ゴザクラが舞う季節に
本小説に出てくる実際には存在しない、オリジナルの単語(この世界だけの「大稲荷」や神の位を表す単語)については、専門(神職をしている人など)の人は気にしないで読んでください。
昔から、変な夢を見る。
何処か懐かしくて、切なくて、でも、見たことがない場所。
田舎という言葉がふさわしい、田と竹林と山々しか見えない場所。
そして、不思議な感覚。自分が誰なのか、この身体は本当に自分の物なのか、俺自身の魂はなんなのか、よくわからない。
そんなことを思いながらも、俺、橋村 神侍は目を覚ます。
うざったいスマホのアラーム音を消し、起き上がり学校にいく支度をする。
鏡に映る顔と髪が濡れた自分にぼーっとする。
「行ってきまーす」
仕事でいない親がいるかのように俺は言う。
バタンッ!と何処か虚しい顔をしながら俺はドアを閉めた。
俺の学校は、祠山という山の麓にある。
そして俺の家も祠山の麓にある。学校の反対側である。
祠山は、6kmくらいの山である。
更にはそこまで開拓されていない山だ。
だから車が通れるような道はないので、自転車を乗り降りして押していけるくらいの道を俺は通っている。
何も無い普通の山だ。
本当に何でこんな遠いんだ?クソ。
そして、今日もなんとない登校をする。
が、一つ、俺はいつもは気にしない石の祠が気になり、自転車を止める。
祠山と呼ばられるだけあって、石の祠や古びた木の祠が沢山あるが、いつもは気にしない。
っというか、俺はここを無断で通っている。
近所のおばちゃんからは「祠山は神様のお山やから、山の中で火をつけたりしたらあかんよ。しかも、あっこは熊も出るからねぇ」って言われている。
山を通ることは言われなかった。
でも、土地の保有者という者はいる。
だから無断で通っていることになる。
石の祠は沢山連なっており、一つ崩れている祠を見つける。
俺は自転車から降りて、それを直す。
すると、後ろから鈴の音が聞こえる。
俺は、すぐ後ろを振り向く。
すると、深淵と言ってもいいほどの暗い森の道を見つける。
「こんなとこに道なんてあったっけ?」
俺は一言呟き、進んでいく。
いや、吸い込まれていく。
真っ黒いかったが、進んでいくに連れ、日差しに照らされる光が見えてくる。
そして、茂った草を掻き分けた時だった。
「……なんじゃこりゃ……」
自然とそう声が出た。
そこには、あり得ないほどの巨大な神社が朝日に照らされ、神秘的な雰囲気を纏っていた。
見た感じ、社務所や授与所などは無い。
巨大な鳥居をくぐり抜けると、四体の狛犬、二体の狐の石像、苔むし、汚れた手水舎、石の灯籠がすぐ目に入る。
そして、俺は参道の苔むし石になった所へ足を踏み入れると……、ズザザアァァっと後ろから音がなる。
すると、さっきまで有った道が木で完全に塞がれていた。
「は、はぁ!?な、なにが……」
俺は木と木を掻き分けようとするが、隙間が小さすぎて通ることが出来なかった。
「く、クソ……これじゃまるで鳥籠だ……どっか抜け道は……」
俺は、辺りを見回しながら参道を歩く。
すると、「稲荷」と書かれた看板をつけた小さな鳥籠の向こうに社がある場所や、水神社と書かれた小さな社、龍神と書かれた別の神社が見える。
そして、その神龍と書かれた神社より、巨大な参殿。
それは錆びれていて、苔むしているが美しく、見惚れてしまう。神秘的で幻想的。
それしか表す言葉はでてこない。
ここから出られますように祈っとこうかな。
俺は鐘をならし、小銭を入れて祈る。
二礼二拍手一礼だ。
ここから出れますように。
すると、意識が段々とネジ曲がってゆく。
俺は、自分の顔に手を押し、唸る。神侍は自然とそうする。
「う“ぅ゙ぅ……ア゙……」
頭が痛い……、やばい……寝る……。
俺は蹲る。
そして、スマホの電源が切れたように意識が途切れる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「………て」
真っ暗な夢の中、どこからか声が聞こえる。
なんだ?何なんだよ。
「……おきて!」
うるさいな……。
黙ってくれ……。
「早く起きて!ここは大稲荷様と龍神様のお家ですよ!」
俺は声に驚き、飛び起きる。
「わぁ!は?ここは……」
俺は咄嗟に辺りを見渡す。
あのクソデカい神社だ。
だけど、古びていた印象とは裏腹に、きれいな黒色や白、赤色で塗られた参殿や小さな社があった。
「貴方……その格好は何ですか?」
声のする方を見れば、狐の様なの二つの白い尻尾と耳を生やした白い短髪の美少女がいた。巫女であろうか?巫女装飾の服装をしているから、多分そうなのであろう。案外小柄な女性だ。小4位?
