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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第十七話 誰が為のものか
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四.住めば都?

 一行は今、カフェに腰を落ち着けている。チェーン系で七割くらいファミレスと化している感じのやつ。

テーブルには窓側に紡、その右につばき、紡の向かいに桃子で着席。

紡の前にはカプチーノ、つばきの前にはメロンクリームソーダとティラミス、桃子の前にはアイスココアとミートドリア。


「変な時間に食べるとリズム狂うよ」

「今日は寒いから、温かいのが欲しかったんですよ」

「ホットココアにしたら良かったのでは」


桃子は()()()()スプーンを動かし紡に尋ねる。


「しかしですね紡さん。神社がおかしいとかでなければ一体何が原因なんでしょう? 前回の牧原さんみたいにヤバい何かでも拾ったんですかね?」

「さぁねぇ、それは会ってみないと」


紡は取り皿が積まれている辺りをぼんやり見ている。かつてはそこにあった灰皿を懐かしんでいるのだろう。


「もし念やら拾ったのだとしたら、やっぱりマズいですかね?」

「ミートドリアが?」

「違いますよ! 実に美味しいです! じゃなくて、案件の解決にとってですよ」


紡はすぐには答えず、カプチーノの湯気をふーっと息で流す。


「どうしてかな?」

「どうしてって、いつも『相手が見えないと』って言ってるじゃないですか。何処ぞの誰ぞの念でも拾ったなら、もう相手分からないじゃないですか」

「そうだねぇ。『念』と言ったら、いつかのイタリアンでの案件覚えてる?」

「あぁ、あの松葉さんと熊代さんの包丁騒ぎですか?」

「そう、それ」

「すいません、バニラアイス一つお願いします」


つばきは会話に混ざって来ない代わりにデザートを追加している。


「あの時食べたアラビアータ、私達は平気で熊代さんには随分効いた。あれで分かるように、『念』とか『呪』にはただの『縁』と違って指向性というか、ある種の狙いがある」

「はぁ」

「だから特段才木息子さんを狙った『念』でもないなら、拾ってダメージがあったとして相手が分かってなくても、祓うことは難しくない。弱いから」

「なるほど……。ではもし、由縁のある恨みだったら?」


紡はカプチーノを一啜り。


「それは本人の周辺を探れば人間関係が見えて来るでしょ。桃子ちゃんの得意分野だ」

「得意ではないですけど……」

「ま、今回はそれがどっちか、()()()()そうでないのか判断する為にも本人に会ってみないとね」

「ということは……?」

「桃子ちゃん、息子さんの下宿聞いて来てよ」


紡が軽く言い放つと同時にバニラアイスが運ばれて来た。



「ここが息子さんの下宿です」

「ふーん、普通に大学の寮って感じ」

「それも家賃が安い方の寮ですね」


数日後、一行は京塔大学構内の学生寮、通称『吉野屋(よしのや)寮』の前に来ていた。桃子は本日勤務なのだが、パトロールということにして交番を抜け出している。堀川一条派出所とは京都御苑と鴨川を挟んでの、神宮丸太町(じんぐうまるたまち)から出町柳(でまちやなぎ)の間の界隈でそう遠い位置ではないのだが、それでもパトロールの範囲と言うにはやや苦しいか。


「さて、彼は何号室かな?」


紡はいかにも古く、ボロボロと言っても差し支え無い木造建築を眺める。ボトムスの色が薄いオレンジになっている以外は昨日と同じような格好をしている。


「二階に上がって突き当たり左の角部屋だそうですけど……。それはそうと紡さん、あなた今回カウンセラーってことで来訪するんですよ? その格好はなんですか」

「カチコチのスーツでも相手が緊張するから、砕けてるくらいでちょうどいいでしょ。それに」


紡はちらりとつばきの方を見る。彼女は今日もスクマーンだが、色はキャロットオレンジでエプロンは黒地に赤いサンパチェンスの刺繍がされている。


「あは、なんですか?」

「こんな子供連れてる時点でカウンセラーには見えない」

「確かに」

「じゃあ伸びましょうか?」

「伸びれるんですか……?」


つばき百八の秘密技は奥が深い(?)。



 敷地に入って建物を目指す。草臥(くたび)れた建物や道に散乱する、使っているのかゴミなのか判別つかない大量の物。そして学生達が出払っているのか何も無いから騒ぎもしないのか原因不明な静寂が一行を包み込む。


「廃村ものホラー映画作れそうだね」

「あは。人の住まいに失礼ですよ」

「でも紡さん、なんか下手な神社よりオーラありますよ? もはやここに何かヤバいのがいるんじゃ……」


紡はスンスンと鼻を動かす。


「確かに凄まじく深い『念』を感じるね」

「やっぱり!」

「モテない(くん)の」

「えぇ……」

「そりゃこんな下宿に女の子呼べないでしょうけど」


一行は建物の玄関に入り、表札を確認する。


「えー、えー、『二の八 才木』、間違い無いね」

「ですね」


大量のチラシや光熱費の料金やらが突っ込まれたままになっているポスト。表札やチラシの紙の端が薄汚れているのが非常にホラーな雰囲気ある。桃子はつばきを抱き寄せる。


「逆に冒険じみて楽しくなって来ましたよ私ゃあ」

「声震えてますよ?」

「桃子ちゃん一人で先行ってみる?」

「おおおお二人を置いて行けませんよ私には守る義務ががが」


紡はさっさと階段を登り始めている。聞いちゃあいなかった。恐怖を言葉にしたばっかりに足が竦み始めた桃子を、つばきが背中に回って力一杯押し進めようとする。



 二階の廊下に出た一行。先頭(強制)の桃子が角からそっと先を伺うように覗くと、廊下もごちゃごちゃのぐちゃぐちゃ。


「紡さん、よしんば巣食ってるのがモテない君の霊でも」

「勝手に殺すな」

「こんなところ住んでたらやっぱり影響するんじゃないですか? 『呪』的にも、そうでなくても精神衛生にも」


紡は桃子の横を抜けて廊下を角部屋へ進んで行く。彼女は背中で桃子に答える。


「確かにそれは大いにある」

「やっぱり!」

「でもここに関しては住人が好きで荒らしてるからあんまり関係無いでしょ」

「そういうもんですか」

「私だったら三日でビョーキになりますけどね」

「幽霊って病気になるんですか?」


紡はドアの前で立ち止まった。そこには『二の八』とだけ張り紙が。彼女は腰に手を当て桃子の方を振り返った。


「ま、桃子ちゃんの言う精神衛生も一理ある。だからカウンセリングを始めようね」

「衛生というか、エセなんですけどね。あは」


紡はつばきのほっぺを引っ張った。

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