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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第九話 百年の愛
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五.大木小竹

 翌日、桃子は紡とつばきを連れて今井宅を目指している。結局今井宅お留守番係に配置を戻されたこともあるが、何より昨日の紡の「なんとかする」を履行してもらう為である。


「本当に大木小竹がいるんですか? 昨日あそこまで追い詰めたんです。まともな神経ならもう現場に寄り付きませんよ」

「まともな物盗りならね」

「あは。まともじゃない物盗りとか危なそう」


紡は淡黄(たんこう)の薄手タートルネックに丈の短いデニムジャケット、薄黒いデニムバギーパンツと肩掛け巾着。つばきは青い襟に黄色のラインとスカーフが眩しいセーラーに前を開けた芝翫茶(しかんちゃ)の薄手カーディガン、薄桜(うすざくら)の膝丈キュロットに革製のゴツいウエストポーチ。

少しずつ秋めいて桃子も制服で過ごし易い気候になってきた。


「それはそうと、つばきちゃんファッションが上下で世界観分離してません?」

「あはぁ?」



 いつもの今井宅監視スポット(道の角)に身を潜めてそっと玄関のほうを覗くと、


「いる!」

「でしょ?」


今日も小竹が箒で落ち葉も無い玄関を掃き清めている。


「何をそんなに掃除することがあるんだ大木小竹!」

「そこかい」

「することが無いから掃除してるのでは?」

「ま、部屋の掃除すらしたことの無さそうな桃子ちゃんには分かるまい」

「道場の雑巾掛けはしてますから!」


そんなことを話している内に小竹は玄関から庭の方へ回ろうとしている。少し目を離せばまた前回のように見失うかも知れない。桃子は猛追することにした。


「待てぃ!」

「げっ! また来た!」

「のこのこ来たのはお前じゃい!」


桃子がダッシュすると小竹も脱兎の如く家に飛び込む。勢いよく閉じられた引き戸を跳ね飛ばさんばかりに開け放つと、またも土間に箒があるばかりで姿は既に無い。


「相変わらず逃げ足の速い……!」


桃子はまたも土足でずかずか乗り込み、居間に行き〜(中略)〜洗濯機の中まで探し尽くしたが、


「またもや何処にもいない!」


しかし今回の桃子は前回とは一味違う! いや、桃子自身は何一つ変わらないのだが、今回は強力な助っ人がいるのである。いや、前回もいるだけなら近くにいたのだが。

桃子は玄関を飛び出す。


「紡さーん! ショーターイム!」


桃子が高らかに叫ぶと、

紡は不快そうに表情を歪めて立ち去ろうとする。


「待って下さい! 話が違う!」

「協力してもらう分際であまり舐めた態度取らない方がいい」

「反省しますから協力して下さい!」


桃子がわちゃわちゃ名状し(がた)い慌てた動きをすると、紡はようやく溜め息と共に戻って来た。


「じゃあチャッチャとカタを着けますか」

「よ! 陰陽師日本代表!」

「堀川の悪童!」

「つばきちゃんのは褒めてないよね?」


紡はつばきを目で制すると、ゆっくり玄関を開けた。そして足元に視線を落とし、土間に転がっている箒をスッと拾い上げる。


「そんなもの拾ってどうするんですか」

「まぁ見てなって」

「あ! 分かりましたよ? アレですね? いつかの則本珠姫ちゃん捜索の時みたいに、その人の持ち物で追っ掛けるっていう!」

「Ha-ha!」


紡は桃子の方を振り返らず言葉だけで返事をすると、居間へ向かった。



 綺麗に整えられて埃一つ無い居間。脱走してきた今井のご老体がマメに掃除しているのか、それとも玄関のように小竹が掃除しているのか。桃子がぼんやり考えていると紡は箒を座布団の上に載せた。そして自身もそのすぐ近くの座布団に腰を下ろす。つばきは紡と箒を挟んで縁側に、庭に背を向けこちらを向く形で片膝立ち。


「桃子ちゃんはその辺に座って」


紡が指差し指定するので、桃子は玄関に続く廊下から居間に一歩入った位置に腰を下ろす。

さて、ここから紡さんの『呪』が炸裂! と桃子が紡と箒を眺めていると、


「あれ? そう言えば独居老人の住まいなのに座布団が二つ出てるんですね」

「桃子ちゃん、良い所に気が付いたね」

「はい?」


紡は桃子に笑い掛けると、今度は箒に向き直って不敵に語り掛けた。


「さぁ、出入り口も塞いだからもう逃げられないぞ。観念しろ。それとも無理矢理引き摺り出してやろうか?」


箒に向かって攻撃的な笑みを浮かべる紡に、桃子は思わず腰を浮かせる。


「どうしたんですか紡さん!? 遂に頭がおかしくなってしまったんですか!? これ以上悪化したらどうなってしまうんですか!」

「お前後で覚えてろよ」


紡が低い声を出した所で、



ボヤーッと箒からエクトプラズムのようなものが湧き出て来た。



「なんとぉぉぉ!?」


そのエクトプラズムは段々と形を成し、最終的には


「どうして分かった」


大木小竹その人になった。


「どうしても何も、その道の者なんでね。一目見たらすぐ分かる」

「ちっ、今時術者なんて残ってたのかよ」

「じゃあまぁ、色々こちらの質問に答えてもらおうかな。まさか逆らおうと思うまいな」

「一目でバレる程の相手に歯向かうかよ」


紡と小竹が勝手に話を進めて行く横で、わなわなしていた桃子がようやく再起動する。


「つつつ、紡さん!」

「何さ」

「これはどういうことでございますか!?」

「これはね、『付喪神(つくもがみ)』だよ」


今時術者よりよっぽど珍しいね、紡は嬉しそうに笑う。


「付喪神ってあの、道具が百年経つと妖怪化するっていう、あの!?」

「その」

「だから昔は物が九十九年保つと壊して捨てたんですよ。あと普通に捨てる時も何処ぞの捨て場で長らえないようにわざわざ壊して捨てたり」

「酷い話だよな」


なんかつばきの補足に合わせて小竹も腕組み頷きながら会話に混ざって来たが、桃子にはそれ所じゃない。


「紡さん『一目見て分かった』って仰ってましたね!?」

「言ったね」

「どうして教えてくれなかったんですか!」

「別にお留守番任務に必要な情報ではなかったし」

「大木小竹捜索任務には無茶苦茶重要ですよ! もしかしてつばきちゃんも分かってたんじゃないでしょうね!?」

「あは。よく分かりましたね」

「どうして黙ってたんですか!」

「聞かれなかったので」

「もっとタチ悪い!」


なんか「話早く進めてくんねーかな」とか思ってそうな顔で身体を左右に揺する小竹を尻目に、紡はにっこり笑う。


「この家の備品が付喪神になってたんだ。そうそうこの家から逃げ出したりしない。必ず帰って来る。ね、急がなくても一日放置しても大丈夫だったでしょ?」

「そういうことは、先に言って下さいよぉ〜」


桃子は項垂(うなだ)れるしかなかった。

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