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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第二話 冷や飯喰らい
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四.何食べた?

 ここは病院のカフェ。またも三者面談のように座る三人。

紡の前にはエスプレッソ、おばあちゃんの前にはミルクティー、桃子の前にはカツサンドが置かれている。


「博次に最近あったこと、と言われても、週に一度大学やバイトの合間で来てくれるくらいで普段どういうことがあるのかは知らなくて……」


おばあちゃんは俯き気味で呟く。


「それでも良いです。知っている限りのことを。おばあちゃんが見た限り、会った時に聞いた限りのことを覚えている限り」

「覚えている限り……」


それでようやくおばあちゃんは話し始めた。

サッカー部の試合で活躍したとかやらかしたとか、偏差値の合致だけで入った学部の講義が専門性を増すにつれて嫌になってきたとか、仲が良かったバイト先のフリーター先輩が就職したとか、合コンでモテないから女性目線のアドバイスが欲しいとか。


「それで『おばあちゃんはお見合いだったからねぇ』なんて言ったりして」


やっぱり祖母。孫のことが大好きなのだろう、さっきまで沈んでいた顔が見る見る明るくなっていく。しかし、


「紡さん、どうですか?」

「うーん」


「紡さん、何か掴めそうですか?」

「あー……」


「紡さん?」

「……」


「あぁっ! 紡さんがなんか宇宙の真理を見たか()しくは『イクラ丼食べたい』って思ってそうな顔してる!」

「」


ただおばあちゃんが楽しいだけになっている。


「何も怪しい所はありませんか?」

「逆かなぁ」

「逆」

「人間社会は何事も無く生きていてもストレスが多過ぎる。槍で突き刺すような激しいストレスから本人がストレスと思っていない筆で撫でるようなストレスまで。だからストレスから身を守る、現実から遠くへ行く為に意識無意識で自身に眠りの『呪』をかけてしまうことはままある。問題は無意識の場合で、そうなると本人も『呪』をかけるための動きをしていないから、過去の行動からどういう『呪」を用いたのか、(ひるがえ)ってどうすれば解ける『呪』なのかを読み解き難い」

「そういうもんですか」

「食べて寝て起きたら天下泰平な桃子ちゃんには分かるまい」

「むっ、失礼な! お風呂にも入れて下さい!」

「そこかよ……」


紡はエスプレッソを飲み干すと腕を組んで黙り込んでしまった。

それを見ておばあちゃんも何度目かの俯きタイム。

重苦しい空気に取り残されてしまった桃子は、なんとか閉塞感を破ろうと話題を振る。


「そういえば紡さん、ノーとかカンとか言ってましたよね。あれって何ですか?」

「人が『呪』を患ったり滞ったりし易い所。脳ミソ、心臓、肝臓、丹田(たんでん)。丹田は武道やってる桃子ちゃんに説明はいらないと思うけど、大体お臍や下腹部、辺り、の……」


紡の言葉が急に不鮮明になってきた。口で話しながら頭で違うことを考えているような。


「どうかしましたか?」

「おばあちゃん、最近の博次君の食生活とか分かる?」

「食生活? それは娘に聞いてみないと……」

「分かる範囲なら?」


紡は身を乗り出さんばかりだ。


「どうしたんですか紡さん」

「ちょっと静かに。それで、覚えてる範囲だと?」

「えー、博次が寝込んでしまった日は冷やし中華を食べて、食後にアイスを……」

「その前に来た時は?」

「素麺をいただいて」

「なるほどなるほど。お飲み物は?」


紡はそれを聞いて頻りに頷くと、


「桃子ちゃん」

「はい!」

「大学に行って、博次君のお友達を当たって。それで、彼がどういうものを飲み食いしていたか調べて」

「えぇ!? 何ですかそれは!?」

「警察の服着てたら向こうも答えてくれるって」

「それは職権濫用みたいなものでは……」

「いいんだよどうせ君暇なんだから」

「ムキーッ! でもそんなの今日明日で終わりませんよ? いいんですか?」

「構わないよ」

「でも一刻も早く起こしてあげないと……」

「平気さ。血色良いって言ったでしょ? 一週間も点滴だけなのに全く痩せた様子が無い。保存が効くんでしょ」

「えぇ……」


あまりの暴論におばあちゃんの方を見れない桃子だが、紡は気にする様子が無い。


「ほら早く早く。さっさと行く!」

「えぇ〜!?」


桃子の嫌そうな声すらも気にしない紡はおばあちゃんの方に向き直った。


「あとおばあちゃん、やっぱり冷房は使った方がいいよ」

「あ、はい……」

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