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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第三話 椿館
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十四.紡と桃子、椿館にて幽霊の中物したること その二

「本当は何者なんですか?」


桃子の声に薫はしばらく黙り込んだ。そして、


「ファイナルアンサー?」


と逆に桃子を試す様に見据えた。


「えっ?」


ふと周りを見ると、全員が桃子を食い入る様に見ている。多数決だと思っていたのに、まるで決定権が桃子にある様な……。


「それは、まぁ……」

「いいえ」

「えっ?」


桃子の代わりに、しかも否定したのは紡であった。


「紡さん!?」

「つむぐ?」

「あっ、いえ、さくらさん!?」

「『幽霊は会沢さん』、これは人間側のファイナルアンサーではないよ」


紡は椅子に座り直すと背筋を伸ばした。


「桃子ちゃんの言う通り、些細な違和感について考えてみようか」

「まだ何かあるんですか?」

「そう、例えば最初のルール説明。あの時つばきちゃんが『この中に幽霊がいる』と言った時、全員がまず黙り込み、その後どうやって見分けるんだという話になった。そして私が『失敗したらどうなるのか』聞いてつばきちゃんがそれを示唆した時には、ある人は激怒したしみんな本気で恐れて幽霊探しの会合を開いたりした」

「それの何がおかしいんですか?」

「私や桃子ちゃんはおかしくないんだよ。私は陰陽師で桃子ちゃんも一緒に怪奇を見て来たからあっさり信じても。でもね、他の人達、彼ら五人誰一人として幽霊の存在を疑わなかったしそれをおかしいとも言わなかったんだよ」

「た、確かに!」

「その上『命が懸かっている』とまで言って恐れているのに、誰一人逃げ出そうともしなかった。逃げられないと分かっているならまだしも、試そうともしない。逃げるより残った方がメリットあるのは人間じゃないサイド」

「それって……!」

「そもそも最初からおかしいのさ。ここに到着したのは私達が最後だった。にも関わらず、桃子ちゃん覚えてる? 私がここに到着した時、地面を見て『綺麗だ』って言ったこと」

「はい。()()()と!」

「あれは土が舗装されてるとかいう話じゃない。あの地面には車輪の(わだち)も靴の足跡も無かったんだ。もちろん先に停まってる車も無かった。では彼らはどうやってこの屋敷に来たのか? もうお分かりだね」


紡はパチンと持っていた碁石を盤に打った。



「私達以外、全員幽霊だ」



「くくくく……」


有原が俯きながら笑い声を漏らす。

有原だけではない。美知留も荻野も大島も薫も大きく身体を震わせている。その声には(いず)れも正気の響きが無い。


「つ、紡さん……」

「私にくっ付いて。離れないで」


思わず腰を浮かせた桃子を紡はそっと引き寄せた。

その間にも唸る様に笑い声を上げる有原達。その身体からどろりとした黒い塊の様な煙の様な何かが噴き上がる。


「わ! わ! 何あれ! 何ですかあれ!」

「だから幽霊だって。それも随分タチがよろしくない部類の」


紡が冷静に答えると、煙が身悶えする様にうねり


『『『『『大セイカ〜〜〜〜イ!!』』』』』


と大合唱する。


『バレてしまったぞ』

『つばきの奴め、とんでもないものを呼びおった』

『どうしてしまいましょうか』

『どうもこうも無いわ。食べてしまいましょう』

『そうだ。それがいい』


ぐるり、と煙がこちらを向いたような気がする。


「つ、つ、つ、紡さん……」


桃子が紡の腕に縋ったままへたり込むと、紡は優しく微笑んだ。


「大丈夫だよ。さっきのお(ふだ)、今置いた碁石。結界を張ってあるから下手に動かない限り襲われやしない」


そして新たに碁石を摘み上げると、一言呟く(ごと)に盤へ打っていく。


「オン」

『オオオオオ!』

「ひぃっ!」

「アボキャ」

『ぐっ、見えぬ壁が……』

「こ、これが結界……」

「ベイロシャノウ」

『小癪なァァァ!!』

「でもやっぱり怖いですぅぅぅ!」

「マカボダラ」

『おのれっ! おのれぇぇ!!』

「いやぁぁ! 透明な壁にヘドロみたいなのがベターっと! ダラーっと!」

「マニ」

『喰わせろ、喰わせろぉぉぉ』

「それにどの道このままじゃまずいですよぉ! 一生こうもしてられませんし!」

「ハンドマ」

『キエエェェェ!!』

「紡さん! どうするんですか!?」

「ジンバラ」

『グムゥーッ! 開けろ! 開けろぉぉ!!』

「わああ! 壁を叩いてる! 衝撃が伝わって来てますよ! 何とかして下さい紡さん!」

「ハラバリタヤ」

『ガアアアアア!』

「紡さん!」



「ウン」



パチリ

と紡が最後の石を打つと、碁盤がカッと光り、館自身も輝き始め……



「あれ!? ここは!? あれ!?」


光が晴れるとそこには廃墟があった。

家具はボロボロ、壁は(くす)み、調度品は割れて欠けてひっくり返り、窓ガラスもまともに残ってやしない廃墟。

その中で桃子は板目も剥がれそうな床に、紡はボロボロの椅子に座っているのだった。


「や、館は!? ここは!? 一体何が!?」


状況が全く理解出来ない桃子に対して、紡はにっこり微笑むのだった。


「じゃあ、帰ろうか」

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