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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第二十三話 あなたと枕を並べて
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六.陰陽師、被疑者と面会したること

 出勤した桃子は早速近藤に掛け合ってみた。紡に頼まれていたことである。


「あのー、課長、ちょっとよろしいですか?」

「あいよー」


近藤の顔はスポーツ新聞で見えないが、流石に昨日の疲れを引き摺っている様子は無い。と言うか課長自らが聴取はしないだろうから彼が疲れている道理は無いのだが。通常勤務の疲労という線は無い。


「あのですね、生田目さんと面会させたい人がいるんですよ」

「弁護士?」

「いえ……」

「お前さん、規約は知ってるよな?」

「はい」


規約として被疑者への一般面会が許可されるのは勾留後三日が経過してからである。それまでは弁護士を例外として親族や被害者でさえも面会出来ないし、逮捕はそもそも一般面会が無い。そこで近藤に融通してもらおうということなのである。

それなら紡も大人しく生田目が釈放されるか勾留になったら日数を待てばいいだけなのだが、署での面会すら被疑者側にも拒否する権利があるのを、いわんや釈放後になったら。ただでさえ知りもしない人物からの訪問や面会要請を、それも精神状態が非常にデリケートになっている生田目が受けはしないだろう。そこを勘案して、嫌な言い方をすれば強権的に面会出来る手回しを近藤に頼みたいのである。


「理解した上で、お願いしたいのですが」

「へぇ」


近藤はスポーツ新聞の位置を下げて、桃子の方を見る。桃子からもギリギリ近藤の目元までが見える。


「そうまでして、一体どんな人と面会させたいのかな?」


近藤の口調は軽いが、目元は全く(ゆる)さが無い。桃子は自然と伸びた背筋に冷たいものを感じる。


「丹・紡・ホリデイ=陽という方です」

「お、その人って」


近藤も少し剣呑さが無い声を出す。


「はい。ちょくちょくお世話になっている陰陽師さんです。生田目、ずっと言っていることが意味不明じゃないですか。でももしかしたら、我々には理解出来ない話でもあの人なら何か分かるかも知れません。実際ちょっと話してみたら、興味深い話もしてくれました」

「つまりお前さんは一般の方に守秘義務がある情報をベラベラ喋ったってことか」

「あ’’っ!!」


真っ青になって()()()()()()な桃子だが、一転さっきまで鋭かった近藤はそれ以上咎めず普段の緩い雰囲気になった。


「まぁいいや、その陽さんが面会したいと言ってるの?」

「はい、協力してくれるそうなので、手配してほしいと」

「ふーん」


近藤は小さく頷いてスポーツ新聞を畳んでデスクに投げる。


「いいよ。彼女には才木のことでお世話になったし、それに陰陽師がどうとかは置いといても例の一件でカウンセラーとしての能力があることも分かってる。そういう専門家が生田目を見てくれるならこっちとしても助かる。精神鑑定の一環ってことで許可しよう」

「ありがとうございます!!」


桃子が深々と頭を下げると、近藤は畳んだ新聞でその後頭部を軽く叩いた。


「でもあんまり捜査内容を外に話すなよ」



 紡が署に現れたのは午後になってからだった。いくら近藤のお墨付きとは言え、やっていることは普通にグレーかも怪しいことなので裏口から署員に見付からないよう入ってもらう。事情を知らない人間が付き添うわけにもいかないので、桃子もこっそり交番から呼び戻された。


「……制服は仕方無いにしても、せめて捜査一課くらいには見える格好でお願いしたはずなんですけどね……」

「平気平気」

「兵器ですよ」

「じゃない!」


白の漢服に猩猩緋の上着を重ねた紡に、若竹色の振袖と小豆色の袴なつばき。こんな警察や兵器が何処にいると言うのか。


「まぁこれで油断せず見付からないようエスコートする決心が固まったでしょ?」

「なんですかその脅しみたいなのは!」


桃子は辟易する他無いが、頼んで来てもらったし頼んで手回ししてもらっているので挫けるわけにはいかない。常に誰かが(せわ)しなく動いている廊下をコソコソ隠れながら移動する。


「まさか警察官である私が、こんな犯罪者みたいな真似をする羽目になるとは……」

「則本珠姫ちゃん捜索の時もやってたじゃん」

「誰の所為だと!」

「しーっ、見付かっちゃいますよ」


そんなこんなでガチャガチャ言い合いながらなんとか取調室(面会室だと使用がバレた時に足が付くかも知れない)まで辿り着いた。



 椅子を人数分運び込み紡達を先に座らせてから、桃子は生田目を連れて来た。彼も流石に騒ぎ立てる気力を失ったようで、留置所でもここまで連れて来られるまでの間も、終始ぐったりと項垂れていた。

そのまま崩れ落ちるように椅子に座らされた生田目は、精魂尽き果てた目を紡に向ける。


「……なんすか」


どう見ても警察関係者に見えない紡や童女つばきすらも気にならない疲弊具合のようだ。対照的に紡は明るい笑顔を向ける。


「生田目さん、あなたはずっと『梓さんは自分の妻ではない』『自分の妻は澪である』『子供なんかいない』といった主張を繰り返しておられるそうで」

「チッ」


生田目は舌打ちをすると、目線を床に投げた。机の下で足でも組んだのか、ガタッと音がする。


「あぁそうだよ。でも調べたら全然違うんだってな。アンタもどうせ信じないんだろ? 俺の頭がおかしいんだよ」


生田目の態度に紡がキレやしないかと不安になった桃子だが、つばきに視線を投げ掛けると彼女が平然としているのを見て、紡がキレっぽいのは自分に対してだけだったことを思い出した。そしてそれを裏付けるように、聞こえてきた紡の声は依然明るく優しい。


「それが嘘ではないと証明出来るとしたら?」

「……なんだって?」


生田目は一瞬食い付いたが、またすぐに目線を逸らす。


「そんな方法あるのかよ」


尚も紡は明るいオーラを崩さない。桃子からは背中しか見えないが、おそらくは堂に()った営業スマイルをしていることだろう。その調子で紡は答える。


「ありますよ? だからここに来た」

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