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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『いいね』をつけあう二人。

作者: メロ

・side.A


 今日も朝の六時に目が覚めた。

 別にアラームは設定していないし、眠りが浅い訳でもない。寧ろ、眠りの深さは関係ない。その証拠に昨日の飲み会であまり好きじゃないお酒を飲まされ熟睡していたはずのに、この時間になった瞬間。パッと目が覚めた。

 その理由はもちろん身体が覚えているから──あの人が起きる時間だって。


『おはようございます』


 SNSを開くと、今日もあの人は朝早くから呟いていた。いつも通りに。

 だから、私もいいねをして、二度寝をする。いつも通りに。



 一限目の講義に間に合う時間まで二度寝を楽しみ、目を覚ますと昨日の私の呟きにいいねがついていた。勿論、つけたのはあの人だ。

「……えへ……」

 朝のささやかな幸せ。わざわざ鏡で確認したりしないけど、この瞬間の私は他人に見せられないようなだらしのない顔をしているに違いない。

 まさか、SNSがこんなにも楽しくなるなんて。呟くことがこんなにも素敵だと思うようになるなんて。



 本当の名前も、本当の性別も知らないあの人。どうやって繋がったかも覚えていない。多分、フォローされたからフォロバしたとかだった気がする。

 とりあえず、あの時はプロフィールを見ても接点が見当たらず、趣味も合いそうになくて、どうせこの人もTLを共有するだけの幽霊になると思っていた。


 でも、違った。


 ある朝寝ぼけてあの人の朝の挨拶にいいねをしたら、いいねが返ってきた。

 多分、社交辞令のつもりだったんだと思う。

 けど、今まで誰からもいいねを貰ったことがない私にとってそれはすごく新鮮で──


 "次の日も朝の挨拶にいいねをした"


 すると、またいいねが返ってきた。だから、またいいねをした。

 それがずっと、ずっと続いて、今日もいいねした。多分、いや絶対に明日もいいねをする。


 だから、今日も──


 ✳︎


 ・side.B


 ──今日も、また呟く。


『普通、SNSぐらいやるっしょ』


 ある日、大して仲の良くない同僚が素っ頓狂な事を言い出した。


 今まで誰かと繋がりたいと思わなくても、周りに誰かがいるのが当たり前。そういう環境で育ってきた私にとってわざわざSNSを使って誰かと繋がる理由が分からない。そんな事をして何の得になるのだろうか。


 だから、始める気なんてこれっぽっちもなかった。


 けど、彼女は何度断っても諦めず、しつこく。本当にしつこく誘ってきたので、ついに折れて始めてしまった。


 とりあえず、その同僚をフォロー。その繋がりで同僚の友人をフォロー。その繋がりで同僚の友人の友人をフォロー、と次々フォローさせられてしまった。

 後から知ったが、同僚は私を餌にして男を集める為にSNSを始めさせたらしい。流石にそれは利己的で最悪だと思うけど、恨んだりはしていない。

 寧ろ──


「またついてる」


 始めたからには何か呟こう。そんな使命感にも似た感情から始めた朝の挨拶。それに『いいね』をつける人が現れた。


 最初はこの呟きのどこが良いのか分からなくて、試しにその人の呟きを見に行ってみた。こんなものが良く見えるくらい荒んだ人生を送っているのかと思って。

 でも、そうじゃなかった。

 確かに、呟きの内容は今買ったジュースやら、話題のスイーツやら、流行りどうこうと、私には到底理解出来ないものばかりだった。でも、その中に混じっている何気ない呟き──主に趣味の話とかは、私の挨拶なんかより良いものに見えた。

 だから、気に入った呟きに『いいね』をした。


 すると、どうだろうか。

 その人は、翌日も私の挨拶に『いいね』をつけてきた。

 まるで意味が分からない。何を思って『いいね』をつけているのか。

 分からない。けれど、私はまたその人の呟きに『いいね』をしていた。


 次の日も、その次の日も。ずっと、ずっと──



「あんたさぁ、maiの呟きにいいねし過ぎ!」

 ある日、相変わらず大して仲の良くない同僚にまた素っ頓狂な事を言われた。

 まるで意味が分からない。『いいね』と思った事に『いいね』をし過ぎると何が悪いのか……?

 事情を聞いてみると、『いいね』をし過ぎると私をフォローしている人達にも伝わってしまうらしい。何とも厄介なシステムだ。

 しかし、

「ったく、よりにもよってなんでmaiなのよ」

「その人、知ってるの?」

「知ってるも何も高校の同期ですけど!」

「ふーん、そうなんだ。 ねぇ、今度その人に──」

 悪い事ばかりではないと思う。



 fin.

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