六.ホームとビジター
『さぁ! 埴輪ハオ、いや、破瓊倭覇王! この石舞台古墳を文字通り舞台に、決着を付けようではないか!』
『尊土偶! この古墳が文字通り貴様の墓場になるよ!』
紡邸リビング。テレビを点けると埴輪のアニメキャラが光り輝き身体を砕け散らせながら死闘を繰り広げている。
紡はそれをムッスー! とした撫然顔で、頬杖突きながら眺めている。テーブルには煙草と灰皿、ロンドンドライジン、旨辛ポテトチップスの、寿命削る死の三角形。
『これは女庭メオの分だよっ!』
『ぐうあぁ!』
「……」
「つばきちゃん。紡さん、ご機嫌斜めですね……。やっぱり鬼門の鬼扱いにご立腹なんでしょうか」
『これは壁仁ミアリーの分だよっ!!』
『ぬぅああ!!』
「……」
「案外『もしかして本当に自分が鬼門封じの位置にいることが悪影響を及ぼしてるんじゃないか』って凹んでるのかも知れませんよ」
『これは障子メアリーの分だよっ!!!』
『イェアアッッッ!!!』
「……」
「まさか本当に引っ越しちゃうんですか!? アラフォーアスリートと同棲する二十五歳になってしまうんですか!?」
『砕けろ尊土偶。目には目を……、埴輪ハオだよ!!!!!』
『♪ハァ〜 エンディング〜は〜 埴輪音頭だよ〜』
「……」
「私はここに残されるんですか? 連れて行かれるんですか? 椿館に帰されるんですか? 保健所に怯えて暮らすんですか?」
「つばきちゃん犬かなんかですか?」
「拾ってワンワン!」
「餌は大五郎と同じでいいですか?」
二人が不毛な会話をしている内に、紡はチャンネルを変えてしまった。画面ではローカルワイドショーをやっているようだ。なんだか見覚えのある特集をしている。
『続きまして、「羽ばたけ! ウィングス!」のコーナーです』
『前日電撃退任が発表された堂上監督。些か急ではありましたが、確かにウィングスとなって最初の今シーズンの結果は散々!』
若いアイドル売りの女性キャスターがスイングの動きと共にタイトルコールすると、映像はそのアナウンサーのナレーションに合わせて白髪の爺さんの会見映像からウィングスの三振やら被本塁打映像の連続上映をし始める。
「あっ! ダメですよ! 見ちゃダメ! 心の傷が広がって化膿しますよ!」
桃子がチャンネルを変えようと手を伸ばすと、紡は一瞬早く取り上げて番組を維持する。
「絶対見ない方が休まるのに。仕事は家に持ち帰らない方がいいですよ」
「職場でも仕事してない人は言うことが違うね」
「なんと!」
ズレているとは言えせっかく気を遣った桃子が苛烈なカウンターを食らったところに、つばきが木のボウルを持って来る。
「ま、甘いものでも食べてゆっくりしましょうよ」
中身はこの前も見た山盛りチョコレートとキャンディー。紡は桃のキャンディーを摘み上げた。
「庭に桃子ちゃんでも埋めようかな……」
「なんとぉ!?」
桃子は思わず壁際まで逃げる。
「さ、さ、殺人予告で逮捕しますよ!? 仕事が上手く行かないからってそんな八つ当たり!」
「八つ当たりじゃないよ。ちゃんと意味がある」
「えぇ……」
紡は桃のキャンディーを口に放り込むと、カラコロ言わせながら視線をテレビに戻す。
「鬼門の方角に魔除けとなる植物を植えるっていうのは常套手段なの。柊、南天、万年青……。無論『桃から生まれた桃太郎』よろしく鬼の天敵である桃も」
「はえー、じゃあ桃子である私を埋めるのは意味があるって通りませんよそんな理屈!」
自分で逃げたくせに今度は戻って来てテーブルをバンバン叩く桃子。うるさいのか紡はテレビのボリュームを上げた。
画面では
「あっ、祖父江さんですよ紡さん」
祖父江がウィングスのピッチャーから豪快なホームランを放つ映像が流れている。つばきが葡萄キャンディーの包みを開けながらあはあは笑う。
「でもやっぱりホームで負けてる映像ばっかりですね。嶋さんが言った通り」
「そんなの分かるんですか? 私なんかもう球場のデザイン忘れたから見ても分かりませんよ」
「それは忘れるの早過ぎでしょ」
桃子が林檎キャンディーの包みを引き千切ろうとする。
「あは。球場もそうですけど、ユニフォーム見たら一発で分かりますよ」
「ユニフォー、ム?」
変な力を入れて引き千切ったからだろう、中身のキャンディーが飛び出して紡の頭に当たる。
「何すんじゃコラ。没収」
「あぁ! 事故です! それよりユニフォームがなんなんです?」
「プロ野球は甲子園の高校野球と違って、自分達の本拠地でやるホームゲームと他所の本拠地でやるビジターゲームでユニフォームが違うんですよ」
「知りませんでした」
「だからほら、さっきから胸に『Wings』って入った白のホームユニばかりで『WAKABA』って入ったアイボリーのビジターユニ半分も映らない」
「白とアイボリーって、もはやそんなに違い無いのでは?」
つばきのユニフォーム講座が終わったところで、
「あ、そうか」
紡は間の抜けた声を出した。
「どうしたんです?」
桃子が紡の顔を見ると、彼女は没収した林檎キャンディーを繁々と見ている。
「分かったかも知れない」
それだけ呟くと、紡はキャンディーを口に放り込んだ。
「あぁー! 私のキャンディー!」
「まだあるでしょ」
「あは。紡さんも口の中にまだ桃があるのでは?」
紡がキャンディーを両頬を一個ずつ含んで、なんかの齧歯類みたいになった。