「すいません。北高校に行ってる途中に迷い込んでしまって……っていうか凄いっすねコスプレ」
「コスプレ?北高校?なんです?それ」
俺は、ビックリした。
え?北高校ってここのド田舎な市の唯一の高校だぞ?
「え?ほら、祠山の麓の高校ですよ」
「そんな物ありませんよ?というか、祠山ってなんです?ここは龍狐山です」
「……え?」
俺は、やっと理解した。
これは、異世界に転移したのだ。
嘘だろ……異世界?
でもどうやってきた……?
怖い、けど、一度は夢見た異世界転移……、楽しみたいが、スキルなんてものは無いし……スライムとかいんのか?
というか耳と尻尾生やした少女がいるだけで普通の世界じゃないな……。
そんな事を考えていると、ドンッと、デカい足音が聞こえてくる。
「?」
「っ……!」
巫女の少女は、ハッっとなり俺の手をつかむ。
「早くここを降りなきゃ、大稲荷様と神龍が帰って来る!」
俺は、引っ張られるがまま草木が生えている道を走り抜けてゆく。そして、少し開けた雑草が除去され整地されたような所に出た時だった。こんな所は祠山はなかった。
巨大な白い狐が横目に映り、咄嗟にそっちを見た。
赤い糸に金色の玉が付けられた物を被り、美しく見惚れてしまう狐の顔と、九つの尻尾が目に入った。
更にはその上に金色のオーラを纏った白い龍が空を飛んでいた。その瞬間だけスローモーションに感じた。
俺は、口から何も言葉が出なかった。
そして、龍狐山と呼ばられる山を降りた。
そこには、俺が見慣れた近代社会の建物は全く無く、まるで江戸の時代劇のセットを観ているかのような街並みが目に入った。
言語はちゃんと日本語だ。そして賑わっている。
「お、俺のいた街じゃない……」
「私の家はあっちですが。今は大稲荷様と神龍様がお家にお帰りの途中です。街に行きたいのなら行きますか?」
狐の、少女は龍狐山の大通り的な所にある小さな道を指さした。
「いや、家に行っていいなら行きたいです。行く場所ないんで……」
「あ、はい!それでは」
そして俺達は草を掻き分けて進んで行った。
あの道と同じような感じで。
すると、前世でよく見る普通の大きさの神社が目に入る。
「え?神様なの?」
俺は咄嗟に聞いた。
「端くれ…といった方が良いですかね。まだ尻尾が二本ですし……」
そして、襖を開ける。
約十二畳位ある、完全な和風建築だ。
「今、お茶を入れますから……」
そして、金色の薬缶をとり、コップに入れる。
俺の前におき、狐の少女はお茶をすする。
「ふぅ……所で、貴方は何処から来たのですか?」
「え。あ〜……分からないです」
「……え?」
「そもそも、俺がいた世界とここの世界が違うと言うか……なんというか……」
俺は首に右手を当てる。
狐の少女は少し考えた後、口を開く。
「……なるほど、分かりました」
「……え?」
「貴方は認められたのです。この和界の最高神、天照様に……!」
え!?俺、そんな凄いことしてない……。
「え?そんな事は……」
「ん〜……何か、神様を助けるみたいな事はしましたか?ほら、祠を直したりとか」
俺は、石の祠を直した事を思い出した。
でも、そんなことで?
