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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第二話 冷や飯喰らい
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三.原因

 翌日の昼頃。紡邸応接間には桃子と紡と青木のおばあちゃんが三者面談のように集まっていた。上品に焚かれたお香が室内を何とも言えない空気感にしている。

桃子は相変わらず警察の制服だが、紡は客に会うだけあって流石に昨日のような部屋着スタイルではなく昔話の天女のような格好をしている。これが仕事着なのだろうか。


「おばあちゃん、この人が私の言ってた紡さん」

「お願いします、お願いします……」


出された紅茶に手も付けず、熱心な人が地蔵にするようにおばあちゃんは紡を拝む。


「というわけです。青木のおばあちゃん、お金だって払うそうなんでなんとかしてあげて下さい」

「普通こういうのは祖母じゃなくて両親がお金出すもんじゃないの? 何? 複雑なご家庭?」

「単純なことで、ご両親は『詐欺だろ』と一蹴されました」

「はぁ」


一連の会話から紡の機嫌が曲がることを恐れたのか、おばあちゃんは紡の手を強く握った。


「お願いします! お金ならいくらでも払いますから、博次をどうか……!」

「痛い……」


流石に紡もタジタジのようだ。桃子が「そんな顔初めて見ます」と呟くと紡に軽く頭突きされた。


「いたぁい……。でもおばあちゃん安心して。その人、腕は確かですから。必ずなんとかしてくれます」


桃子が宥めておばあちゃんの手を紡から離させると、紡は桃子に耳打ちした。


「そんな安請け合いしないでよ勝手に。どうにも出来なきゃどうするのさ」

「え、どうにも出来ないなんてあるんですか?」


桃子が間抜けな顔をすると紡はおばあちゃんに聞こえないように声を荒げた。


「アホか! あるわそんなもん! 私を神様かなんかと思ってるの?」

「女神様みたいにお綺麗ですよ……」

「何キメ顔してるのさバカか! それこそ神様の(たぐい)のかけた『呪』、所謂(いわゆる)神罰の類だったら私みたいな一人間に出来ることは限られてくるよ」

「そうなんですか」


IQの低い会話をしていると、青木のおばあちゃんが心配そうに割り込んできた。


「その……、それで、博次は助けてもらえるんでしょうか……」

「それは見てみないことには」

「お金ならいくらでも!」

「それも見てみないことには……」

「お願いします!」


紡はふーむ、と鼻からため息を吐くと桃子の方を向いた。


「じゃあ行こうか。おばあちゃんのボキャブラリーが大体三つくらいに低下してるし」

「私も行くんですか? 基本交番にいなければならないんですが」

「桃子ちゃんの紹介なんでしょ? だったら責任持って付き合わないと」

「ええぇ〜!?」



 大きな病院の一室。そこに博次青年は眠っている。

点滴を繋がれていること以外はただただ本当に眠っている人間の穏やかさだ。


「博次、博次」


おばあちゃんが呼び掛けるが寝息以上の返事は無い。


「寝てるね」

「寝てますね」


紡は病院に来るだけあって天女からペイント柄の半袖ワイシャツとワイドパンツの一般的な格好にチェンジしている。桃子は相変わらず制服である。


「世は全てことも無し、って顔に見えるけどな」

「でも博次は!」


おばあちゃんが必死になるのを紡は手で制す。


「分かってます分かってます。いつからこうですか?」

「かれこれもう一週間ほど……」

「そうですか」


紡は博次の顔を覗き込む。


「どうですか紡さん」

「血色良いね」

「そこじゃないです。どうして寝たきりなのか分かりますかってことです」

「血色は大事じゃないか。ちょっと待って……」


紡は人差し指と中指で博次をなぞる。額から正中線を下に。


「脳、心、肝、丹……」


紡の指が腹部で止まった。


「どうかしましたか?」

「エネルギーが、腹膜の内側で停滞してる……」

「それってどういう……」

「それが原因で博次は起きないんですか!?」


おばあちゃんが桃子を押し退()けんばかりに前へ出る。


「そうなりますかね」

「治りますか!?」

「分かりません」

「そんな……!」


思わずふらっと来たおばあちゃんがベッドの縁に置いた手に、紡はそっと手を重ねた。


「病気も『呪』も同じです。何が原因で何が起きているのか、因果が分からなければ治せないし分かれば治る、かも知れない」


紡はこちらを向いたおばあちゃんを真っ直ぐ見据える。勇気付けるように。


「だから教えて。博次君に最近あったことを。彼に何があったのかを」

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