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食と怪奇と陰陽師  作者: 辺理可付加
第十三話 神様の使い方
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急.

 夕方の諏訪学園大学駐車場。紡のクラシックカーのエンジンが掛かる。


「これで治まったと思いますが、何かありましたらご連絡下さい」

「はい。ありがとうございます」


小園と太田が深々と腰を折る。


「そういうのは、ちゃんと成果を実感していただいてから」


紡は見送りの挨拶を切り上げるとアクセルを踏んだ。小園と太田が未だ頭を下げるのが段々小さくなる中、二人の後ろから駅伝チーム達が駆け出してワーワー手を振ってくれた。


「しっかり挨拶しましょうよ。あんな雑に切り上げて」


意見する桃子を、紡はジロリと横目で見る。


「仕事が控えてる桃子ちゃんの為に一刻も早く京都に帰ろうってのに、飛騨(ひだ)辺りで大遊びしてやろうか?」

「勘弁して下さい」

「あは。飛騨牛食べたくありません?」

「食べたいけどダメです!」


桃子の背後で悪魔の囁きをするつばきは、先程太田に何処行ったのか聞かれた際にはホテルで待たせていると誤魔化した。なおホテルに迎えに行ってもツーシーターに三人目が乗らないことは誤魔化せていない。


「しかし紡さん、あの神様は単純に『チームが優勝出来るよう力添え下さい』で他のチームに祟るとは、とんでもない奴でしたね」

「とんでもないけど、純なお方だったね」

「事故まで起こして純ですか!?」


紡はチッチッチッと人差し指を振った。


「基本神様はみんな純だよ。ただそこに神徳やご利益があって、それを行使するだけ。そこに善悪を色付けるのは人間サイドさ」

「ダイナマイト、掘削するか、人に投げるかみたいなことです」


つばきちゃんその補足はどうなんですか……、しかし桃子は最近、紡よりつばきの方がツッコんだらキリが無い場合もあると学習した。


「つまり使い方の問題、と」

「そう」


紡は興が乗って来たようにハンドルを撫でる。


「そういう意味ではあの神様は寂れた(おの)が神社への久し振りの参拝客の願いに、持てる神格の全てを以って答えようとしただけなんだよ」

「でも使い方って言ったらそれこそ、彼女は他所を襲うよう祈ったわけじゃありませんよ?」

「ふふん、でもここは諏訪だから」


紡はハンドルを指でトントン叩く。


「前にも聞きましたけど、諏訪がなんなんですか」

「前に『諏訪方面は業界でもホットな地域』って言ったけど」

「はい」

「何がホットってそれは、『ミシャグジ様信仰』なんだ」

「お食事タダ?」

「おっと、そんなこと言っていいのかな? ミシャグジ様は今日に伝わる日本でも指折りの祟り神だよ?」

「ひえっ」


桃子の方を向いた紡は口元だけ笑っているが、目が笑っていない。蛇みたいな凍り付く目をしている。


「そ、そんな怖い顔しないで……」

「ミシャグジ様信仰は他の祟り神である大将軍や千鹿頭(チカト)神と重なりながら、東は千葉や北関東、西は近畿まで幅広く勢力を持った土着信仰なんだ。諏訪はそのホームグランド、祟り神信仰のメッカなんだよ。祟り神を祀る社なんていくらでもあるし、あんな人が来ない神社ですら力を保てるだけの信仰が得られる」

「つまり今回の神様も祟り神だったと?」

「そう。祟り神に『力添えを』なんて祈ったから神は自分が出来る『祟り』という方法で協力してあげようとしただけなんだ」

「はえー、そこだけ聞くと少し可愛げもあるような」


紡は同意するような、そうでもないような曖昧な笑顔を浮かべる。言うなれば愚かでそこが可愛い子を呆れて見るような。


「ところで紡さん、それまでずっと諏訪学園の誰かが禁忌を犯したと思って捜査してたのに、突然富士見を気にしたタイミングがありましたよね? あれは?」

「いやまぁ、長野商科大学の件も併せて十分状況証拠はあったけど、ビビッと来たのは桃子ちゃんがつばきちゃんのコーヒーにシロップ飛ばした時かな?」

「??」

「要は自分でシロップ入れなくても事故で入ったみたいに、彼ら以外の誰かのやらかしで累が及んでる可能性もあるなって。一見呪詛じゃないからその可能性を排除して考えてたけど、アレでようやく気付いた」

「へぇー」


なるほど分かるような分からないような、それより桃子には疑問がまだ山程ある。


「あの学生さんを神社に連れて行く時、『思うところがあるんじゃないか』みたいなことで説得してましたけど、あれはどういう?」


紡は赤信号を見て軽く唇を尖らせる。


「そんなのは簡単だよ。部活の練習中の大学生にトラックが突っ込んだらニュースになるでしょ普通。自分がどう見たって怪しいオーラ満載の神社でお祈りした後にそんな話耳に入ったらナイーブな発想になるもんさ」

「待って下さいよ。そもそも紡さんは私に『最初に話し掛けた態度で狙って呪詛した人じゃないと分かった』的なこと仰ってましたけど、実際は会う前から『そんなんじゃないと思う』みたいな予想立ててたじゃないですか。『諏訪だから』とか言ってましたけど、諏訪だから祟り神に詳しい人がやったとか思わなかったんですか?」

「Ha-ha!」


紡は高らかに笑う。と同時に車が青信号で発進した。


「私も確証があって言ってたわけじゃないけど、色々見てる内にそんな気がしてさ」

「色々って何を」

「神社で祭神の神格無視して勝手なこと祈ってる絵馬を見て『案外今回のことを引き起こした人も相手が祟り神だと理解せずに祈っただけなんじゃないか』って。後は桃子ちゃんにした話を思い出したり」

「私にした話?」

「酢豚のパイナップル、雛人形。これも正しく理解していない人が多いもの」

「あーあー」


紡は話を締め括るように、夕日に染まったキメ顔をした。


「まぁモノの用途はちゃんと確認してから使おうね。実はこっそり祟り神かも知れないから」

「あは。まぁ日本の八百万の神の多くは自然信仰とアニミズムからなる、自然や災害を『祀るから祟ってくれるな』と神にしたものも多いので、結構祟り神ウジャウジャなんですけどね」

「そもそも神道の神はみんな荒魂と言って祟り神じみた側面を持ってるしねぇ」

「えぇ……」


霊能者達のトンデモ補足で若干ゲンナリした桃子の気持ちと連動するように、空はオレンジからマジックアワーへ。夕暮れがもうすぐ終わる。

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