【番外1】宮廷で流行った伝説のカツラの話
今回番外編になります……!
とばしても大丈夫ですが、一応ぼやーっと次話に繋がる気もします。
どうぞよろしくお願いいたします。
さて、閑話休題。
これはディアネットがまだ死んでいなかったころ。
人間界でゴリゴリの悪役令嬢をやっていたころの話だ。
□■□
「ディアネット様、我が国の髪飾りは地味すぎると思いません?」
セラフィーナがいかにも清純な笑みで言うので、ディアはとっさに高慢な笑みを浮かべた。
「あら、そんなこと、私はとっくに考えていましてよ!」
なーんて言いつつ、もちろん何も考えてはいない。
こう言うとセラフィーナが優しくなるので、とりあえず言ってみるだけだ。
案の定、セラフィーナはぱあっと笑みを華やかにする。
「まあ、さすがは私のディアネット様ですわ……!! 実はここに、新しい髪飾りの試作品がございますの」
「気が利くじゃない、セラフィーナ。見てあげてもよろしくてよ?」
「こちらですわ!」
にこにこと差し出されたのは、髪飾り……というより、巨大なかつらだ。
金髪を複雑に編み込み、ぐるぐると巻いて、輪っか状にまとめたそれは、何かに似ている。
一体何に似ているんだろう、とディアが考えこんでいるうちに、セラフィーナは籠いっぱいの鳥の羽と宝石を差し出してきた。
「今年の流行は鳥の羽。ということで、こちらのかつらにディアネット様の感性で羽と宝石を飾り付ければ完成、というわけなのですわ」
「鳥の羽……」
ディアはセラフィーナの差し出した籠を見つめて、しばし考えこむ。
一方のセラフィーナは、内心ほくそ笑んでいる。
彼女の差し出したかつらは、わざわざ『鳥の巣』を模して作らせたものだ。ここに羽と卵形の宝石を入れれば、どこからどう見ても完璧な鳥の巣になる。派手な素材を使っているのにみすぼらしい鳥の巣頭。これはダサい。完璧に、完全にダサい。
ディアの権力があればどんなダサいファッションを流行らせるのも可能だが、さすがに鳥の巣頭には反発を覚える者も多かろう。ディアはダサいファッションを他人に押しつける。その印象を植えつけるだけでも、彼女の失脚の足がかりとなるはずだった。
「では、充分にお悩みください」
セラフィーナは上機嫌に退出し、皇太子との密会場所へと向かった。
一方のディアは、まだまだじーっと鳥の巣かつらを見ている。
もりもりのかつら。正直、嫌いじゃない。
色とりどりの羽も、かわいいと思う。
宝石だって、きらびやかで好きだ。
「だけど、もうちょい、組み合わせだなあ……」
ぶつぶつつぶやきながら、ディアは腕まくりをした。
□■□
さて、しばらくののち。
宮廷中に流行ったかつらは、実に奇抜なものだった。
「あらあ、レディ、そちらはキツツキですの?」
「そうですのよ。そちらはすばらしいオウムですわね……!」
うふふ、あはは、と話し合う貴婦人達の頭にはきっちり結い上げたかつらが乗っかり、そこに造花や鳥がちりばめられている。見るからに奇抜ではあるが、みすぼらしい感じは全然無い。むしろ本物の羽根で作られた鳥が、珍しい装飾品として機能していた。
「でも、ディアネット様には勝てませんわよね……」
「よくこんなものを思いつけますわ。素敵です……!」
囁きあいながら、貴婦人達がディアを見る。
視線の先で、ディアはすっかり満足していた。金色のかつらは半ばほどかれ、水色のリボンが編み込まれ、さらに布製の花びらがちりばめられている。まるで小川の流れに花びらが落ちたみたいだ。
その周辺には様々な造花があしらわれ、その隙間から色とりどりの小鳥たちが顔を出している……という塩梅である。
「思ったより上手にできたかも。セラフィーナも喜んでくれたし、今日もイケてる!」
口の中でもそもそ言いつつ、ディアは大広間の鏡を眺めていた。
そしてセラフィーナはというと……。
引きつる笑顔で「どうしてそうなる……?」となっていたのだった。