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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第四話 こっくりさん
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五.急転直下

 二件目を済ませて今度こそお役御免のお昼ご飯、とは行かないものである。今度は先に事故った友人二人にまだ幽霊が取り憑いていたらいけないので病院に行きましょう、という流れに。

それで今は電車でドナドナしている三人だった。無情にも窓の外を流れる景色はどんどん家から遠ざかる。

いや、別に幸穂が何か悪いことをしているわけでもないし、むしろ客として至極真っ当な要求ではあるのだが、


「もうすぐ十四()時ですね……。私お昼ご飯は遅くとも十三(いち)時台で済ませたいタイプなんですが……」

「私は十三時台後半も嫌だよ」

「満腹で車乗ると吐きそうになりますけど、極度の空腹で電車も気持ち悪くなりますね……」

「紡さんこの子絶対幽霊じゃないでしょ。絶対生身でしょ」


空腹は人をイライラさせるものである。槇原敬之が言ってたんだから間違い無い。最初は幸穂に聞こえないようコショコショ空腹を慰め合って(?)いた三人だが、電車が病院の最寄りに着く頃には全員が口を(つぐ)み、紡はスマホで憎しみの籠った形相を浮かべながら見積もりの計算を繰り返し、桃子はスニーカのメッシュの穴を数え、つばきは多分生理的飛蚊症せいりてきひぶんしょうを目で追っている。

 また駅から病院が微妙に遠いのも、夏の日差しと相まって一行の精神を消耗させるのであった。


「あの、くっつかないで下さい」

「だってぇ」

「つばきちゃん幽霊だからひんやりしてるんですもん」

「袴じゃなくてキャミソールワンピースとかにさせれば良かったなぁ」

「幽霊の衣装って着せ替えれるんですか」


「あの病院です!」


幸穂が指差す病院の四角く白い外観が、最早彼女達には巨大な冷房にしか見えなかった。



「お待たせ、しまし、た……?」


病院に着くと一旦お手洗いに行った幸穂が目にしたのは、三日ぶりの食事をする作戦行動中の特殊部隊みたいな顔で売店のサンドイッチを頬張る淑女達であった。


「あ、あの? そんなにお待たせしました……?」


幸穂の窺うような申し訳なさそうな声に対し三人は首を横に振るが依然表情は険しい。


「あの、あの……」


困って半分フリーズ気味の幸穂に対して「行きましょう」とジェスチャーする紡だったが、表情に加えて口にサンドイッチを詰め込み過ぎて無言なのが余計不機嫌そうに見えるのだろう。幸穂はますます怯えてしまった。

しかも、


「……!? ……! ……!!」


サンドイッチを喉に詰めて(もが)き苦しむ桃子が癇癪を起こして暴れ出した様に見えた為、


「ごめんなさい〜っ!」


友人の病室が分からない三人を残して逃げ出してしまった。



 逃げ出した幸穂は「廊下を走るな!」と看護師さんに怒られて止まったので事無きを得たが、桃子は無事撃沈した。

こうして人間と幽霊と幽霊一歩手前で廊下を病室へ向かうのだが、


「……あの、紡さんがかけた『呪』、解いてくれませんか?」

「どうして?」

「櫻井さんがずっと眩しいので進み辛いんですよ。前が見えない」

(はぐ)れてもすぐ見つかるしいいじゃん」

「イカ釣り漁船ですか!」

「その例えはズレてるのでは……」

「まぁ眩しいのは眩しいよね。実際後光が二人いた時はサングラスが欲しくなった」

「サングラスでどうにかなる(たぐい)なんですか?」


桃子はチラリと幸穂の背中を見遣る。どんどん光が強くなっている幸穂はもうほとんど姿が見えない。


「あの後光、何者か分かりませんけど、すごい馬力ですね」

「うん。数人に同じのが憑いてるから個人の守護霊ではなく神仏の類だね。そして同じ学校の人間に憑いているから、おそらく近所の神社とか土地の物主とか」

「はぇー、土地の神様ってちゃんと憑いてくれるんですねぇ。私にも憑かないかな」

「さぁて。触らぬ神に祟り無しとも言うけど?」

「でも実際、こっくりさんに関わった人間で事故に遭ってない人はみんな後光が差してたじゃないですか。土地の神様が守って下さってたからでしょ? いいなぁ私も神様欲しいなぁ」

「あは。そんなペットみたいな」


そんな「宝くじ当たったらなぁ〜」みたいな話をしていると、


「ここがミユちゃんのお部屋です」


幸穂が病室の引き戸を開けた。すると


「あっ!」

「なんとっ!」

「やだっ!」


幸穂がミユに向かって手を振っている


と思う。


と言うのも


「なんてことだ……」

「これは一体どういうことですか……?」

「話が違うのでは……」


既に事故にあったはずのミユまで眩い後光を纏っているのだ。もう逆光で何も見えない。


「どうかしましたか?」


幸穂がポカンとした声色で聞いてくるが、もう輪郭も朧げな真っ黒い影しか見えない。今までに無いほどの光量を放っているのだ。


「あ、いえ……」

「いやしかし紡さん、案外神様もフランクなもんですね」

「フットワークが軽いのか女子高生が大好きかの二択ですね」

「声は?」

八奈見乗児(やなみじょうじ)

「紡さんこの子絶対大正じゃない」

「八奈見乗児ってどなたですか?」


幸穂、らしきものが少し覗き込むように聞いてくる。


「その、それよりお祓いをお願い出来ますか?」

「あぁはいはい」


鞄を下ろして玉串を取り出そうとする紡に桃子が耳打ちする。


「いやしかし幸穂さんと他のお二人、面倒臭がってお祓いサボらなくてよかったですね。結局神様が憑いてても事故ったみたいですし」


すると紡の玉串を探す手が止まった。そしてそのまま動かない。


「どうしました?」


桃子が話し掛けるのとほぼ同時に、


「そういうことか! しまった!」

「あがっ!」


紡が引っ張ったゴムで弾くように立ち上がった。肩が桃子の顎を捉える。


「ななな、何ですか紡ひゃん!」

「桃子ちゃんとつばきちゃんは倉本さんのところへ! 私は石川さんのところに行く!」

「どういうことですか?」

「急いで!」


そのまま紡は病室を飛び出して行った。


「え? え?」

「櫻井さん、申し訳ありませんけどちょっと用事が出来まして。戻って来ますからしばらくお待ち下さい」


つばきも綺麗なお辞儀をするや否や早歩きで病室を後にする。


「え、ちょ、ちょっと待って! 一人にしないで下さぁ〜い!!」


何が何だか分からないまま、桃子も二人を追い掛けて行った。

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