「そんな事で認められるんですか?」
「その祠、多分まだ神様が居られたのですよ。ほとんどの神様はその祠や神社が小さければ小さいほど壊れればすぐにそこから去られます。でも、それでもその場所が好きな神様はその場所に留まります。その神様の祠が貴方が直した祠だったんですよ。廃神社などがいい例です」
「ほ、本当ですか……。所で、いつになったら元の世界に戻れますか?」
「え?戻れないですよ」
「は?」
「え?」
しばらく間があいた。
「ほ、本当ですか?」
「まぁ……天照様に頼めば変わるでしょうが……」
「それじゃあ頼んでくださいよ!」
俺は床に手を押し当てる。
ドンッ!っと音がなる。
「無理ですよ。私は大稲荷様の使い。眷属狐。元は迷い狐です。天照様とお話が出来るのは八百万の神様の中でも力を持つ神様達だけ。私は神でもありませんし、まだ尻尾も二本なので力もあまりないですし……神様になりたいですよ…そりゃあ」
狐の少女は少し落ち込む。
「っというか、なんで駄目なんですか!」
「それは天照様に認められこの世界で過ごすことが許されたのですから」
まじか……ってか、神様になりたいっていたか?
ん?そうだったら……。
俺は一つ思いつき、提案する。
「それじゃあ神様になればいいじゃないですか!」
「え?」
狐の少女は驚き首を傾げる。
当たり前だ。
急にそんな事を言われたらそうなるだろう。
「神様の端くれなんかじゃなくて、神様になればいいじゃん!そうすれば天照様にも話すことが出来るでしょ?」
「え?いや、そりゃできるでしょうけど……」
狐の少女は戸惑いながら答える。
「お願いします!俺も手伝いますので……どうか!」
俺は土下座する。
俺は元の世界に戻るために天照様に話をしたい。
話をするためには神様にならなければならない。
この狐の神様の眷属は神様になりたい。
悪くないと思う……!頼む!お願いします!
狐の少女は正座した足をムズムズしながら悩み、何かを決心してため息をつく。
「……良いでしょう!私は立派な神様になって、貴方を元の世界に戻す。貴方は私の手伝いをする。それでしたら願いを叶えます!」
俺は顔を上げる。
「ほ、本当ですか!?」
「はい!それでは……」
そうすると狐の少女は御札を取り出す。
「これです」
「なんです?」
「祈られたらこれを貴方の魂に貼って、守護がかけられるということです。あ、そうだ。はい」
すると、右手を出す。
「……?」
「45円」
「え。金?」
「当たり前です。お賽銭と一緒ですよ。じゃなきゃ私の妖気が入りこまないですからね〜……」
俺は財布から取り出し、渡す。
受け取った狐の少女は、御札になにかを呪文のようなものを唱える。
「稲荷の守護よそなたを守りたまえ。妖気よ札に集まり給え。我の守護が、あらんことを」
神様は見えないらしいけど、お賽銭とか初詣にやったら神様は見えない所でこんな感じに見えない御札を貼ってくれているのかもしれない。
その後、俺の胸に札をはる。
その御札はどんどん薄く消えてゆく。
「これで守護の儀式が終わりました。貴方が、言い出したことですよ。責任とってしっかり奉公してもらいますからね!」
「はい。任せてください!」
なんやかんやで異世界転移をした俺、橋村神侍。
果たして、俺は元の世界に戻れるのか。狐の少女は神様になれるのか。
神のみぞ知る。
そして、俺と神様の、一葉の異世界英雄譚が始まったのだった。
和界への転移過程。
祠を直す→和界への扉が開かれる→入る→和界の場所へでる。
あの神社はもう別の世界の場所。
苔むした神社があの神社の本当の姿。
大稲荷を祀るに至り、禁域であり人は入らない。
だから妖気で神社を数千年前の姿に戻す。
狐の少女の妖気に馴れなかったせいで、頭痛を起こし神侍は倒れた。