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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第三話 椿館
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六.対立する者、疑惑持ちたる者

「待ってくれよ。幽霊がそんな跡が残るようなことをするとも限らないじゃないか。些細な行動を現行犯でよく見たら幽霊のそれだ、ってパターンもある。俺は反対だ」


有原が立ち上がって反論するも紡はゆったりした態度だ。


「であれば有原さんはバラけた全員を巡回すればいいだけの話。幽霊側は現行犯のヒントなら有原さんと桃子ちゃんが来たタイミングで、そうでなければ他所へ行ったタイミングで行動を起こせばいい」

「は!? 今なんと!?」


驚愕の桃子が立ち上がると紡は両肩を抑えて座らせた。


「有原さん一人じゃなんだし、桃子ちゃんも巡回しなよ。お巡りさんだから得意でしょ」

「はあぁ!?」

「だけどさ……」


口籠る有原を尻目に、美知留が席を立ち上がる。


「私は賛成」

「なんだって!?」

「正直アンタとずっと一緒の空間にいるとか嫌だし、そろそろ煙草吸いたいんだけど大島さんがいると吸えないし」


どうも、と大島がニヤニヤ会釈をした。


「それとアンタがバラけるのに反対してんのは、自分が最初にみんなを集めたことが失敗みたいになんの嫌っていうプライドでしょ? くっだらない」

「なんだとこのアマ!」


有原が机を叩くと薫も椅子を引いておずおずと立つ。


「私もお(いとま)したいです……。ガキとかアマとか言ってる人は、正直怖いので……」

「のヤロォ……!」


有原の視線が刺さった薫が怯えた様子を見せると、大島と荻野もガタッと立ち上がった。


「あ、僕もそろそろ集中して作業の続きがしたいんで、バラけさせてもらいまーす」

「私も衝撃的な展開で(いささ)か老体が疲れた。部屋に戻らせていただく」

「ちっ」


多数決的に有原もそれ以上食い下がりはしなかった。矛先が収まった薫が小さく会釈をすると、荻野はウインクで返し大島は小さくサムズアップをした。

かくして一同は一旦解散することとなった。



「では改めまして、お部屋に案内致しますね!」


つばきが手で桃子達に付いてくるよう促す。


「さくらさん、本当に私も巡回するんですか?」

「そう言ったじゃん。後はよろしくね」


紡はそそくさと席を離れると、つばきの横をすり抜けていく。


「ちょっと! 何処行くんですかつむ、さくらさん!」

「私と桃子ちゃんもバラけておこう」

「お部屋は!?」

「また晩御飯で集まった時にでも教えて」


紡はそのまま何処かへ行ってしまった。


「えー……」

「あは。では桃子さんだけご案内致しますね。紡さんにお会いしたら、私からも伝えておきます」

「あ、ありがとうございます。……ん?」

「はい?」

「どうして『紡さん』と……?」

「……」

「……」

「あっ!」

「!?」

「広間に入った時に『紡さん』って仰ってたじゃありませんか」

「あ、あぁ! あの時!」

「はいはい」

「なんというか、わざわざ偽名にしてるみたいなんで、他言無用でお願いします」

「かしこまりました」



 部屋は二階へ上がって左手、二つ目のドアだった。小さいながら立派な二人部屋で、最初から女性二人が想定されているのか化粧台も二つ備わった品の良い空間である。


「荷物はソファの上に置いてありますので」

「ありがとうございます」

「あとこちらがお部屋の鍵です。生憎これの他はマスターキーしかございませんので、つ……さくらさんとよく話し合って管理して下さいね」

「分かりました」

「ではごゆっくり。私は厨房にいますので、ご用がありましたら食堂に行った時の廊下の突き当たりまで」


つばきは礼儀正しく部屋を辞した。


「さっきまでとは別人と言うか、さっきのが別人と言うか……」


桃子が荷物を解いていると、早速ノックが鳴った。


「紡さんかな? はぁい」


ドアを開けるとそこにいたのは有原だった。


「あ、どうも」

「お、あのさくらナントカさんは一緒じゃないのか」

「そうですけど」

「ふむ……、まぁその方が都合良いな」

「はい?」

「質問に答えろ」


有原は無理矢理ドアの隙間から身体を差し込んで来た。


「ちょ、ちょっと!」

「君とあのさくらさんとかいうのは前からの知り合いなのか?」

「え?」


有原はソファに座ろうとしたが荷物が載っているのを見て、何となく窓辺に立った。


「この集まりの以前から知り合いだったのかって聞いてるんだ」

「それはそうですけど」

「じゃあ君も幽霊か!」

「えぇっ!?」


有原はバネ仕掛けが跳ねるように桃子へ詰め寄ってくる。


「そうに決まってるだろう! 『幽霊にチャンスを与える為にバラけよう』なんて幽霊の言うことだ! そいつとグルなら君も幽霊だろうが! 思えば幽霊が一人とは限らないしな! そのさくらが部屋で大人しくしてないのが証拠だ! 自分で言った通り何かしようとしているんだろう!」

「ええええそんな!?」


全くもってそんなことはないのだが、こう言われると桃子には今一つ否定出来る材料が無い。


「あの、ええと……」

「あの杉本とか言う女といい、女共は揃って何かと引っ掛かる。明日の会合までに証拠とやらを掴んでやるからな!」


言うだけ言って有原は部屋を出て行った。


「……私も言われた通り巡回しときますか……」


桃子は所在な気に頭を掻いた。

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