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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第一話 反り橋を渡る
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六.反り橋と少女の足跡

 堂々と進む紡に対して、同僚を警戒し隠れん坊で進む桃子は、追い付くのに少し時間を要した。幸いにして、今のところ顔を見て彼女が桃子と分かる、彼女が担当エリアを無視していることが分かる同僚には出くわしていないが、小心者の桃子はこそこそ行くのをやめられない。

 彼女はようやく追い付いた紡の肩を掴む。


「まったく、少しは親切にしてくれてもいいでしょう。予想がついてきたってなんですか。捜査に協力するって言うなら教えてくださいよ」


 しかし紡はそれに応えず、


「おや……」

「どうしたんですか」


 視線の先を追うとそこには、小川に掛かる小さな朱塗りの反り橋と、そこでウロウロする数人の警官、お行儀よくお座りする警察犬たちが見えた。


「げっ!」

「どうしたの」

「いえ、ちょっとですね……」


 桃子の天命尽きたるか、三人ほどいる警官の中に、桃子の顔を知る同期がいる。幸いにして配属された部署が違うので、桃子が上司命令から逸脱し、担当地域を放棄していることは分かるまいが、どこかの世間話で「どこそこで沖田に会ったよ」なんて言われたら、巡り巡って最悪死ぬ。

 しかし、小川に掛かる橋を渡ると言うのだから、当然身を隠すものなんてない。


「な、なんとか誤魔化さないと……」

「何について」

「勝手に職域を離れていることについて」

「ふぅん。そうだったんだ。だからお尋ね者みたいに」

「言い方」


 しかし紡は相変わらず意に介さない。そのまま橋へ突撃する。


「あ、待って!」

「ん?」


 当然警官達がこちらに気付く。そして当然、顔見知りは桃子に気付く。


「お、沖田じゃないか。久しぶりだな」

「あああぁぁ!」

「お、沖田……?」


 怒られるぅ〜! いやぁ〜! 私怒られるのは苦手なの〜! ……得意な人いるの? 桃子の脳内がねじれていると、紡がそっと耳打ちしてきた。


(任せて)

「ほぁ?」


 桃子が間抜けな声を上げているうちに、紡は橋へ踏み込んで、たくましいドーベルマンの頭を撫で始める。警察官が止めに入る。


「あ、お嬢さん、ちょっとここは今、事情があって入られると困るんだよね」

「She’s taking me to the station」

「えっ」

「カノジョ、ワタシ、エキ、アンナイ、ワタシ、タスカル」

「おぅおぅおぅ、そう……」


 紡は犬を撫でるのをやめて、桃子に耳打ちする。


(こうすれば人助けっていう、桃子ちゃんがここにいる正当性を用意できるし、日本人は英会話を避けたがるから、これ以上こっちのことを追及されなくなる。一石二鳥)

(なるほど助かります。白人さんの顔も効いてますね)


 まぁ白人さんと言うか、半分アジア系で日本人も入っているのだが。


(それより、ここで何があったのか聞いて。同じ警察官なら教えてもらえるでしょ)

(それはそうですけど、何かがあったんですか?)

(ここまでの道は歩いてよかったのに、この橋は立ち入り禁止。しかも本来、あちこち探し回ってるはずの警察犬が三匹もここに集まってるのは、絶対何かある。同業者の君なら教えてもらえるはず)

(そんなもんですか)


 あまり耳打ちばかりしていても怪しいので、桃子はさっさと要求に従った。助けてもらったし。マッチポンプだけど。


「橋に集まって、何かあったんですか?」

「あぁ、それはな……」


 同期は紡の方を見る。あんまり捜査関係者でもない人間に聞かれたくないのだろう。そりゃそうだ、ここまで桃子自身も、紡への情報漏洩をずっと気にしている。まぁ彼女のそれは、情報を漏らすことの是非ではなく、漏洩がバレた時の保身についてなので不良警官だが。


「大丈夫ですよ。あの人はさっきのとおり、イングリッシュさんですから」

「そうか」


 紡は少し離れたところで、お行儀よく笑っている。

 私にもファーストコンタクトではあんな風に丁寧だったのに、短時間で態度変わりすぎでしょ……、ちょっと()()とする桃子だった。

 そういった桃子の事情には気付かず、同期は口を開いた。哀れ自分が、情報漏洩に加担しているとも知らずに……。


「犬で行方不明の子の匂いを追ってたんだがな、何回やってもどの犬でやっても、ここでパッタリ途絶えるんだ」

「つまり珠姫ちゃんは、ここで消息を絶ったってことですか!」

「十中八九そうだろう」

「橋から落ちたとかでしょうか!?」

「そりゃないだろう。落ちたとしても流されるような川じゃない。動けない怪我ならここで発見されるはずだし、そうでないなら川を出てからの匂いを追えるはずだ」

「そうですか! ないですか!」

「……なんでおまえ、そんな声大きいの?」

「いえ、別に」


 会話内容がちょっと離れた位置にいる紡にも聞こえるように、とは言えない。言えるわけがない。


「もしこれが誘拐なら、少女はここで車か何かに連れ込まれたということになる。上に連絡したところ、少女本人ではなく、怪しい車についての捜査に切り替わる決定が今なされたところだ」

「誘拐! 怪しい車!」

「おい! そこは大きい声で言うな!」

「分かりました。私も車について聞き込みします」

「おう」


 ひとしきり聞き終えた桃子は、紡の元へ戻り耳打ちした。


(ということらしいですよ!)

(あとでこうやって教えてくれたらいいから、あんな大声で喋らなくてよかったんだよ)

「あ……」

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