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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第三話 椿館
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五.かき氷会合と提案

 一同は食堂に集まっている。長テーブルの上座をから見て、左列に男性陣右列に女性陣が並んで座った。

あの後桃子達はつばきに部屋へ案内してもらう予定だったが、有原が


「期限は明日だぞ! 一分一秒でも惜しい!」


と早速幽霊探しの為の会合を設けたのである。場所が食堂に変わっているのは、


「では頭を働かせる為に甘いものなど如何でしょう」


とつばきが提案したからである。


 空気は一気に張り詰めて、全体的には和やかだった自己紹介の時の雰囲気は無い。会合とは言うが会話は無く、一人一人が周りを敵だと思って睨み合っている。


「とんでもないことになりましたね……」


桃子が紡に耳打ちすると、それすらもジロッと睨まれる。


「ひひぃぃ……」


怯える桃子を見据える有原がようやく口を開いた。


「今の所幽霊っぽい奴は分からないから、逆に幽霊じゃない人を埋めていこう」

「消去法か」


荻野の相槌に有原は頷いた。


「待ちなさいよ。んなこと言われても、幽霊じゃなさそうなんてのも分からないわよ」


美知留の反論に有原は首を横に振る。


「いや、俺は一つ目星が付いてるんだ」

「何よ」

「俺そこの……、沖田さんとさくらさんだっけ?」

「はい!」

「そこの二人は安全だと思うんだ」

「どうしてさ」


疑問を述べた大島の方を、有原は勢い良く振り返って指差した。


「そこの二人はさっきからペアで行動してる。ってことはどっちかだけ幽霊ってことはないと思うんだ」

「なるほど。それは一理ある」


荻野が深く頷いたところで薫が細い声を出す。


「あの、私は逆にオースティンさん、でしたか、その人が怪しいと思うんですが」

「えっ!?」


紡の代わりに桃子が声を上げる。


「なんでですか!?」

「いえ、どう見てもその格好現代人じゃない……」

「確かに、生きていれば何百年前の人物か、となるな。仮装芸人でもなければ」


荻野がステッキをカツッと鳴らすと大島が笑った。


「そんなこと言ったら爺さんだって明治でも通るよ」

「ぅむ……」

「捗ってらっしゃいますかぁ〜?」


不意に食堂へサービスワゴンを押したつばきが入って来た。


「誰の所為だと……」

「あは。そう怒らないで、頭を冷やして下さい」


小声で文句を言う有原の前につばきは器を置いた。そこには白く繊細な山が。


「よかったね桃子ちゃん、かき氷だよ」

「えぇ……」


正直寒いと思っている桃子には今最も出会いたくない強敵だったりするが、つばきはお構い無しに全員へ配膳する。次にワゴン下段から種々のシロップやら何やらを銀盆に載せて取り出す。


「シロップは何になさいますか?」


どうやら一人一人聞いて回るようだ。有原の氷が赤く、大島のは青く染まっていく。荻野は


「如何致しましょう?」

「砂糖水」

「かしこまりました」

「あるんだ……」


驚く桃子にも順番が回ってきた。桃子が好物があるか確認しようとすると、つばきはそれより先に緑のシロップをかけた。


「あ、ちょっと! 私には選択権無しですか!?」

「え? あっ、すみません」

「ぼーっとしてたのかな?」


紡が横でコロコロ笑うが、ぼーっとしている割には手際良く餡子と練乳が追加されていた。


「おや! これは私の大好物!」


桃子はまさに宇治金時練乳を頼もうとしていたので全て不問となった。


「つ、さくらさんは何にするんですか?」

「レモンにしようかな。本当はどの味も一緒らしいけど」

「風情無いこと言いますねぇ」


紡の氷が黄色くなるのを行儀良く待ってから、桃子はかき氷を口に運んだ。

この際寒いのは無視すれば、シャクッとした氷の肌理(きめ)細やかな食感にまったり重厚な宇治金時の味わいが乗っかるハーモニーは素晴らしいものがある。そこに相乗りする練乳の甘さで乙女を惑わす甘味のデュエットが完成する。

それが冷涼な氷と抹茶の苦味という舞台の上で引き立てられ、かつ氷の水分でサラッと残らないので次の一口が清新に感じられる。

結果スプーンが進み、


「ぐぉおおぉお……」


日本人なら一生に一度は経験するアレである。


「美味しい?」

「おぉぉお……」

「あは。美味しいですか?」

「んあぁあ……」


桃子がこめかみを抑えながら周りを見ると、大島、美知留、薫も頭を抱えている。長机に座っているのもあって、


「なんか完全に終わった組織の会議みたいだね」


紡の笑いに余裕が無い桃子は頷きだけで返事をした。



 全員がかき氷を食べ終わりつばきが器を下げる中、有原が唐突に席を立ち上がった。


「何してんのよ」

「全員椅子から立ち上がるんだ」

「どうしてでしょうか?」


薫の質問に有原は自分の椅子を指差す。


「幽霊なら透けてかき氷が椅子に落ちてるかも知れない」

「な、なるほど……?」


それで全員が椅子を立ち上がるが、流石にかき氷が素通りした者はいなかったようだ。


「ちぇっ。いけると思ったんだけどなぁ」

「流石にそれでは簡単過ぎるではないか」

「でも爺さん、そこのガキが『幽霊はそうだと分かる行動をする』って言ってたんだぜ? みんなが去った後に実はよく見ると……、みたいな定番の証拠があると思ったんだけどなぁ」

「例えそうだとしても、今のでその望みは無くなったわね」


美知留が鼻で笑うと有原は露骨に気に入らない表情をした。


「でも、『みんなが去った後』は重要ですね」


ここまで黙りがちだった紡が唐突に声を張った。


「さくらさん?」


紡はテーブルに手をつく。


「これはゲームですから。勝ち負けを競り合うのがマナーなので、幽霊側もノルマと言えど全員が集中して粗探しをしている状況下で露骨に幽霊ムーブをするような敗退行為をしてはならない。それに幽霊だって勝てば人間が喰えるのですから」


紡は全員と目を合わせるように周囲を見回した。


「それに何処かで見ているゲームマスターだってこんなジリジリした膠着状態、楽しくないでしょう。彼が望んでいるのは何処かで幽霊がさりげなく証拠や痕跡を残し、人間がそれに気付き見破るかどうかの展開だと思います」

「何が言いたいのかね」


荻野の質問に紡は両掌をパッと広げて見せた。


「一度バラバラになりませんか? 幽霊側に行動を起こすタイミングを与えるのです。『みんなが去った後』、つまり誰も見ていない状況下なら幽霊も落ち着いてヒントを用意出来るし、我々も時間が無いのだから早くそうしてくれた方が助かる」


ね、そうでしょ? 紡は爽やかに笑った。

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