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第14話 スペルビア

「どちら様でしょうか?」


 僕は怪訝な表情で問いかけると、少し申し訳なさそうな振りをしてお辞儀をした。


「これはこれは、失礼いたしました。私はスペルビアと申す者でございます」


 その男は明らかに日本人ではない外見とは裏腹に流暢な日本語で挨拶をする。しかし、その堂々とした様子を見るに、あまり申し訳ないという感じが無くて先ほどのが本当に振りだったことがわかり、逆に気分を害する結果となる。


「あいにく僕は忙しいのですが、そんな僕に何か御用でしょうか?」

「単刀直入に申し上げますと、私は葵様の異能を見て感銘を受けたのです」


 僕の嫌味を涼しい顔で受け流し、僕の異能についての話をし始めた。しかし、僕の異能が広まっていない今の状況で感銘を受けたと言われると警戒心が跳ね上がる。


「あ、いえいえ。先日の教室の事件だけでなく、昨日の異能者との戦いについても拝見させていただきまして、大変すばらしいと思っておりました」


 彼の言葉に僕は違和感を覚える。先日の事件は確かに僕の教室で行われた。しかし、異能者の犯罪と言うこともあって報道規制されており、動画も炎によって教室であるという痕跡は分からなくなっていたはずである。


「もしかして、あの動画を撮影したのは……」

「もちろん私です。こう見えて異能者を観察するのが趣味でして、あの時も教室にカメラを設置させていただきました」


 僕が異能者だと知れ渡った原因は他でもない目の前の男だった。


「ふざけないで。おかげで僕が異能者だって噂されるようになったじゃない。一体何がしたいんだよ」


 怒りに任せて問い詰めると、彼は懐から輝く石を取り出して僕に差し出した。しかし、それに触れずに睨みつける。


「葵様。秘石というものをご存知でしょうか?」

「秘石……? 昨日襲ってきたヤツらが言っていたけど、何も知らないんだけど」


 いちいち勘に障る男に悪態をついたが、男はニッコリと微笑んで話し始めた。


「それはそれは災難でございました。先ほどお渡ししました石。こちらが秘石となります。我々が優秀だと認めました異能者の方にお渡ししているものでございます。こちらを持っていることは、すなわち優秀な異能者であるという証でもあります」

「そ、それだけ?」


 どうやら秘石というのは優秀さを証明するための勲章のようなものらしかった。しかし、昨日襲われた僕にとっては、そんなものののために、と思わざるを得なかった。


「いえいえ、単に勲章のようなものというだけであれば奪い合いなど起こるはずもないでしょう。この秘石は全部で7つあります。所持する異能者を殺して秘石を奪い取り7つ全てを集めた者は『あらゆる願いが叶うと言われる賢者の石』を手にすることができるのです」


 彼の説明は、あまりに荒唐無稽で胡散臭いものだった。


「そんな都合のいい話なんて……」

「ありえないと思いますか? ですが、その元となる秘石は葵様の手元にございます。もし、叶えたい願いがあるのでしたら、集めてみるのもよろしいかと。もっとも、それを持っている以上、望む望まないに関わらず戦いに巻き込まれるでしょうが……」

「僕を陥れるつもりか」

「いえいえ、そんなことはございません。しかし、葵様も先日の事件では多くのクラスメイトを亡くされたご様子。私は葵様の願いを叶えるお手伝いをできればと」


 そう言って、秘石を僕の目の前に差し出したまま、にっこりと微笑んだ。先日の事件で僕が異能に目覚めるのが遅かったせいで多くのクラスメイトが亡くなったのは紛れもない事実だった。僕に非はないと世間は言うけれど、もしも僕が異能を最初から扱えたら彼らは死ぬことはなかったはず。そう考えるたびに罪悪感が僕の心を苛んでいた。


「本当に願いが叶うの?」

「望む形で、と保証することはできませんが、少なくとも可能性を作ることはできると保証させていただきます」

「……わかった」


 疑う気持ちはあったが、僕は可能性に賭けることにした。彼の手のひらの上に置かれた秘石に手をかざすと、秘石は赤い輝きとなり僕の腕を伝って心臓へと移動する。そして、心臓でしばらくの間輝きを放った後、何もなかったかのように輝きが消えた。


「ありがとうございます。葵様が7人目の秘石所有者となります」

「それで……、他の6人は誰なの?」

「それは秘密でございます。ただ、いずれの方も相応しい強力な異能を持っているとお伝えいたします」

「殺すまで持っているかどうか分からないの?」

「いえ、秘石は戦意に反応して輝きを放ちます。戦意を持った者の心臓が輝けば秘石を持ているかどうかわかります」

「戦えばわかるっていうことか……。そして、迂闊に戦うと僕が秘石持ちだってバレるってことだよね?」


 僕の言葉に彼は意外そうな表情をしてからニッコリと笑う。


「さすが、私の話を一度聞いただけで理解されるとは流石でございます」


 彼の話が本当であれば、秘石を持っているのは強力な異能をもっているはずである。少なくとも僕の異能に匹敵する能力を持っている異能者は秘石をもっている可能性が高いということだ。かといって、むやみに戦いを挑んでしまうと、僕自身が秘石持ちだとバレるだけになって逆に僕が狙われる側になる。


「そういえば……」


 僕は事件のあった日のことを思い出していた。あの時は訳がわからずスルーしていたが、確かに男の心臓のあたりが輝いていた。


「もしかして、あの事件の時の犯人って……」

「ご名答。ホントは教えてはいけないのですが、あの状態を見ている以上は問題ないと判断いたしました」

「なるほど……」

「ちなみに、それが見えるのは異能に覚醒した者のみとなります。葵様が異能に覚醒されたのはあの時……。それ以前にも秘石持ちを見たことはあるかもしれませんが、それは葵様には知らぬことでございます」


 僕は異能に覚醒する前の話を出してきたことに違和感を感じた。おそらく、それ以前に会った人の中にも秘石持ちがいると言うことなのだろうと考える。


「わかりました。思うところはありますが、色々と教えてくださいましてありがとうございます」

「いえいえ、それではご武運を。なお、以後は私の方から葵様に関与することはございませんので、あらかじめご了承ください」


 そう言って、スペルビアは全く痕跡を残さずに消えたのだった。

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