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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第三話 椿館
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八.意見交換

「意見交換、ですか」

「そうです。やっぱりリミットがあるわけだし、進めておかないとな、と思って」


そして大島は少しだけ(くう)を見上げた。


「それに、誰ソレがいないから話せることってのもあるかも知れないし」

「あー……」


多分全員同じ顔を浮かべたのだろう。薫がクスッと笑った。


「あぁ、嫌なら全然仰って下さい。食事中にそんな話したくないとか、今聞かれても都合悪いとか。それで『断ったぞ! 怪しい!』とか思いませんから」


大島の発言に、一同は顔を見合わせて軽く頷いた。


「私は構いません」

「むしろ食事中の(ほぐ)れた気持ちだから出来る会話もあろう」

「それは良かった。沖田さんはどうですか?」


桃子も大きく頷いた。


「ここは一つ、面と向かって怪しいと言われても恨みっこ無しで行きましょう!」



「その言葉、忘れませんか?」


桃子をじっと見つめるのは薫である。


「え、はい」

「では怒らないで下さいね。私、今朝はオースティンさんが怪しいと言いましたが、今は沖田さんも怪しいと思っているんです」

「なんと!?」


薫は桃子から目を逸らした。


「それです。警察官の方はそういうものなのか知りませんが、ちょっと今時の若い女性にしては喋り方が堅いと言うか独特なので、実は昔の方なのかな……と」

「そんなぁ!」

「逆に大島さんは平気だと思います。幽霊はタブレットなんか持てないと思うので」

「嬉しいなぁ」

「しかし、幽霊でも大概服は着ている。もしかしたらタブレットもそういう訳で持っていたりするかも知れんぞ」


荻野がステッキで床を叩くと大島がそちらに顔を向ける。


「じゃあ荻野さんはどう思います?」

「私か。私はあの杉本という女性が怪しいと思う」

「その心は」

「自己紹介の時、一人だけ嫌がった。語った内容も少なかったな。言える内容が少ない、もしくはボロを出したくないのであまりものを言わんようにしているのではないか、と。昼食にも来ないようだし、兎角(とかく)秘密主義者は疑わしいものだ」

「なるほど」

「逆にそこの沖田さんは安心というものだ。自分で京都府警とまで名乗っておられる。問い合わせたら嘘だとバレることをプロフィールに入れているのだから、安全と見ていい」

「ありがたいです」

「でも電波が繋がらないので問い合わせようがありませんよ」


薫は未だに桃子を疑念の目で見ている。


「その沖田さんはどうですか?」

「私ですか? 私はー……」


桃子は少しここまで見たものを整理した。


「有原さん、ですかねぇ。私、さくらさんに言われて巡回したんですけど、それで気付いたのが巡回をしていると案外一人の時間が多いと言うか、いつ巡回に来られるか分からない側よりも動きが取りやすいんですよ。それで、一番何か出来るのはあの人なのかなって」

「……」

「……」

「……」

「あと変な話、ああいう若さでサスペンダーしてる日本人って、仕事中の同僚でもなければ戦争ドラマでしか見たことなくて、何となくそんな時代の人なのかなー? って思ったり」

「……」

「……」

「……」

「みなさんどうかしましたか?」

「あの、沖田さん?」


大島が聞き(にく)いことを切り出す態度をしている。


「何でしょう」

「オースティンさんだっけ、は今どちらに?」

「えっ、分かりません。それが何か」

「いいですか沖田さん」


薫が桃子を見つめる。疑念の色がより強まっているような。


「有原さんが巡回をしているのは自分で言い出したことではありません。むしろ別行動を推奨したオースティンさんに言われてのことです。そして彼女が現状巡回者と同じ様にスタンドアローンなのであれば……」

「え、あ、え?」

「現状一番怪しく行動を起こし易いのは彼女だろう」


荻野がステッキで床を鳴らした。


「えっ、ええ〜!? では私は今、つむ」

「つむ?」

「つむ、詰むくらいさくらさんにとって不利な証言をしたということに!?」

「そしてコンビで同じく指示されて巡回していた貴方にとってもです」

「なんと!」

「ま、まぁ、そこまで墓穴を掘るようなことを幽霊が言うかは分からないけどね」


一周回って大島がフォローしてくれた。それくらいの桃子大自爆だった。


「じゃあ最後に僕が思ってることですけど。の前にカレーお代わりしてもいいですか?」


大島の視線の先には、ちょうど食堂に来なかった人への配膳が終わったつばきが戻ってくる姿があった。


「あは。どうぞどうぞ。何カリーになさいますか?」


つばきは大島から皿を受け取った。お代わりも入れてくれる、マメに働くメイドさんである。

チキンカレーを受け取った大島は仕切り直すように姿勢を伸ばした。


「僕は正直、荻野さんが怪しいと思ってるんです」

「何故だね」

「荻野さんの理論と似てるんですけどね」


大島は少しテーブルに乗り出した。


「荻野さん、自分から何か言い出さないじゃないですか。ここまでの会話を見てると、さっき僕が意見を振るまでは基本的に誰かの意見に相乗りする形でしか喋ってないんだ。これってご自身が言った理由で疑われる程会話から遠ざからない、けど悪目立ちもしない、それでいて他人の意見に乗っかるだけだから馬脚を露わし難い会話術だと思いませんか? 学生時代友人とよく人狼ゲームしたけど、こういう人が一番手強かった」

「むぅ、褒められているなどと喜んでいる場合ではない意見だな。単純に間違われるだけならいいが、私が幽霊ということになってゲームに失敗すると危険なわけだ」

「そういう意味では有原さんや杉本さんは安全そうだ。相手に疑われる前からあの二人は対立気味だった。幽霊サイドとしてはあまり自分を指名しそうな敵を作りたくない筈ですから」


大島がカレーを一口食べる隣の隣の隣で、薫が少し俯いた。


「みなさんすごく考えられてるんですね……。フィーリングでものを言ってる自分が恥ずかしくなってきました……。それに、どの意見も説得力があって全然分からなく……」

「あわわわわ、気にしないで下さい! 私みたいな墓穴掘るのもいるんですから!」


桃子の自虐的フォローに効果があるかは分からないが、励ます雰囲気だけは構成されたのだろう、大島が軽い調子で切り出した。


「でも僕、オースティンさんか会沢さんが幽霊だといいなぁ」

「どうしてです?」

「やられるならせめて美人や美形の幽霊がいいじゃないですか」

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