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第1話 炎上する日常

「とうとう、この時が来てしまったようね……」


 僕――相沢葵あいざわあおいの目の前に立つ幼馴染の新城美咲しんじょうみさきは何もかも諦めたようなアンニュイな表情で見つめていた。その彼女の傍らには、同じく幼馴染の古瀬未散こせみちるの亡骸が横たわっていた。


「美咲お姉ちゃん! なんで、私にそんなものを向けるの?」


 美咲の手に握られた大きめのナイフは私にまっすぐ向けられていた。


「何で、って。これを見れば分かるはずよ」

「それは秘石……。もしかして、美咲お姉ちゃんも異能者だったの?!」

「そうよ」


 彼女の差し出した手のひらの上に浮かぶ光球を見て、信じられない気持ちになった。


「葵が持っている6つの秘石。そのことを知っている以上、戦わないっていう選択肢はないのよ!」

「やめてっ!」


 しかし、彼女は僕にナイフを振りかぶって、そのまま――。



 「――夢かぁ」


 久々に見た夢は、これまでにない悪夢だった。


 夢の中とはいえ、幼馴染の1人が死んで、もう1人の幼馴染に襲われる――否、戦うことを迫られるのは、最悪に近い内容だった。


「いやいや、美咲が僕を襲ってくるなんて……ありえないよ……。そもそも僕自身が自分じゃないみたいだったし……」


 もちろん信じられないというより、受け入れがたい現実に直面しているような気持ちの方が大きい。だが、それを抜きにしても夢の中の僕は現実と照らし合わせると明らかにつじつまの合わない部分が多かった。


「そもそも普通に立っているはずなのに、何で美咲を見上げていたんだ? それにあの声も僕の声じゃなかったし、それに……」


 夢の中の僕は、まるで小さい女の子になっていたようだった。

 

 現実では僕と彼女の背丈はさほど変わらないし、すでに声変わりもしている。だが、夢の中の僕は彼女を見上げるほど背が低く、そして声変わり前よりも高い声だった。


 しかし何よりもあり得ないのが……。


「僕と美咲が異能者だとか、何の冗談だよ……」


 異能者とは日本で突然変異的に発見された特殊な能力を持つ人たちのことで、当初は持て囃されたものの、その後、異能者が次々と発見されて彼らの犯罪が社会問題となったことで一転して迫害されるようになっていた。異能者は今のところ全員が15歳までに発現しているのだが、そういった事情もあって異能者であることを隠している人も少なくなかった。


「美咲が異能者で隠している可能性はあるかもしれないけど、僕はもう16歳で異能なしだからなぁ」


 一時期、異能者狩りのようなものが流行ったこともある。しかし、異能と言っても戦いに向かない人たちの多くが犠牲となったため、異能者であることを聞いたり調べたりするのはマナー違反となっていた。


 もっとも結婚などにおいては異能者であることを気にするものも多く、そう言った調査依頼を探偵に依頼するといったことも珍しくはないらしいが……。


「まあ夢の中のことだし、これ以上は気にしても仕方ないか」


 僕は気持ちを切り替えて、いつものように朝の支度をして家を出て、電車で学校の最寄り駅まで向かう。駅の改札を出ると、これまたいつものように出たところで待っている美咲と合流して、学校へと向かう。


「おはよう、美咲」

「おはよう、葵」


 何気ない挨拶を交わして、学校へと向かって歩き出す。


「しかし、異能者かぁ……」

「なになに? 異能者に興味でもあるの?」

「いや別に……」


 僕の何気ないつぶやきに美咲がやたらと食いついてきた。


「そんなこと言ってぇ、何かあったんでしょ?」

「大したことないって。僕や美咲が異能者になって戦う夢を見ただけだよ」

「えっ?! 葵、異能者だったの?」

「そんなわけないじゃん。もう16歳だよ。異能が発現する年齢じゃないし」

「あっ、そうだよね。あはは……」


 美咲は単なる夢の話を大げさに取ってしまっていたことに気付いたのか、わざとらしく笑っていた。異能者は確かに存在するけど、一般人の僕にとっては別世界の住人のようなものだ。


「まあ異能者って言っても、一般人の僕には関係のない話だよ。僕はいたって普通の男子高校生だし……」

「普通ってねぇ。どう見ても美少女な葵ちゃんは、すでに普通の男子高校生とは言わないわよ」


 こうして、最寄りの駅からではあるものの一緒に登下校している僕たちは、周囲からは付き合っていると思われていた。しかし、現実を見たら決して僕たちが付き合っているということは無いだろう。


「それは……毎回、僕に女物の服を着せるからでしょ。そもそも僕はそんな趣味はないんだけど……」

「いやいや、普通の男子高校生は女物の服を着たところで美少女にならないわよ」

「それはそうだけど……」

「それに、しょっちゅう私と歩いていてナンパされるじゃない」


 休日になると、僕と美咲はあちこちに遊びに行く。しかし、それは僕が女装させられるため、デートと言うよりは友達同士で遊びに行くという雰囲気になってしまう。


「ナンパされるのは美咲が可愛いからだからだよ、僕は数合わせみたいなものでしょ……」


 美咲は贔屓目なしでも可愛いくて、学校の中でも男子人気は5本の指に入るくらいだ。


「ふぅん、葵も私が可愛いって思ってくれてるんだ。でも、葵の方がモテてるわよ。みんな、私じゃなくて葵の方を先に見てるじゃない」

「そんなことは……」

「それに私の噂って聞いたことないの? 休日に街をうろつくガードが堅すぎる美少女2人組の話」


 その噂はもちろん僕も知っている。しかし、自分たちのことだとは夢にも思っていなかった。


「えっ? あれって僕たちのことだったの?!」

「そうよ、謎の超絶美少女と新城美咲ってとこまでバレてるのはあるけど、ガードが堅くてナンパ師全滅と言われているわ」

「超絶美少女って……。っていうか、全滅って向こうが先に逃げていくじゃないか」

「実際はそうなんだけどね。でも、ナンパしたら男だったので逃げましたよりは、ガードが堅くて断られましたの方がマシってことなんでしょ?」

「それはそうかもしれないけど……」


 そんな話をしながら歩いて学校に到着した僕たちは、教室でいつも通りの退屈な授業を受ける。そして夕方になって授業が終わったら家に帰ることになるはずだったのだが……。


 2限目の授業が終わった少し長めの休憩時間、この日も僕はいつものように机に突っ伏して仮眠を取っていた。


 ガラガラピシャッと激しい勢いで教室の扉が開くと、茶髪に派手な服を着たヤンキーのような男が教室に入ってきた。教卓の前に立った男の手のひらから繰り出される火の玉は、教室の空気を揺らし、瞬く間に燃え広がる。


「くっくっく、全員まとめて死ねやぁぁぁ!」


 その炎は教室の中心から瞬く間に燃え広がり、教室を一瞬で火の海にした。


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