐の少女が大稲荷に言う。
「いや、本当じゃ。幻核は和界の時間軸と同じじゃが、試練の間は時間軸がそれぞれ違う」
つまり、◯神と◯の部屋逆バージョンってことか。
まぁ、でも妖気の使い方に慣れたのはデカい!これで狐の少女も、神様になれる力が増したろう!
すると、大稲荷が俺達に背を向ける。
「さて、次の試練じゃ。次は……冬断の試練じゃ」