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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第十九話 心まで染まる
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四.陽宅三要どうなのよう

 嶋の依頼で紡は早速球場の風水調査に取り掛かった。まずは球場の入り口を確認する。曰く、


「風水ではまず建物を、生者が使う『陽宅(ようたく)』と死者が入る墓なんかの『陰宅(いんたく)』に分ける。その中で『陽宅』には『陽宅三要』と呼ばれる三つのポイントがあり、その一つが『門』、玄関だね」


とのこと。それでスタジアム入り口をジロジロ見たり、スマホのコンパスを出したりしているのだが、紡がボソッと呟いた。


「にしてもあの嶋さん、策士だね」

「何がですか?」


紡はニヤリと笑った。


「あの人も実のところ、桃子ちゃんと同じようにスピリチュアルな問題だとは思っていない。ただ、チームが新球場新環境に苦手意識があるならそれを風水やらの所為にして、『それは専門家を呼んで解決したぞ!』っていうパフォーマンスで払拭してしまおうって考えなのさ」

「なぁるほどぉ! 策士ですね!」

「確かに一シーズン戦い抜いて身体は球場に慣らした上で、来シーズンは気持ちも新たに再スタートですからダメ押しのタイミングとしてもバッチリですね」


嶋が伊達にプロ野球のコーチしているわけではないのが分かったところで、今解明すべきはそこではない。


「で、紡さん。『門』は問題無しですか?」

「うん」


紡は腕組み頷く。


「吉方を向いてるから悪い気が入ることも良い気を逃すことも無いし、置くと良いものがあるわけじゃないけど悪いもの、遊び道具や動く物も置いてない。掃除も行き届いてる」

「動くもの?」

「キャスター付きスーツケースとかです。不安定な運勢を招くと言われます。遊び道具は仕事運を下げます。どちらもプロ野球チームには避けたい内容ですね」

「なるほど」

「『門』でないなら次は……」


紡とつばきは視線を交わして頷き合う。


「仮眠室とか『房』は無いので『炉』ですね」



「『ロ』ってなんですか? ロシアですか?」


一行はスタジアム内に戻り次の場所に向けて廊下を歩いている。


「暖炉の『炉』ですよ」

「あぁー」

「『陽宅三要』においてはキッチンだね」

「キッチン? そんなもの球場にありますか?」

「あるんだよ、プロ野球球団の本拠地ともなれば」


紡が指差した先に見えるのは、


「何々? 『加藤伸次郎(しんじろう)の三色そぼろ丼』……?」


たくさんの弁当や軽食、ドリンクのメニューが貼り出された売店だった。


「選手プロデュースの球場メシってヤツだね。これも球団経営の貴重な収入源だよ」

「へぇー、今は食べれるんです?」

「食べれないんです」

「なぁんだ。じゃあ用は無いですね」

「私達が何しに来たのか忘れたんかボケ」


踵を返した桃子の頭を紡がはたく。


「じゃあ早く済ませて下さいよぉ」

「私ね、こいつが無理矢理仕事について来たくせに興味無さそうにガタガタ騒いでる時、マジに殺してやろうかって思う」

「紡さん落ち着いて」


ついぞ悪霊調伏にもこんな敵意ある顔は向けるまいといった形相の紡だったが、つばきに促されてようやく調査に取り掛かる。キッチンに立ち入り、ここでもコンパスを取り出し方位を調べていたが、


「うん、問題無し。しっかり凶方に向けて立てられてる」

「今度は凶方ですか。さっきは吉方だったのに」

「今度は逆に悪い気を燃やしてくれるから凶方がいいんですよ。似たような理由で水回りやトイレも凶方がいいとされています。流してくれるってことで」

「はえー」

「なんなら土公神(どくしん)の札まで貼ってあって、しっかりしてるよ」

「独身? なんですかその結婚出来なさそうなのは」

「陰陽道の土の神様で、一般に竈の神様です。……桃子さんいつかバチ当たり……もう当たってるか」

「なんですかその哀れなものを見る目は!」

「あは?」



 今は桃子に問題があるかどうかよりスタジアムに問題があるかどうかである。先程つばきが言ったように水回りを確認する。先にトイレを確認し、今はシャワールーム。


「どうですか紡さん?」

「うーん、確かにここもトイレも凶方を狙って配置されてはいないね」

「じゃあ決まりですかね?」

「うーん……」

「どうしたんですか」


紡は軽くシャワー室を見回す。


「別にカビてるわけでもないし……、そこまで気が停滞しても澱んでもいない。なんと言うか」

「言うか?」

「こんなことで球団ボロ負けくらいの不運を呼んでたら、世の中の人は木の下で暮らすしかない」

「なるほど」



 紡達はグラウンドに出た。青い空の下、祖父江がマウンドから嶋に投げ込んでいる。


「わぁ! プロのピッチングですよ!? すごいなぁ!」


野球に興味の無い桃子が興奮しているのに、ファンのはずの紡の方がどうでもよさそうに見もしない。


「祖父江選手は外野手だよ」

「あぁ、遊んでるだけ……」


嶋と祖父江もこちらに気付いたようだ。


「どうですか陽さん、何か分かりましたか?」


一塁ベンチから一歩グラウンドに入ったところの一行に歩み寄って来る。


「いえ、まだなんとも」


紡は軽く首を振ると、改めてグラウンドを見渡す。青い空流れる雲を眺めながら、


「スタジアムだから当然風通しもいい。気が濁る要素は無い……」


ブツブツ呟いている。


「空振りですか?」

「風水の所為ではないということですか?」


桃子と嶋が口々に聞くのを、紡はスッと手で制した。


「ちょっと外も見てみましょう」

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