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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第九話 百年の愛
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四.桃子捕物帖

「と言うわけでお二人には正式に捜査に協力してもらいます」

「嫌です」

「なんと!?」


早速紡とつばきを拉致りに来た桃子、門前払い。


「どうして! どうして! あっ、ドア閉めないで!」


ドアの隙間に警棒を差し込んで抵抗する桃子。隙間からなんとか顔を覗かせると、


「あは。ジャック・トランス」


つばきに少しウケた。



 桃子は人相書き(と言っても似顔絵やモンタージュではなく、見た目の特徴の箇条書きを添えた適当な全身図)を街中に貼りながら、取り敢えず今井宅へ向かう。本当に近所に小竹がいないのか聞き込みをする為である。


「どうして警察からの依頼を、何より私からのお願いを拒否するんですか!」

「だってそれって普通の不審者捜索でしょ? 私の仕事じゃないじゃん」

「仕事じゃありません。陰陽師ではなく一般の目撃者紡ちゃんとして協力して下さい」

「はぁ」


明らかに紡にやる気は無い。つばきも多分アスファルトの粒を数えている。


「ちゃんと集中して! もしかしたらすれ違う道行く人をよく見たら大木さんかも知れないでしょう!」

「へいへい」

「あっは〜」


紡は桃子が貼り付けた人相書きの一枚を剥がして手に取ると、ちょっと見てからつばきに回す。つばきもちょっと見てから「似てない」と言うように首を横に振る。


「にしてもさ、これが仮に不審者だとしよう」

「仮にも何も、百パーセント不審者です」

「不審者の、しかもおそらく空き巣行為してる相手でしょ? めっちゃ危ないじゃん。一般人巻き込まないでよ」

「お酒で暴漢退治してた人のセリフとは思えませんが? まぁその時はこの、わ、た、し! 沖田桃子が付いてますから!」

「遂に目の前で殉職者を見る日が来ようとは」

「あは。一緒に微妙な高さで浮いたりブロック塀に半分だけ埋まったり真夜中の街灯の下で佇んだりしましょうね!」

「楽しいんですか? その幽霊ライフ」


その後もつばきの『楽しい幽霊ライフ講座』で盛り上がって(?)いる内に、一行は今井宅まで辿り着いた。さて、ここを基点に周囲を探したり聞き込んだりして大木小竹(偽名かも知れないが)なる人物を突き止めようか、そう思った所で、


「ななな、なんとぉ!?」


件の小竹が平然とまた掃き掃除をしているではないか! 


「一体どれだけ綺麗好きなんですか!」

「そこじゃないでしょ」

「へぐっ」


紡が桃子の頭を抑える。


「いましたよ、桃子さんが探してた不審者。捕まえないんですか?」

「捕まえますとも!」

「応援呼んだ方がいいんじゃない?」

「しゃらくせぇ! 行ったれオラァ!」

「どうします紡さん? 桃子さん壊れてますよ?」

「いつものことだ。せめて逆さ箒で追い返されないように地脈龍脈とコネクティングして地面に括り付けてやろう」


勝手な会話を背に、桃子はズンズン小竹の方に歩み寄る。小竹もそれに気付いたようだ。多少驚いた顔をしている。


「大木小竹! 貴女を住居侵入及び公務執行妨害で逮捕します!」

「げっ!」


「公務執行妨害には問えないのでは?」

「勝手に擦り付けられた、やる義務も無い公務を放棄しただけだしね」


「神妙にお縄に付けぃ!」


変なテンションで迫り来る桃子に小竹は逆さ箒で対抗したが、一向に効く気配が無いまま桃子が眼前まで迫ると、


引き戸を開けて今井宅の中に逃げ込んだ。


「あっ!」


桃子も慌てて閉められた戸に飛び付く。ギリギリ鍵を掛けられる前に玄関に侵入すると、逃げるにあたって放り捨てたか箒が落ちているだけでそこに小竹の姿は無い。


「逃すか!」


普段は和の心を重んじている(自己申告)桃子も今ばかりは土足で家に駆け上がる。


「何処に行った!?」


居間に行き、台所を探り、庭を見渡し、風呂やトイレに鍵が掛かっていないのを確認し、縁側の下から屋根裏まで洗ったが、


「くっ! 見当たらない!」


何処にも小竹の姿は無い。あのまま庭を突っ切って玄関に回っていったか何処かで入れ違ったか。なんにしても、玄関から外に逃げようとしたなら外で待機している紡達がなんとかしてくれているはず、そう考えた桃子は一旦自身も玄関に向かう。


「紡さん! つばきちゃん! こっちに大木が逃げて来ませんでしたか!?」


桃子が問い掛けると紡とつばきはキョトンと顔を見合わせた。


「そんなの見た?」

「記憶にございません」

「来てないよね?」

「一九九九年恐怖の大王くらいには」

「そういうことだよ桃子ちゃん」

「なんと!」


ということは見落としがあったということ。桃子は急いで屋内に戻り、押し入れから洗濯機の中まで探し尽くしたが、


「やっぱり何処にもいない……」


桃子はチラリと庭の方を見た。ブロック塀は乗り越えるにはそんなに高くない。


「……、あっちから逃げられたかも……」


紡の言う通り大人しく応援を呼んだら良かったかも知れない。桃子はガックリ肩を落として玄関に向かった。



「どうだったー?」


桃子が引き戸を開けると、ちょっと離れた位置から紡が手を振っているのが見える。


「逃げられましたー」

「だろうねー」

「なんと! どれだけ信用無いんですか私は!?」

「そういうことじゃなくてねー」


紡はそこで一旦言葉を切ると、説明するか少し考える素振りを見せる。そして、


「まぁ明日私がなんとかするよー」


とだけに留めた。桃子は今井宅の玄関の鍵が開いていることに今更気付き、スペアキーでもないか植木鉢を持ち上げる。


「明日!? なんとか!? なんとか出来るんですか!?」

「出来るよー」

「それは明日じゃないとダメなんですか!?」

「今すぐでも出来るけど、今日はもう晩御飯の時間だしー」

「そんな理由!?」


一頻(ひとしき)り探したがスペアキーは無い。残念だが桃子に戸締りをしてやる手段は無いようだ。


「大丈夫大丈夫。そんな急がなくても問題無いはずだからー」

「そんな、不審者を一日放置するなんて……」


そうして桃子が今井宅の敷地を出ようとした瞬間、



グッと後ろに引っ張られた。



「うわっ!?」


桃子は玄関までゴロゴロ後転していく。


「なななっ、何事!?」


桃子が焦って警棒を抜くと、


「ごめーん、逆さ箒で追い払われないように、桃子ちゃんをこの家の土地に縛り付けたの忘れてた」


紡がへへへっ、と笑った。ただそれだけのことだった。

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